ICOとは仮想通貨(暗号資産)の新規公開による資金調達の方法である。企業の資金調達方法としては、株式を新規公開するIPOが有名であるが、ICOは近年の仮想通貨の隆盛によって生まれた新しい手法だ。ICOとはどのようなものなのか、IPOとの比較や、企業側・投資家側双方から見たメリット、デメリットを説明しよう。

1,ICOとは?

ICOとは?仕組みやメリット・デメリット、IPOとの違いを徹底解説!
(画像=Visual Generation/stock.adobe.com)

ICOとはイニシャル・コイン・オファリング(Initial Coin Offering)の略である。まずはICOの基本的な解説を行っていこう。

ICOは「新規仮想通貨公開」のこと

ICOとは企業などが資金調達を行う目的で仮想通貨(暗号資産)を新規公開することを指す。資金調達を行う企業などはトークンと呼ばれる独自の仮想通貨(暗号資産)を公開し、投資家から資金を調達する。

ICOはIPO(新規株式公開)と比較すると分かりやすいだろう。IPOは企業が資金調達を目的として株式を新規公開する。ICOもIPOも資金調達という目的は共通であり、投資家に支払う対価が株式であるかトークンであるかという点で異なる。

ICOの仕組みと資金調達までの5ステップ

ICOの仕組みについてもう少し細かく説明しよう。一般的にICOで資金調達を行う企業などは次の5つのステップを踏むこととなる。

・STEP1,事前準備

企業などはICOを行うにあたり、公開を行うトークンの発行や、投資家に対するプロジェクトの説明資料であるホワイトペーパーの作成を行う。

・STEP2,特定の投資家へのオファー(プレセール)

一般の投資家へのICOのアナウンスを行う前に、特定の投資家を対象としたプレセールと呼ばれる事前販売が行われることがある。プレセールではトークンを安く販売することが多い。ただし、プレセールについては行われない場合もある。

・STEP3,一般投資家へのオファー(クラウドセール)

一般の投資家向けのオファーはクラウドセールと呼ばれる。ICOを行う企業などはインターネット上でホワイトペーパーなどを用いてプロジェクトの説明を行い、投資家を募る。

・STEP4,トークンの販売

ICOを行う企業などは購入希望者にトークンを販売する。投資家はビットコインなどの仮想通貨で代金を支払い、その対価としてトークンの所有者となる。

・STEP5,プロジェクトの開始

トークンの販売によって集めた資金をもって、企業などはプロジェクトを進めていくこととなる。投資家はトークンの対価として、あらかじめ定められた製品やサービスの提供を受けることができる。また、発行されたトークンが暗号資産取引所で取り扱われるようになれば、投資家は第三者への売却で利益を得ることもできる。

ICOで発行される仮想通貨「トークン」とは?

新規公開の際に発行されるトークンとは、直訳すると「しるし」や「記号」といった意味だ。仮想通貨に関する文脈でトークンという言葉が使われる場合にはブロックチェーン技術を活用した暗号資産を意味する。

ブロックチェーン技術とは分散型ネットワークで取引に関するデータを記録することで不正な取引を排除する仮想通貨の基板技術である。この枠組みを活用し、企業などによって発行された権利証がトークンと呼ばれる。

トークンは広義の仮想通貨であるが、ビットコインなどの仮想通貨と異なり、発行者や管理者が存在する。また、ICOで発行されるトークンの多くはユーティリティトークンと呼ばれ、企業のサービスなどの提供を受けることができるなど、独自の価値を付与されている。

2,ICOはどんなときに使うのか?発行者と投資家双方の目的

ICOを活用するのはどのような場合だろうか。その目的を発行者目線と投資家目線で考えてみよう。

発行者側は資金調達の幅や経営の自由度が広がる

発行者は資金調達を行う目的でICOを活用する。ICOを行うことで、多くの投資家からインターネットを通じて資金を集めることが可能となる。資金調達の選択肢として、株式の発行や借入といった従来の手法に加え、ICOが加わることで、企業経営の自由度を高めることが可能となる。

