持ち株を証券会社に貸し出せば、金利収入が手に入る。それが「貸株サービス」です。その名は聞いたことがあっても、実際に利用したことがある個人投資家はそれほど多くはないでしょう。

貸株は信用取引のための制度です。「信用取引」と聞いただけで、警戒する個人投資家も少なくないでしょう。しかし現物取引だけを行う個人投資家でも、貸株サービスは利用しやすく、リスクも大きいとはいえません。

本記事では貸株サービスの基礎知識と、そのメリットとデメリットを解説し、さらにネット証券各社ごとの貸株サービスの特徴を紹介します。

目次

  1. ほぼノーリスクでリターンが得られる「貸株」サービスのメリット
  2. 貸株サービスのリスクは?
  3. 貸株サービスの基礎知識
  4. 長期保有銘柄で金利を稼ぐ
  5. ネット証券でも貸株サービスが利用できる
  6. まとめ:持ち株の意外な活用法。低リスクな「貸株」で利益を得よう

ほぼノーリスクでリターンが得られる「貸株」サービスのメリット

株初心者が成功するために注意すべきこと9選
(画像=Chris Titze Imaging/stock.adobe.com)

貸株サービスとは、保有する株券を証券会社経由で投資家に貸し出し、対価として金利収入等を受け取るサービスです。

投資家が信用取引市場で信用売り(空売り)する際は、証券会社に貸株料を支払い、株を調達します。証券会社の保有する株だけで不足する場合、証券会社は一定の金利を投資家に支払い株券を借り、信用売りを希望する投資家に貸し出します。そのほかには、証券会社が他の証券金融会社に担保金を支払い、株式を借りて、不足分を調達することもあります。

投資家が受け取る貸株の金利は銘柄にもよりますが、10%を超えるものも珍しくありません。たとえば楽天証券の場合、2020年11月現在で年利回り1%以上は539銘柄に上り、10%以上も7銘柄あります。金利が10%を超えるような銘柄は、時価総額と出来高が小さく、流動性も低いものが大半です。

▽楽天証券の貸株金利1%以上の主な銘柄

コード 銘柄名 貸株年利
3906 ALBERT 14.00%
3990 UUUM 13.25%
7048 ベルトラ 12.75%
2191 テラ 11.25%
3053 ペッパーフードサービス 11.25%
3686 ディー・エル・イー 11.25%

また、貸し出した銘柄でも、普通の株と同じように売却が可能です。貸株であっても、オンラインで売りを入れれば自動的に貸株は解除され、注文が立ちます。金利は、約定日から3営業日目分まで加算されます。

貸株サービスのリスクは?

信用取引に付随するサービスだけに、それなりのリスクも伴いそうな貸株サービスですが、意外なほどリスクは小さく、貸株に回すことで受ける制約もそれほど大きなものではありません。

貸株サービスのリスク

株や債券など証券会社に預けてある資産は、投資者保護基金によって補償されています。しかし貸株はこの保護対象に含まれないため、証券会社が倒産しても弁済されません。なるべく大手の証券会社を利用しつつ、その経営状況には常に注意を払うことが大切です。

一方で貸出先が破綻した場合には、証券会社が責任をもって期日までに貸株を返却します。仮に遅れた場合には、約款に基づき遅延損害金が支払われます。

NISA口座や信用取引が受ける制約

NISA(少額投資非課税口座)は売買益・配当等を非課税とする制度であり、貸株金利は対象外です。NISAで保有する株式を貸株に回すこともできません。

信用取引を行っている場合も、証券会社によっては貸株サービスの利用に制限を設けているケースがあります。

配当や株主優待は?

貸株サービスでは、株の名義が借主に移転します。そのため株主総会での議決権を失うだけでなく、株主優待や配当金も受取れません。

ただし配当金の代わりに、配当金相当額(配当額-源泉徴収税額)を証券会社から受け取れます。ただ、この所得区分は配当所得ではなく雑所得扱いとなるために、源泉徴収税額そのものは変わらないものの、配当控除など税制上の優遇を受けることはできません。

このため、証券会社では権利確定日にのみ名義を元に戻すコースも用意しています。このコースを選べば、株主優待と議決権をともに享受でき、配当金も受け取れます。ただし1日分の貸株金利は受け取れないので、どちらがより得になるかは投資家自身で判断しなくてはなりません。

「コーポレートアクション」が生じた場合

コーポレートアクションとは、発行企業に生じた重要な変化のことで、合併や解散、株式併合などが起きた場合は、貸株も自動的に返還されます。ただし社名変更や決算日変更などでは返還されません。

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貸株サービスの基礎知識

貸株サービスの金利や受取金額はどのように決まるのでしょうか。対象銘柄や利用条件を選択するにあたっての手続きなどとあわせて解説します。

貸株金利が高くなる理由

銘柄によっては年10%を超える貸株の高金利を負担しているのは、信用売りを行う売り方(売る側の主体のこと。買う側は「買い方」)です。通常の信用売りでは、売り方は株を貸してくれる証券会社に貸株料を支払います。返済期限と品貸料(しながしりょう:株式が不足した際に、買い方が売り方に支払う調達費用)が定められている「制度信用取引」で1.15%、期限も品貸料も証券会社が決められる「一般信用取引」では1.4%となっています。

ところが、返済されずに残った「売り残」が積み上がって貸株が不足した場合、証券会社は機関投資家や他の証券金融会社から不足分の株を借りることになります。この際に発生する手数料が「逆日歩(ぎゃくひぶ)」です。逆日歩の値段は取引翌営業日の入札によって決まり、金額や発生の有無は信用売り注文をした段階ではわかりません。貸株超過数(信用売りによる貸株数-信用買いによる融資株数)が膨らむほど逆日歩も上昇し、貸株金利に影響する傾向があります。

