新型コロナウィルスによる緊急事態宣言をきっかけに広がったテレワークですが、やってみて課題も見えてきました。テレワークの課題をどのように改善すればよいのでしょうか。サテライトオフィスの需要が伸びている現状とあわせて考えます。

テレワーク勤務の現状

テレワークをやってみてわかったこと、課題をどう解決するか
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

はじめにコロナ禍のいま、テレワーク勤務の現状はどのようになっているのかを確認しておきましょう。東京都が行っている「テレワーク導入実態調査」の結果によると、コロナ禍の前後でテレワークの導入状況は下表のように変化しています。

▽テレワークの導入率

導入の状況2019年度調査2020年度調査
導入している25.1%57.8%
今後予定あり20.5%16.4%
導入予定なし53.7%25.8%
無回答0.7%0%

出典:東京都「テレワーク導入実態調査結果」

2019年度に比べ、コロナの感染が拡大した2020年度はテレワークを導入した企業が倍以上に増えています。半面、導入を予定していない企業も1/4程度あるので、テレワーク導入に何らかの障害があることも考えられます。

では、出社の形態はどうなっているでしょうか。総務専門誌「月刊総務」が行った「総務のリモートワークの実態」という調査によると、「緊急事態宣言中の総務のリモートワーク実施状況」という項目で、「交代制で毎日ではないが週に数回出社した」という答えが40.0%に対し、「完全にリモートワークだった」はわずか1.6%にとどまっています。完全にテレワークへ移行した人は少数で、オフィス勤務を併用しながら試行錯誤している実態が浮かび上がっています。

テレワークと生産性

テレワークを実施した場合、気になるのは生産性の向上につながるかどうかです。総務省が従業員100人以上の企業を対象に実施した「平成28年通信利用動向調査」によると、テレワークを導入していない企業の1社当たりの労働生産性が599万円に対し、導入している企業は957万円と大きな違いが出ています。

テレワークで生産性が上がる理由として考えられるのが通勤時間の削減です。通勤に往復2時間かけていた社員にとっては、その分を仕事に振り分けられるため労働生産性が向上すると考えられます。また、オフィス勤務であればすべて自分のペースで仕事をするのは難しいですが、テレワークは余分な雑務を頼まれることもなく、エアコンの温度や昼食の時間など自分にあった職場環境にすることができます。快適な環境を作ることによって生産性の向上が見込めます。

一方でコミュニケーション不足になることで生産性の低下につながるという見方もあります。Unipos株式会社が2020年4月に行った「テレワーク長期化に伴う組織課題」という意識調査によると、「生産性が高くなった」という回答が7.6%と少数だったのに対し、「チームとしての生産性が低下した」が44.6%と半数近くに達しています。

テレワークをやってみてわかった課題

コミュニケーション不足以外にも、テレワークをやってみて見えてきた課題がいくつかあります。1つは自宅での勤務状況がわからないことです。何時に仕事を始めて何時に終えたかを正確に把握することは難しいでしょう。社員の健康管理も心配です。オフィス勤務であれば仕事中の喫煙は禁止にできますが、自宅では喫煙しながら勤務していないかを監視することはできません。通勤がなくなることで歩行の減少による体力低下という問題もあるでしょう。また、自宅では明確な終業時間がないため、割り当てられた仕事を仕上げるために長時間労働になる恐れもあります。

次に人事評価の面でも課題が見えてきました。管理職は社員の勤務態度や仕事の過程を見ることができず、成果のみで判断しなければなりません。成果主義になることで、社員が人事評価に不満を持つ可能性があります。さらにテレワークにできない部署の社員に不公平感があるという課題もあります。往復の通勤時間をかけ、コロナへの感染リスクを抱えて出社している社員にとってはテレワークをできないことに不満を覚えるのも無理はないでしょう。

もう1つ、明らかになった課題がハンコ文化の弊害です。前出した「月刊総務」の調査で「緊急事態宣言中のリモートワーク期間に総務が出社した理由」で「契約書等の押印」が60.3%を占めています。テレワーカーにとってハンコをもらうことが効率を妨げている理由として浮かび上がっています。

テレワークの課題をどのように改善するか

企業はテレワークの実施でわかった課題をどのように改善したらよいか、考えなくてはなりません。方法はいくつか考えられます。

テレワークを成功させている企業の事例を見ると、テレワークとオフィス勤務を併用することで生産性の向上につなげています。テレワークを週2~4日とし、オフィスに勤務する日もあることで課題だった同僚や上司とのコミュニケーションをとることができます。出社日に書類のハンコをもらうという方法にすればテレワークの難点の1つを解消できます。

社員の勤務時間の把握に関しては、インターネットの「勤怠管理システム」を利用して管理する方法があります。パソコンやスマホなどインターネットに接続する環境があれば、社員はどこからでもリアルタイムで勤怠を報告することができます。高度なシステムになると休憩・昼食時間など細かな計算を自動で行うものもあるので、自社の実情に合わせたアプリを選ぶとよいでしょう。

仕事のチームごとの進捗状況については、チャットアプリのタスク管理機能を使って共有することができます。無料で使えるアプリもあるので、導入するとコスト面も抑えられます。テレワークできない部署の社員については混雑した通勤電車を避けるために時差通勤を認めるなど、フレキシブルに対応して不満を和らげる工夫が必要です。

サテライトオフィスの需要が伸びている

テレワークとオフィス勤務の良い部分をあわせ持った勤務形態として、導入する企業が増えているのがサテライトオフィスです。日本経済新聞の報道によると、2018~2023年までのサテライトオフィスの年間平均成長率は10.1%と予測されています(IDC Japan調査)。

サテライトオフィスとは、企業の本社から離れた場所に衛星(サテライト)のように配置されたオフィスのことです。サテライトオフィスのメリットは、社員の働き方改革につながることです。本社中心の勤務だったときは往復2時間かけて通勤していた人もいたでしょう。たとえば、東京に本社がある企業が埼玉・千葉・神奈川各県にサテライトオフィスを配置すれば、3県に住んでいる社員はサテライトオフィスに勤務することで、大幅に通勤時間を短縮することができます。家庭環境によってテレワークが難しい社員がパソコンを持ち込んでサテライトオフィスでテレワークすることも可能です。

近年は高齢化やシングルマザーの増加で介護や育児と仕事を両立しなければならない社員もいます。自宅からできる限り近いサテライトオフィスで勤務できれば、保育園の送り迎えも楽になるでしょう。勤務環境がよくなることで離職率の低下につながるメリットもあります。

新型コロナウィルスによってテレワークの普及が進みましたが、テレワークへの全面的な移行は難しいことがわかってきました。しかし、「withコロナ」の時代にはかつてのように本社に大量の社員が勤務することは難しくなるでしょう。社員の分散を実現し、自宅に近いエリアで効率的に勤務できるサテライトオフィスは今後ますます普及することが予想されます。未導入の企業は、社内の事情に合わせて導入を検討してみてはいかがでしょうか。

(提供:spacible