所得税を計算する際に、他の所得とは区別して税金を計算する「分離課税」がある。分離課税には、源泉徴収のみで済むものや確定申告が必要なものもあるため注意が必要である。
この記事では、分離課税に分類される4つの所得の具体的な内容や、具体的な計算方法、分離課税の申告方法について解説する。
分離課税とはどういった税金か
分離課税とは、所得税や住民税を計算する際に他の所得と区別し、それ独自の税率で税金を計算するものである。
総合課税との違い
通常、所得税や住民税は、給与の所得や事業の所得等複数の種類の所得について、総所得金額を元に計算する総合課税である。しかし、分離課税では、他の所得金額とは合算せずに税額を求める。
分離課税の納税2種類
分離課税の納税には以下の2つがある。
・1.源泉分離課税:源泉徴収で済ませる分離課税
・2.申告分離課税:確定申告が必要な分離課税
源泉分離課税は、源泉徴収されることによって納税が終わるが、申告分離課税については確定申告をした上で納税する。
ただし、必ずしも片方のみではなく、株式の譲渡所得のように源泉徴収して納税を終わらせるものでも、確定申告によって申告分離課税を適用できるものもある。
・総合課税の所得と通算できる場合もある
分離課税のもとで課される税金については、原則として他の所得とは無関係に税金の計算を行う。しかし、場合によっては他の所得と通算して計算することがある。
分離課税の例1:利子所得
利子所得とは、銀行預金や債券(一部例外あり)の利子や利息、公社債投資信託の収益の分配などにかかる所得のことを指す。
利子所得に対しては、税率20.315%(所得税・復興特別所得税:15.315%、住民税:5%)の税金が課される。
分離課税の例2:上場株式の配当
配当所得は、株式会社の配当金など、株主や出資者の立場で法人や投資信託などから受ける剰余金や利益配当のことである。
配当所得の中の上場株式の配当金は、原則として総合課税であるが、分離課税にもできる。分離課税にした場合は、さらに確定申告をする場合と申告しない場合に分けられる。
確定申告せずに終わらせる場合
上場株式の配当金については、確定申告をせずに源泉徴収のみで終わらせることも可能である。
証券会社の口座にある場合は、口座ごとに源泉徴収のみで終わらせるか、あるいは確定申告するかが決められる。そうでない場合は、銘柄ごとに判断することとなる。
確定申告をする場合
上場株式の配当金を確定申告をすることもできるのは、分離課税とした場合には上場株式の譲渡損との損益通算が可能なためである。
なお、配当所得は総合課税にできるが一部に適用することはできないため、申告する場合は、全部を分離課税とするか全部を総合課税とするかのどちらかを選ばなければならない。
分離課税の例3:上場株式の譲渡所得
上場株式を売却したときの利益(譲渡所得)についても、分離課税となっている。
上場株式の譲渡所得の申告は通常、確定申告しなければならないが、特定口座で源泉徴収するものについては、源泉徴収のみで課税を終わらせることもできる。
なお、税率はいずれの場合であっても、所得税・復興特別所得税は15.315%であり、住民税は5%である。
分離課税の例4:退職所得
退職に際して支払われる金銭である退職所得は、分離課税となる。ただし、納税については『退職所得の受給に関する申告書』という書類の提出の有無によって扱いが異なる。
申告書が提出されている場合の所得税の計算
『退職所得の受給に関する申告書』を提出している場合は、源泉分離課税となり、一定の源泉所得税を控除した上で残額を支払うことで課税関係が終了となる。
所得税の源泉徴収額は、以下の方法によって計算される
まず、退職所得の金額として以下の計算式で算出する。「(退職金-退職所得控除額)×1/2」を
退職所得額= (退職金-退職所得控除額)×1/2
この内、退職所得控除額については、以下の計算によって求める。なお、障害者になったことを事由として退職した場合は、退職所得控除額に100万円が加算される。
また、退職所得の計算の際、最後に「2分の1を乗じる」こととなっているが、役員等のうち、その勤務期間が5年以下の場合は、役員として受け取る退職金の部分については「2分の1にしない」こととなっている。
次に、退職所得の金額に税率(金額によって異なり、最低5%から最高45%)を適用して源泉税額を求める。
・申告書が提出されていない場合の所得税の計算
『退職所得の受給に関する申告書』の提出がなかった場合は、退職金に対して一律「20.42%」の源泉徴収を行い、確定申告で改めて調整を行う。
なお、この場合であっても基本的には分離課税で計算されることに代わりない。
住民税の計算
