老後の生活資金への不安から、資産運用に挑戦しようと考える方も増えています。株式や投資信託への投資を考える方ならぜひ知っておきたいのがNISA、つみたてNISA、iDeCoといった税制優遇制度です。それぞれどんな制度なのか、老後資金を貯めるためにはどれをどうやって活用すればいいのか、詳しく解説していきます。
目次
老後資金準備「貯金」だけでなく「資産運用」も検討すべき理由
自分が将来受け取れる年金や退職金の金額がわかっていて、それだけで暮らせそうならそれに越したことはありません。不足分があっても、貯金でまかなえるならわざわざ投資をする必要はないかもしれません。
でも、一時期「老後2,000万円不足」というニュースが世間を騒がせたこともありました。先が見通しにくい世の中で「本当に年金がもらえるのか?」「長生きした場合にお金は尽きてしまう危険はないのか?」など、年齢などに関係なく老後のお金に関して不安を感じている方は多くいます。
低金利のいまの時代、銀行の普通預金口座にお金を置いていてもほぼ増えません。しかし、運用に回せばお金を増やせるチャンスがあります。もちろん運用結果次第で減ってしまう可能性もゼロではありませんが、10年、20年と長い目で見て投資をする、投資先や投資額を工夫するなどリスクを抑える方法はあります。
▽毎月1万円ずつ積み立てたときの増え方(単位:万円)
元手資金が大きいほど、運用利回りが高いほど、運用できる期間が長いほど、お金を増やしやすくなります。年金、退職金、貯金だけに頼るのではなく、今余裕のあるお金を資産運用に回すことで効率よく老後資金の準備を進められます。
NISA、つみたてNISA、iDeCo、それぞれの特徴
資産運用に取り組むなら、国が用意している税制優遇制度についても知っておきたいところです。NISA、つみたてNISA、iDeCoはいずれも投資を促すために設立された制度で、通常は約20%かかる税金が非課税になるなど大きなメリットがあります。それぞれの特徴を見ていきましょう。
NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の税制優遇とは
株式や投資信託では、運用を続けていくと配当金、分配金、譲渡益などの利益が得られますが、それには通常約20%の税金がかかります。NISAでは1年あたり1人120万円の非課税投資枠が、最長5年に渡って与えられ、その範囲内で投資した分には税金がかかりません。つまり、NISAを利用すれば、株式や投資信託を購入して利益が出た場合の税金が一定の枠の範囲内で非課税になります。
20%の税金がかかるのとかからないのとでは、手元に残るお金がかなり変わってきます。せっかく運用するならこの制度をうまく活用し、少しでもお金を増やしたいところです。
つみたてNISA(ニーサ)の税制優遇とは
つみたてNISAは、投資で得られる利益が非課税になるという点ではNISAと同じです。違うのは、その非課税枠や非課税期間などの条件です。
「つみたて」と名がついていることからもわかる通り、つみたてNISAでは長期間に渡ってお金をコツコツと積み立てていく投資を応援する制度です。そのため、非課税枠は1年間に1人あたり40万円とNISAより少なく、一方で非課税期間は最長20年間とNISAよりかなり長く設定されています。
また、NISAは日本株、外国株、投資信託、ETFなどさまざまな投資が対象になりますが、つみたてNISAは金融庁が「長期・積立・分散投資に適している」とした投資信託だけです。
iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の税制優遇とは
iDeCoは、自分が将来受け取る年金を自分で用意しようという趣旨の制度です。将来受け取れる金額は、自分が選んだ投資先の運用成果次第で変わります。NISAやつみたてNISAと違って、用途が「老後の資金準備」に特化している制度です。
老後資金としての利用のため、iDeCoに投入したお金は原則60歳まで引き出すことができません。その代わり、NISAのように投資の運用益が非課税になるだけでなく、投資に回したお金の全額が所得控除になる、将来受け取るときも「公的年金控除」や「退職所得控除」の対象になるといった特徴があります。
以上、NISA、つみたてNISA、iDeCoの税制優遇について説明をしました。以下、まとめてみましたので、確認しましょう。
▽NISA、つみたてNISA、iDeCoそれぞれの税制優遇の特徴まとめ
NISA | つみたてNISA | iDeCo | |
税制優遇 | 投資の運用益が非課税 | 投資の運用益が非課税 | ・投資の運用益が非課税 ・掛金の全額が所得控除 ・受け取り時も控除あり |
非課税金額 | 年間120万円 | 年間40万円 | 月額1万2,000円~ 6万8,000円 (職業などによる) |