一般的な銘柄は融資株が貸株を上回ることが多くなりますが、貸株超過が起きているような銘柄は空売りを浴びせられ、大きく値下がりする傾向があります。このような銘柄を保有する投資家は早めに売って損失リスクを避けたいと考えるので、保有期間が延びる貸株には消極的になり、結果として貸株金利は高くなるというわけです。

貸株金利は証券会社のサイトに掲載されており、毎週更新されています。

受取金額の計算方法

貸株金利の受取額は下記のように日割りで計算されます。

1日分の受取額=貸出した株数×終値×貸株金利(%)÷365日

たとえば500万円の株式を、利率1%で1日貸し出した場合の金利は、500万円×1%÷365日=137円ですが、1年間貸し出すと金利は500万円×1%=5万円です。貸株は1日単位なので短期で売買を繰り返している投資家でも利用できますが、長期で株を保有しているとさらにメリットが大きくなります。

対象銘柄

証券会社によって設定は異なりますが、「指定した銘柄を貸し出す」「すべての銘柄を貸し出す」「新規取得分のすべてを貸し出す」などから選択すると自動的に貸し出しが実行され、金利収入を受け取ることができます。

貸株サービスを提供する多くの証券会社は、整理ポスト等を除く全上場銘柄(3,000社以上)を対象としています。松井証券は対象銘柄を絞っている代わりに、最低金利を年0.2%(他社は0.1%)と高めに設定しています。

株主優待・配当などの設定

たとえば楽天証券では、「金利優先」「株主優待優先」「株主優待・予想有配優先」からコースを選択できるようになっています。これらの選択肢も証券会社ごとに異なります。

長期保有銘柄で金利を稼ぐ

株価が低迷したまま売り時を逃して、塩漬けになっている銘柄などは、貸株に回すことで金利収入を得て、含み損を減らすことができます。塩漬け株に限らず、当分は手放さない予定の長期保有株も、貸株に回すことで運用効率が上がる可能性があります。

長期継続保有の優待特典を獲得するには

長期保有株を貸株に回す場合、注意をしたいのが「長期継続保有優遇制度」の対象となる銘柄です。株主優待を提供する企業のなかには、一定期間ごとに優待メニューをランクアップするところもあります。たとえば自社製品の詰め合わせが3年以上の保有で2倍になる、といったパターンです。

ところが、貸株に回すと名義から外れるため、保有期間が途切れてしまいます。このような場合は、優待の上限を越えている部分を貸株に出すことで、優待と金利収入を両立できることもあります。配当金は保有株式に比例して受取額が増えますが、株主優待では、通常は1株主当たりの保有株式100~2,000株程度が上限となっているため、優待上限を保有と貸株の境目とみなすこともできるのです。

ネット証券でも貸株サービスが利用できる

楽天証券、SBI証券、松井証券、マネックス証券、auカブコム証券の大手ネット証券会社のすべてが貸株サービスを提供しています。申し込みは各社のホームページ上からでき、その日のうちに、または翌日から利用可能です。

各証券会社のサービスを比較すると、下図のようになります。

▽主なネット証券各社の貸株サービス比較

SBI証券 楽天証券 マネックス証券 auカブコム証券 松井証券
貸株サービス
信用取引との併存
代用有価証券の貸し出し ×
金利1%以上の銘柄数 500銘柄以上 500銘柄以上 200銘柄前後 200銘柄前後 500銘柄以上
最低金利 0.1% 0.1% 0.1% 0.1% 0.2%

2020年11月からマネックス証券でも信用取引との併存が可能になり、全社で利用できるようになりました。

代用有価証券の貸し出し

代用有価証券とは、信用取引における委託保証金(担保)の差出にあたり、現金の代用として使える有価証券のことです。時価の80%前後が代用有価証券の評価額(掛け目)となりますが、手元に現金がなくても信用取引の枠を大きくすることができます。担保として差し出していない代用有価証券を貸株に回し、貸株金利を受け取ることもできます。

松井証券、楽天証券、マネックス証券の3社は代用有価証券の貸し出しを認めており、auカブコム証券は一部貸出金利を減額しています。SBI証券は代用有価証券の貸し出しを認めていません。

銘柄数と金利

金利1%以上の銘柄数は、松井証券、楽天証券、SBI証券が500銘柄を超えており、auカブコム証券とマネックス証券が200銘柄前後となっています。最低金利は松井証券が0.2%、他の4社は0.1%です。

また楽天証券では、メニューから「貸株金利優先」を選択すると、権利確定日に限り金利が5倍にアップします。

まとめ:持ち株の意外な活用法。低リスクな「貸株」で利益を得よう

配当などのインカムゲイン、譲渡益などのキャピタルゲインに比べると、貸株金利収入は投資家にはあまり知られていませんが、証券会社が倒産でもしない限りは低リスクの運用手法といえます。手続きも比較的簡単ですので、証券会社ごとのメニューや金利をチェックして、自分にあった貸株サービスを探してみましょう。

文・野口 孝雄
上場企業(大手日用品メーカー)にて、事業戦略・財務に携わる。とくに財務部門所属時には、株主総会運営・決算開示を経験、経営分析の力をつける。個人としての投資経験に合わせ、「投資される」企業側からの視点を加味した、独自の切り口によるコラムを真骨頂としている