2021年4月上旬、中国新疆ウイグル自治区における強制労働問題を巡り、ユニクロを含む4社が仏NGOなどに告発された。ウイグル族への虐待行為に対する国際的な批判が高まっている現在、「ファッション産業全体が加担している」という人権擁護団体の訴えが、問題の解決に向けた具体的な動きを促すことはできるのだろうか。

「世界中の綿製品の5分の1」がウイグル族の強制労働の産物

ファストリも新疆綿に「ノーコメント」 なぜ日本はウイグル族強制労働に反対できないのか
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中国委員会が2020年3月に発表した報告書によると、最大180万人のウイグル人やカザフ人、キルギス人、その他のイスラム教徒が、新疆ウイグル自治区の拘留所および強制労働収容所に拘束されている。中国政府は虐待の事実を否定し続けているが、そこでは日常的に強制労働や拷問、不妊手術など、ありとあらゆる非人道な行為が繰り広げられているという。その非人道な行為の一つが、過酷な環境における綿花生産だ。

世界最大の綿花生産国である中国で生産された綿花の84%、そして世界中で販売されている綿製品の5分の1が、新疆ウイグル自治区で生産されている。つまり、強制労働と人権侵害による産物である。これらの綿や糸は、バングラデシュ、カンボジア、ベトナムなど、他の主要な衣料品生産国へと輸出され、安い賃金で雇われた縫製工場の労働者が「世界のアパレルブランド」のために、テキスタイル(織物)製品に加工する。

ユニクロ会長「政治的には中立な立場でやっていきたい」

メディアの報道によると、「ウイグル人の強制労働から利益を得て、人道に対する罪を隠蔽した」として告訴されたのは、ユニクロ、スペインのインデックス(Inditex)、米スケッチャーズ(Skechers)、仏SMCPグループの4社だ。告訴したのは、ウイグル・ヨーロッパ研究所や新疆ウイグル自治区のキャンプで拘束されていたウイグル女性などである。告訴の目的は、中国におけるウイグル人の強制労働にこれらの企業が関与している証拠を、フランス当局に提供することだ。

4月上旬、決算会見の場でこの問題に対して問われたファーストリテイリングの柳井会長は、「われわれはすべての工場、すべての綿花(の生産や労働環境)を監視している。問題があれば取引は停止している。これは人権問題というよりも政治問題であり、われわれは常に政治的に中立だ。政治問題にはノーコメント」と発言した。

この発言が同氏の本心かどうかは、甚だ疑わしい。ユニクロは一貫して、「自社の製品は新疆ウイグル自治区で製造されていない」と主張している。しかし、新疆ウイグル自治区で起こっていることは、今や国際問題に発展している。仮に、ユニクロとウイグル人の強制労働が無関係だったと立証できたとしても、「ジェノサイド(大量虐殺)」に間接的にでも関与している可能性を、「人権問題というより政治問題」と一言で片付けてしまえるものなのだろうか。

人権団体「ファッション産業全体がウイグル族の強制労働に加担」

劣悪な労働状況を黙認しているのは、告発された4社だけではない。新疆ウイグル自治区の強制労働を終わらせるための連合(The Coalition to End Forced Labour in the Uyghur Region)は、「事実上、アパレル産業全体が、ウイグル人やトルコ人のイスラム教徒の強制労働から、利益を絞り出している」「多数の大手アパレルブランドが中国企業と戦略的パートナーシップを維持し、繊維生産を拡大するために政府からの助成金を受けるなど、ウイグル人の強制労働の恩恵を受けている」と、厳しく批判している。

国際人権団体である反奴隷制インターナショナル(Anti-SlaveryInternational)も、「あらゆるハイストリートブランドや高級ブランドが、ウイグル人への非人道的行為に加担するリスクを冒している可能性が高い」と述べた。

AP通信や中国議会執行委員会などが調査実施後に、ウイグル族の強制労働と関連があると判断したアパレル企業のリストには、アバクロンビー&フィッチ、Amazon、adidas、H&M、IKEA、Nike、MUJI(無印)、Puma、ポロ・ラルフ・ローレン、パタゴニアなど、多数の有名ブランドが名を連ねている。

H&M、IKEAなど、綿の輸入を廃止

ウイグル人権プロジェクトのオマール・カナト事務局長は、「国際ブランドは、ジェノサイド政策に自社が関与している可能性を自問する必要がある」と呼びかける中、一部で取り組みに向けた具体的な動きが見られる。

サステイナブルな綿花産業の構築を目指すスイスの非営利団体ベター・コットン・イニシアチブ( BCI)は、新疆ウイグル自治区の綿関連企業へのライセンスを一時停止した。そのほか、英国などでも同自治区からの綿の輸入を禁止する圧力が高まっている。

このような潮流を受け、H&M、IKEAは同自治区からの綿花の購入を廃止する意向を発表した。カルバン・クラインとトミー・ヒルフィガーを所有するPVHコーポレーションは、同自治区内で衣服や布地を生産する、あるいは綿製品を使用する工場とのすべての取引関係を停止する予定だ。

その一方で、4月28日現在も、強制労働との関連性を否定し続けているMUJIやユニクロのような企業もある。労働者の権利コンソーシアム(WRC)のエグゼクティブディレクター、スコット・ノヴァ氏は、「自社の契約している新疆ウイグル自治区の農場や工場が、強制労働に関与していない」と断言するアパレルブランドについて、「事実を認めたくないだけか、誤った情報を与えられている」とコメントした。

根本解決に向け、ファッション業界全体で人権問題に取り組むことが必要

一部のアパレル企業がようやく重い腰を上げたのは、ポジティブな兆しである。しかし、サプライチェーンを断絶したり、現実から目を背けたりするだけでは、根本的な問題の解決は期待できない。労働者の人権が尊重されていない環境を包括的な視野から特定し、調査、改善するためには、ファッション産業全体の協力が不可欠である。企業のサスティナビリティ活動が重視されている現在、製品のリサイクルや環境に優しい素材の採用だけではなく、製品の製造工程における人権の尊重や労働環境の改善も重要な課題であるはずだ。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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