非課税期間 | 最長5年間 | 最長20年間 | 60歳まで |
投資できる銘柄 | 株式投資信託、国内外の上場株式・ETF・REIT(不動産投資信託)、ETN(上場投資証券)、新株予約権付社債(ワラント債) | 金融庁が「長期・積立・分散投資」に適していると認めた投資信託、ETF | 定期預金や保険などの 元本保証商品、投資信託(1金融機関あたり数本~40本程度から選べる) |
お金の引き出し | いつでも可能 | いつでも可能 | 原則60歳まで不可 |
NISA、つみたてNISA、iDeCo、それぞれのメリットとデメリット
国が用意している3つの税制優遇制度、NISA、つみたてNISA、iDeCoそれぞれのメリットとデメリットを整理しておきましょう。
NISAのメリットとデメリット
NISAのメリットの1つは、1年間に投入できる金額が大きいことです。非課税枠が最大年120万円ですので、40万円のつみたてNISAや14万4,000円~81万6,000円までのiDeCoよりまとまった資金での運用が可能です。
また、ほかの2つと違って選べる投資対象が投資信託以外にも豊富にあるのも特徴です。毎月決まった日に決まった額を積み立てるのではなく、自分のタイミングで任意の金額を投入できることもあり、投資の自由度が高いといえるでしょう。
一方、NISAのデメリットとしては「損益通算」ができないことが挙げられます。通常の投資では、運用成績がマイナスになったとき、ほかの口座の投資商品で利益が出ていた場合に損益を相殺できますが、NISA口座では損益通算ができません。運用に失敗した分はそのままマイナス(損失)となります。
また、NISAでは非課税期間が終わったら、そのとき保有している銘柄をNISAではない通常の投資用口座に移すことができます。この移動をしたときの時価をもとに、その後の税金が計算されます。そのため、もし非課税期間のあいだにその銘柄が値下がりしていて、別の口座に移した後で値上がりした場合、それが最初の購入価格よりまだ低い金額でも「利益が出た」として課税の対象になってしまいます。
つみたてNISAのメリットとデメリット
つみたてNISAは、特に初心者に利用しやすい制度といえます。つみたてNISAで推奨されている長期・分散・積立投資(長い期間に渡って、さまざまなジャンルのさまざまな銘柄に一定の間隔で一定の金額をコツコツと投入していく投資)は、リスクを抑えつつ簡単に取り組める王道的な投資方法です。
投資先は、「販売手数料ゼロ」「信託報酬(運用にかかる費用)が一定以下」など金融庁が定めたいくつもの基準をすべてクリアした投資信託から選べます。
つみたてNISAは一度設定してしまえばあとは自動的に毎月購入されます。そのため、タイミングを図ったり何度も購入の手続きをしたりする必要がないのも無理なく継続的に取り組めるポイントです。
さらにつみたてNISAは月100円から始めることもできます。いきなり運用にお金をつぎ込むのは怖いという方も「お試し」感覚で始められる点もメリットでしょう。
一方、つみたてNISAもNISA同様、損益通算や繰越控除はできません。また、投資先のラインアップが限られていることは、いろいろな選択肢から選びたい人にとってはデメリットといえます。
iDeCoのメリットとデメリット
iDeCoはNISAやつみたてNISAにはない税制優遇が受けられます。普段支払っている所得税が多い方ほどその恩恵が大きくなりますので、「運用」より「節税」目的で始めるという方も多いです。
たとえば年収1,000万円の40歳の方が20年間に渡って毎月2万円ずつiDeCoに投入した場合、1年間の節税額は7万2,000円、20年間の合計節税額は144万円にもなります。(金額は概算です。ほかに受ける控除の額などによって変動することがあります。)
運用がうまくいってお金が増えても運用益は非課税ですし、受取時にも控除が適用され税金の負担が軽減されます。入口、途中、出口、すべてで税金が優遇されるのがiDeCo最大のメリットです。
一方、iDeCoのデメリットは、60歳までお金を引き出せない流動性の低さです。毎月の積立額は変更もできますが、年1回だけです。途中で収入が下がっても、子どもの進学や入院などで大金が必要になっても、自分が投入したお金なのに使いたいときに使えません。
また、NISAやつみたてNISAにはかからない手数料がかかるのもデメリットです。手数料の金額は加入時に2,829円、運用時に171円~(金融機関による)、受取時に1回440円などです。
どの制度を選ぶべき?自分に合う方法を選ぶには
3つの税制優遇制度は、それぞれ異なる特徴を持っています。あらかじめ自分に合った制度を選択する必要があります。
NISAに向いている人
- まとまった資金を投資したい
- 株式投資がしたい
