本記事は、相馬一進氏の著書『ぼくたちに、もう社員は必要ない。 ひとり社長のビジネス拡大戦略』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
カリスマ社長ほど、社員を思考停止させる
これは、私のセミナーに来てくれたある経営者の話です。
その人は、SEOを使ったウェブメディアを運営していました。SEOとは自社サイトを検索エンジンで上位に表示させることです。そこから記事を読んでもらうことで広告収入が発生するビジネスモデルでした。
その人は優秀な人で検索エンジンにも明るかったので、勉強し続けて検索エンジンで上位表示できていました。私もウェブメディアを運営し、月間100万ページビューを獲得していましたから、検索エンジンについてはそれなりに詳しく知識があるほうです。そんな私が見てもその経営者のSEOの知識は群を抜いていました。
その人からの相談はこういう内容でした。
「社員が誰も自分で考えてくれない。何があっても私に意見を求めてきて、自分で考えて物事を進めることができない」。
SEOには「正解」があるわけではなく、毎回テストし続けるしかありません。なぜなら、グーグルなどの検索エンジンはアルゴリズムを公表していないので、実際にテストした結果から、アルゴリズムを想像するしか方法がないからです。
「テストしてみるしかないにもかかわらず、『正解』を社員が求めてくる。テストしてみてほしいと言っても、どうやってテストすればいいかを考えられる社員がいない。結局、『社長の気に入ったやり方でいきましょう』と話が決まってしまうのが本当につまらない」とこぼしていました。
なぜ「つまらない」のか? 社員を自分の思う通りに動かしたいという自己愛の強いダメ社長もいますが、優秀な人ほど他の人の意見に耳を傾け、より良い意見を出そうとするものです。
しかし、社長がカリスマ化すればするほど、周りの人は思考停止に陥りがちです。「社長が言うことは『正解』だから、言うことを聞いていればいい」と考えるからです。
結論から言うと、その会社はその後、変化しました。さまざまな情報を社内で公開するようにしたら、状況が変わっていったのです。
具体的に言うと、ウェブメディアのページビューがどうなっているのか、ユーザーがどれくらい来ているのかなどのデータを社員に公開したり、社長が知っているSEOの情報を公開したりして情報を共有したのです。
すると、社員は数多くの判断材料が手に入るようになり、自分たちで少しずつ考えてくれるようになっていったそうです。
それから約1年が経過し、ある程度難易度が高いタスクでも、社員が自分で考えて行動できるようになったと報告をいただきました。
つまり「周りの人は何も考えてくれない」というのは、社長がカリスマ化していたり、社長にだけ情報があって周りの人には判断材料がなかったりすることがほとんどなのです。
もしかしたら、あなたが周りを思考停止させてしまっているのかもしれませんね。
社長が権力を握るほど、会議が多く長くなる
起業家になるような人は、多かれ少なかれ権力を握りたい欲求があるのではないでしょうか。何でも自分が決められる権利を持っていると、人は心地良さを感じるものです。
自己決定理論と言いますが、「自分で何でも決められる権利(裁量権)」は私たちのやる気と大きな関係があります。
たとえば社長のように何でも決められる人に比べ、末端の社員は裁量権が小さい。そうすると社長や役員のほうが人生の幸福度が高く、健康寿命も長くなります。
イギリスのロンドン大学がストレスと死亡率の関係を解明する目的で1967年からおこなってきた公務員対象の疫学調査があります(被験者は、ロンドンの官庁街で働く約28,000人)。
ここで明らかになったことですが、職位での上位層(裁量権の多い人たち)と下位層(裁量権の少ない人たち)では、死亡率に少なくとも2倍以上の開きがありました。
また『選択の科学』の著者、米コロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授はこのように言います。「自分で自由に決められる権利がある感覚は、働く人のやる気を喚起し、仕事や人生の満足度を高めるうえで非常に重要な役目を担っている」と。
このように、自分が何でも決められる権利を持ちたいのは、人間としてあたりまえの欲求です。
しかし、ヒエラルキーはしばしば問題を引き起こします。
たとえば、権力や報酬と引き換えに、社長は会議の数が非常に多くなってしまいます。なぜなら、ヒエラルキー組織の下位層は決定権がないからです。
その結果、難しい問題は社長がすべて決めなければなりません。必然的に、決定するための会議が必要になります。ですから社長の権力が強いところほど、会議の回数が多く会議時間も長くなります。
これは、社長がその問題を作っていることを認識しない限り、改善しません。「毎日、毎日、会議ばかりだよ」と不平を口にしている社長は、「私は権力欲がとても強く、人の上に立とうとしているので、こういう状況になっている」と言いふらしているようなものです。
一方で、ヒエラルキーが強い会社で見られる別の問題は、末端の社員ほど「私は、会社から信頼されていない」という意識になっていることです。
あらゆることを自分一人では決められず、会議の場で「上」の決定を待つことになるからです。これでは、末端の社員は自己決定感が非常に低く、仕事の充実度も下がってしまいます。
私の会社エッセンシャルではそういうことがないように、仕事を依頼しているフリーランスの人にも、私と同じような決定権を持てるようにしています。
それは、たとえば会社の価値観を決めるときでも、高額な決済をするときでも、私と同じような裁量権を持っています。だから、私のチームメンバーはとても自己決定感が強いはずです。
このように、メンバーに裁量権を与えることは、社長にとっても、メンバーにとっても、働きやすい会社を作ることにつながるのです。