近年、スマートシティが注目を集めている。ビジネスチャンスをうかがう経営者には、見過ごせないプロジェクトもあるだろう。
今回は、スマートシティの定義や意味をはじめ、国内の自治体が取り組む事例、海外で実施されているプロジェクトなどを紹介する。
スマートシティとは?
国土交通省は、スマートシティを次のように定義している。
“都市の抱える諸課題に対して、ICT等の新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区”
また、大手シンクタンクであるNRI(野村総合研究所)は、スマートシティを次のように定義している。
“都市内に張り巡らせたセンサーを通じて、環境データ・設備稼働データ・消費者属性・行動データ等の様々なデータを収集・統合してAIで分析し、更に必要な場合にはアクチュエーター等を通じて、設備・機器などを遠隔制御することで、都市インフラ・施設・運営業務の最適化、企業や生活者の利便性・快適性向上を目指すもの”
各定義をふまえるとスマートシティの意味は、快適に住めるように最新テクノロジーを取り入れたエリアだ。SF小説で描かれる近未来的な都市を想像するとイメージしやすい。
スマートシティを支える最新技術
スマートシティでは、膨大な情報を収集・分析する。情報収集では、センサーから各種データを集める「センシング」がポイントとなる。
センシングで地震を検知したり、人や車の流れを把握したりすることで、課題解決の具体的なヒントが得られる。
ちなみに現在は、温度や超音波、画像、電流など、数多くのセンシング技術がある。
また、センシングで得られた情報を照合・チェックする「認証」も、スマートシティを支える技術だ。膨大なデータを効率的かつ正確に認証しなければならない。
本人確認もいずれは、指紋や虹彩、顔による生体認証に切り替わっていくだろう。
スマートシティで期待される機能
スマートシティで期待される主な機能は下記の通りだ。
・ドローンによる荷物配送
・顔認証によるキャッシュレス決済
・公共交通機関の自動運転
・AIによる交通渋滞の事前予測
・高齢者や幼児の安全を確保する見守りシステム
・ドローンやAIによる農業の自動化
・ビッグデータの分析による災害予測
・時間帯や天候にもとづく観光情報の受信
・アプリによる健康アドバイス
・センサーによるゴミ回収や除雪の効率化
・太陽光発電による省エネルギー化
スマートシティが注目される背景
スマートシティが注目される背景には、急激なテクノロジーの進歩がある。たとえば、モノのインターネット化(IoT)や人工知能(AI)、ビッグデータなどだ。
スマートシティの実現が求められる理由
各テクノロジーは私たちの生活を豊かにしているが、すべてを有効活用しきれているわけではない。最新テクノロジーをまちづくりにフル活用するのがスマートシティの構想だ。
また、都市への人口集中もスマートシティの実現が求められる理由である。各地自体がスマートシティ化を進めることで、地方の人口を増やせるかもしれない。
ただ、政府はこれまで地方活性化に向けたさまざまな取り組みを実施してきたが、東京一極集中の状況はそう簡単には変わらない。人口が集中した都市部で快適な暮らしができるよう、スマートシティ化を進める必要もある。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、DX(デジタルトランスフォーメーション)の動きも加速した。
DXとは、データとデジタル技術をベースに組織の変革を実現することをさす。今、あらゆる業界にDX化の波が押し寄せている。その影響もスマートシティへの関心が高まる要因といえよう。
スマートシティの国内事例4つ
日本では、スマートシティの実現に向け官民一体となって取り組むために、「スマートシティ官民連携プラットフォーム」が発足した。プラットフォームには、関係府省や地方自治体、企業、大学・研究機関など、さまざまな組織が参加している。
「スマートシティ官民連携プラットフォーム」の公表データをもとに、スマートシティ実現に向けた国内事例を4つ紹介していく。
国内事例1.東京都江東区
江東区では、清水建設株式会社や三井不動産株式会社の協力を得て、AIを活用した防災の取り組みを実施している。