NISAは積極的に投資にチャレンジしたい方に向いています。つみたてNISAやiDeCoの枠では足りず、もっと大きな金額で運用したいという場合や、日本株や外国株の個別銘柄など投資信託以外にも投資したい場合に便利な選択肢となるでしょう。
つみたてNISAに向いている人
- 投資先をある程度絞られたなかから選びたい
- コツコツ投資をしたいけど、何かあったときのために動かせるお金にしておきたい
つみたてNISAは100円から始められること、商品が投資信託に限られていることなどから、「投資をやってみたいけどまだ不安がある」という方に向いています。原則、引き出しができないiDeCoと異なり、自分のタイミングでお金を引き出せる点も魅力です。比較的リスクが少ないつみたてNISAからスタートして徐々に投資経験を積んでいくという使い方ができます。
iDeCoに向いている人
- 老後資金を確保したい
- 金銭的に余裕がある
iDeCoに向いているのは、ずばり「老後資金の準備をしたい方」です。なんといっても、NISAやつみたてNISAにはない税制上のメリットが魅力です。特に比較的お金に余裕のある方は、60歳まで引き出せないデメリットを感じにくく、年収が高いと所得税率が高いぶんiDeCoの節税メリットを強く感じられるのではないでしょうか。
2つの制度を組み合わせることもできる
NISA、つみたてNISA、iDeCoの利用を考えるとき、利用する制度は1つに絞らないといけないわけではありません。以下のような組み合わせなら、2つの制度を併用することができます。
・NISA+iDeCo
併用例:iDeCoを上限額まで利用して老後に備えつつ、まだ投資に回せる余裕資金を使ってNISAで株式投資に取り組む
・つみたてNISA+iDeCo
併用例:iDeCoには60歳までお金が引き出せないデメリットがあるため、iDeCoは老後への備えプラス節税策として利用。一方でいざというときにお金を自由に動かしやすい、つみたてNISAにも分散投資し、リスクを抑える
NISAとつみたてNISAはどちらか一方しか利用できません。自営業の方などは、老後資金を準備するための制度として「国民年金基金」や「小規模企業共済」がありますので、あわせて検討するとよいでしょう。
NISA、つみたてNISA、iDeCoはどうやって始める?
NISA、つみたてNISA、iDeCoを活用した投資を始めたいと思ったら、次のような手順を踏みます。
手順1:利用する制度と予算を決める
先述の各制度のメリット、デメリット、向いているタイプなどを踏まえて、どの制度を利用するのか決めます。次に、その制度を使っていくら投資するのか考えましょう。
その制度で利用できる枠(投資可能額)いっぱいまで商品を購入するというのも1つですし、自分の経済状況や投資経験によってはまずは様子見で少しずつ購入額を増やしていくというのもいいでしょう。
なお、つみたてNISAの積立額の変更はいつでもできますが、iDeCoの積立額変更は年に1回までしかできません。NISAはいつでも購入・売却ができますが、売却した分の非課税投資枠が空くわけではありません。一度上限まで投資して全部売却したら、次は来年の枠が使えるようになるまで待たないと非課税になりませんので注意しましょう。
手順2:運用する商品を選ぶ
投資というと株式投資というイメージをお持ちの方も多いですが、投資信託も初心者に人気があります。高いリターンを求めればリスクも高くなり、リスクを抑えれば期待できるリターンも下がるのが投資の原則です。
どんな投資をしたいのか、いつまでにいくらくらい増やしたいのか、どれくらいのリスクまでなら許容できるのか考えて、自分の目的に合った銘柄を選びましょう。
手順3:金融機関を選んで口座を開設する
投資先を選んだら、次はその投資を実行できる金融機関を選びます。証券会社で口座開設する方が多いですが、各社で取り扱っている商品の種類やラインアップ、手数料、使い勝手、サポート体制などが違います。いくつか比較して選ぶようにしましょう。
最近は手数料が安く、開設から購入・売買などすべてオンラインで完結できるネット証券で口座開設する人が増えています。
どんな投資をしたいか考えて、自分に合った制度を選ぼう
NISA、つみたてNISA、iDeCo、この3つには明確な優劣があるわけではありません。どれが最適なのかは、選ぶ人の家計の状況や価値観などによって変わります。それぞれの制度の違いを把握して、自分に合った制度と運用方法を選びましょう。
文・馬場 愛梨
所属・ばばえりFP事務所 代表
関西学院大学商学部卒業後、銀行にてクレジットカードやカードローン、投資信託などの金融商品を扱う窓口営業に従事。 その後、不動産会社や保険代理店での勤務を経て、独立。 お金にまつわる解説記事を数多く執筆。保有資格:AFP、証券外務員一種、秘書検定1級