所得税の他に源泉徴収によって住民税も課されることとなるが、以下のようにして決められる。
住民税における退職所得の金額として、所得税と同じ以下の計算式を適用する。
退職金額=(退職金-退職所得控除額)×1/2
所得税の場合と同様、役員のうち、その勤務期間が5年以下の場合は役員として受け取る退職金の部分については「2分の1にはしない」。
退職所得額を算出した後は、「都道府県民税:4%」「市区町村民税:6%(東京都の場合)」の税率を適用して、都道府県及び市区町村に納付する。
住民税の場合、ここで課税関係は終了する。
分離課税の例5:不動産における譲渡所得
不動産を売却して利益が出た場合、利益金は譲渡所得として扱われる。
譲渡所得は、通常の動産については総合課税として他の所得と通算する。しかし、不動産における譲渡所得については、分離課税となるため他の所得と分けて申告する。
譲渡所得に対する税率は、所有期間によって以下のように異なる。
なお、10年以上所有しているマイホームに関しては、6,000万円までの部分について以下のように軽減される。
所得税率と復興特別所得税の合計として:10.21%
住民税として:4%
分離課税の申告方法
それでは、分離課税の申告はどのように進めればいいのだろうか。既述の部分もあるが、ここでまとめて解説する。
申告が不要なケース
源泉分離課税の場合、源泉徴収で納税が完結し、確定申告が不要(確定申告ができない)なものがある。この場合、税金を納める側は何もせず、源泉徴収する側がすべての手続を行う。
例えば、利子所得のうち、預金利息等が該当する。
申告が不要だが申告できるもの
源泉分離課税で源泉徴収され、確定申告しなくてもいいものの、場合によっては申告できるものがある。
他の所得と合算できるもの
源泉分離課税とされているものを確定申告の対象とする他のメリットとして、損益通算などにより税務上有利になる場合がある。
「退職所得」については、事業所得など他の所得にかかる損失と損益通算できる。退職所得以外の所得が赤字の場合、退職所得を申告すれば、退職所得について源泉徴収された部分が還付されたり支払う所得税が軽減されたりする。
「上場株式の配当金」については、分離課税として申告にすることによって上場株式の譲渡損失と相殺できる。
また、性質は違うものの、不動産所得について譲渡損となった場合は申告しなくても問題はないとされている。
しかし、マイホームを売却して損失となった際、売価が住宅ローン残高を下回った場合や新しくローンを組んで物件を買い替えた場合は、他の所得と通算して申告することで税金を軽減できる場合がある。
また、所得に制限があるものの、引ききれなかった損失について3年間繰り越すこともできる。
分離課税の申告が必要なもの
分離課税であるものの、申告が必要となるものもある。
不動産にかかる譲渡所得については、少なくとも所得が発生すれば、特例などの利用によって所得税が免税になるとしても申告しなければならない。
特殊な申告が必要な分離課税
住民税においても、分離課税を行えることがある。その際に、分離課税の対象となるものについて、所得税と住民税で違った申告が可能な場合がある。
典型的な例
典型的な例が、上場会社の株式の配当所得だ。具体的には、所得税の申告は総合課税を選択し、住民税の申告は源泉分離課税を選択することで、税金面で有利にできる場合がある。
所得税では、税金の配当控除と組み合わせることで、総合課税を選択した方が源泉徴収するよりも税金が低くなる場合がある。しかし、住民税は税率が一定なので、上場会社の配当については源泉徴収を選択した方が税金の面で有利になる。
この方法で申告するためには、所得税と住民税とで、配当所得の項目以外がほぼ同じ申告書を2つ提出する必要がある。しかし、自治体によっては配当所得の部分のみについて異なる扱いをするように届け出るだけで済む場合もある。
詳細は、管轄の自治体に問い合わせてもらいたい。
分離課税を理解し適切に申告しよう
分離課税について、該当する以下の4つの事例について解説した。
・利子所得
・上場株式の配当
・上場株式の譲渡所得
・退職所得
分離課税については、源泉徴収のみで済む場合と確定申告が必要なものがあるため、まずはその違いを理解して欲しい。特に、退職所得に関しては、『退職所得の受給に関する申告書』の有無によって納税額に違いがあるため注意が必要だ。
分離課税の確定申告に際しては、損益の通算ができる場合があるだけでなく、所得税と住民税で異なる特殊な申告があるので、本稿を参考に理解を深めて欲しい。
文・中川崇(公認会計士・税理士)
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