具体的には、住民による情報や画像をSNSで収集する防災情報発信サービスの構築や、収集した情報をAIで解析して迅速な状況把握を行うAI防災訓練などがある。
国内事例2.福島県会津若松市
会津若松市では、大手コンサルティング会社アクセンチュアの協力を得て、市民・観光客・移住者・事業者が参加するデジタルコミュニケーションプラットフォームを推進している。土台となるビッグデータプラットフォームでデータを収集し、まちづくりへと活かしていく。
プラットフォームでは、ICTを活用した教育を導入したり、ブロックチェーン技術で地域通貨を発行したり、さまざまな取り組みを促進している。また、会津大学ではアナリティクス人材の育成にも取り組んでいる。
国内事例3.京都府
京都府は、西日本電信電話株式会社の協力を得て、高齢者の生活支援を実施している。
具体的には、マイクやスピーカーなどのAIデバイスを高齢者住宅に整備し、日常の話し相手や健康相談、薬の服用、食事管理を支援している。
また、街区間の公道を時速20キロメートル未満で移動できるグリーンスローモビリティを導入し、音声で手配できるよう実証実験を進めている。
国内事例4.島根県益田市
益田市は、鳥獣被害を監視するため、農家と連携して監視センサーを設置した。2019年には、鳥獣監視センサーのIoTネットワークへの接続に取り組んでいる。
また、水路水位センサーによってデータを収集し、浸水を予測するシステムも検討している。
スマートシティの海外事例4つ
スマートシティの実現を目指す動きは、日本国内に限った話ではない。海外でもスマートシティ実現に向けたさまざまなプロジェクトが行われている。
スマートシティの実現に貢献できる商品・サービスを開発できれば、世界でシェアを拡大できるかもしれない。スマートシティに関する海外の事例を4つ紹介するので、ぜひ参考にしてみてほしい。
海外事例1.ニューヨーク(アメリカ)
ニューヨークではオープンデータ法を制定し、収集したデータを市民に公開・提供し、民間のデータ活用を推進している。
公衆電話をWi-Fiスポットに置き換えたり、ビルや施設をネットワークでつないで地域動向をリアルタイムで分析したりするプロジェクトもある。
今後、大気状態のモニタリングや交通渋滞の解消、ごみのリサイクル評価などの実現も目指していく。
海外事例2.リスボン(ポルトガル)
観光都市として有名なリスボン(ポルトガルの首都)は、スマートシティ実現に向けた取り組みで注目を集めている。
リスボンでは、データを統合管理する「リスボン・インテリジェント・マネジメント・プラットフォーム」により、AIやIoT技術で街中から収集したデータを分析し、市民や観光客によりよいサービスを提供できるよう努めている。
たとえば、市内にある2,000個のゴミ箱にセンサーを設置し、満杯になると通知されるようにした。満杯になったときだけ収集すればよくなり、ごみ収集が効率化された。
海外事例3.コペンハーゲン(デンマーク)
コペンハーゲンでは、センサーをオフィス街や住宅街の一角に設置し、温度や汚染物質の分布を計測する実証実験を行った。
また、Wi-Fi端末を通じて自動車や自転車の位置情報を収集し、気象情報などのパラメータと渋滞状況の相関関係を分析している。CO2の削減や交通渋滞の改善が期待できるだろう。
海外事例4.シンガポール
シンガポールは、データ回収を進めるとともに、データ活用サービスを幅広く開発している。たとえば、家庭内の公共料金を見える化するアプリや、交通費の支払が可能なウェアラブル端末などだ。
また、個人的な受診記録を管理できるツール「Health Hub(2016年リリース)」は、18,000人のユーザー登録数を達成した。
スマートシティのビジネスチャンスに備えよう
スマートシティの実現に向けて、世界中でさまざまな取り組みが行われている。今はまだデータの収集や分析にとどまっている事例も多いが、本格的にスマートシティが稼働する未来はそう遠くないだろう。
最新テクノロジーが次々と登場し、私たちの社会は大きな変化にさらされている。未来の社会を予測し、ビジネスチャンスを逃さないように備えておきたい。
文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)
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