本記事は、相馬一進氏の著書『ぼくたちに、もう社員は必要ない。 ひとり社長のビジネス拡大戦略』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
副業どころか複業を認める
言うまでもなく現代は、価値観が多様化している時代です。
昔、情報ソースがテレビしかなかった時代は、テレビが伝えている価値観が、唯一絶対的な価値観でした。それ以外のものは、ごくわずかな少数派の意見でした。
たとえば、ビートルズが来日すれば、テレビはビートルズ一色だったと言われていました。しかし今の音楽シーンを見ていると、実に多様なジャンルの曲が流れています。このように音楽ひとつとってみても、非常に多くの価値観が存在しているのがわかります。
多様化は、会社での働き方にもいえます。時間が経過するとともに、どんな分野でも多様化が起きるからです。
1つの会社で働くのは、もはや前時代的な価値観です。
価値観が多様化し、「いろいろなところで働いてみたい」「さまざまな形で収入を得たい」と思う人が増えています。
会社の側も、副業を認めるところが増えてきています。
それを象徴するような出来事に、2019年10月にみずほフィナンシャルグループが兼業や副業を認める新人事制度を導入したことが挙げられます。
その大きな理由の1つは、財政的な事情です。同行は2017年にはすでに構造改革の一環として、10年間かけて19,000人の人員削減に踏み出す方針を打ち出しています。つまり、その時点で「会社が一生社員の面倒を見る」という前提が崩れたわけです。
その一方で、会社に対する個人の意識が大きく変わったことも、理由として明かされています。
社員を社内に縛り付けることで、有能な人材が獲得できなくなるリスクに対しての危機感があったといいます。あるいは、そうしたがんじがらめの環境を嫌って社員が退職していくことを懸念したのでしょう。
今後も、より多くの会社が副業を認めるようになるでしょう。これは働き方の価値観が多様化する現代において、不可逆かつ不可避な流れです。
そして、さらにその先には「副業」どころか「複業」が認められる社会になっていくのではないかと私は予想しています。
要するに、会社勤めが「主」で副業が「副」である関係ではありません。2つ以上のビジネスに携わっていて、どちらも「主」であるという意味の「複業」です。
私たちのチームでも、エッセンシャルのチームだけで働いているメンバーもいれば、複数の仕事を掛け持ちしているメンバーもいます。
私にとって、それはどちらでも良いことだと考えています。なぜなら、グラデーション組織だからです。ただ、どちらかと言えば、複数のところで働いているほうが望ましい。
その複業先で得られた知見をエッセンシャルに持ち帰ってもらえれば、私たちのチームの業績がより良くなると考えているからです。
もちろん、それぞれの会社で秘密保持契約は結んでいるでしょうから、情報は流出しません。他の仕事で得たさまざまな価値観から、エッセンシャルの中で価値観の多様性が生まれることを期待しています。それによって新しい商品や新しいマーケティングを仕掛けるときにも、より有利になると考えているのです。
ところが、2018年のリクルートキャリアの調査によれば、7割の会社はいまだに副業禁止だそうです。
副業禁止の理由で最も多いのは、「社員の長時間労働・過重労働を助長するため」が44.8%(複数回答)。ついで「労働時間の管理・把握が困難なため」(37.9%)、「情報漏えいのリスクがあるため」(34.8%)と続きますが、いずれもまっとうな理由ではありません。
法律で副業禁止が決まっている公務員ならいざしらず、なぜ多くの会社は副業を認めないのでしょうか。
その答えは簡単で、「井の中の『社員』、大海を知らず」の状態を作るためです。社員に他のビジネスをさせなければ、会社という小さな井戸の中に閉じ込めておくことができます。そして、社員を社内でだけ競争させることで、会社の成長のための歯車にしようとしているのです。
もし社員が大海を知ってしまったら、他の会社に転職してしまったり、独立されてしまったりします。
いずれにしても、社員の自己実現はどうでもよく、会社の保身のために副業を禁止している会社が多いと言えるでしょう。
そうでなければ、副業をここまで多くの会社が禁止する理由にはならないでしょう。今後、「副業を禁止する社長は器が小さい」と思われるようになるかもしれませんね。