投資家側はサービスの受取と売却益が狙える

投資家はICOに参加し、トークンを保有することで経済的利益を期待できる。具体的にはトークンを保有していることで企業のプロジェクトが順調に進めば、あらかじめ定められた範囲において、それに係るサービスなどの提供を受けることができる。また、トークンが暗号資産取引所で取り扱われるようになれば、第三者への売却を行うことも可能となる。投資家目線で見れば、ICOは投資対象の一つと言える。

3.ICOとIPOの4つの違い

ICOはIPO(新規株式公開)と比較されることが多い。どちらも資金調達の手段であり、その違いは投資家における投資の対価がトークンであるか株式であるかという点である。両者の具体的な違いを4つ説明しよう。

違い1,議決権の有無

IPOで発行される株式は企業の所有者としての権利である。企業の所有者となれば、株主総会における議決権が付与され、企業経営に参画することが可能となる。また、配当金などを通じて企業の利益を受け取る権利も付与される。

一方、ICOで付与されるトークンには原則として株主総会における議決権や配当金を受け取る権利は付与されていない。投資家はあくまでもトークンであらかじめ定められた内容に係わる価値や権利しか受け取るができない。

違い2,公開に関するコスト

IPOでは上場にあたり、多くの審査や手続きが必要となり、多くのコストが掛かる。上場にあたっては監査法人による監査を受ける必要があり、また定められたフォーマットに基づく目論見書の作成など投資家保護のためのルールが整備されている。

ICOについては、2021年4月時点では発行に関する手続きは少なく、コストを抑えた資金調達が可能である。投資家保護のルールが未整備であることの裏返しでもあるが、企業にとってはコストを抑え、スムーズに資金調達を行うことのできる手法である。

違い3,オファーできる投資家の制限

IPOは原則として国内の取引所に上場し、国内の取引所の参加者によってのみ取引が行われる。大企業などでは海外の取引所へ上場するグローバルオファリングを行うケースもあるが、各国の取引所の上場ルールを満たす必要があり、またそれに係る資金や事務のコストも膨大なものとなる。

一方でICOには参加者に関する明確な規定はなく、国境を越えた資金調達が可能である。手続きもインターネットを通じて行い、コストも低く抑えられる。もちろん、世界中から資金調達を行う場合には、ホワイトペーパーなどを通じた募集活動が必要であるが、IPOと比べると守らなければならない規制は少ない。

違い4,調達資金の種類

IPOで調達する資金は原則として、法定通貨(日本円やドルなど)である。一方でICOについては仮想通貨での払い込みが原則であり、調達資金の種類が異なる。

4,ICOを行う企業の5つのメリット

企業がICOによる資金調達を行う主なメリットは次の5つである。

メリット1,返済や配当の支払いが不要

ICOで調達した資金については、返済や配当の支払いが不要である。IPOによる資金調達を行えば配当金の支払いを行う必要が生じ、借入による資金調達を行えば利払いや返済期限の順守といった制約が生じる。ICOによる資金調達ではそういった制約がなく、資金計画を立てやすい。

メリット2,企業経営に介入される心配がない

ICOで発行されるトークンには原則として議決権はない。企業は出資者による経営への介入を心配することなく資金調達ができる。

メリット3,低コスト、短期間での資金調達が可能

IPOでは投資家保護のためのルールが整備されており、基準をクリアするために多くのコストと時間が掛かる。ICOでは遵守すべき制約が少なく、低コスト、短期間で資金調達を行うこともできる。

メリット4,小規模な企業でも活用できる

IPOには形式基準と呼ばれるルールがあり、一定の時価総額や株主数、事業年数などを満たさないとならない。創業間もないベンチャー企業などでは現実的に活用が困難なケースも多い。

一方でICOには制約がほとんどなく、小規模な企業や個人でも活用できる。投資家から資金を調達するためにはホワイトペーパーの内容を充実させるなどの周知活動は必要となるが、2021年4月時点では原則としてIPOにおける形式基準のようにICOの実施自体を制限されることはない。

メリット5,国境を越えた投資家にアプローチができる

ICOはホワイトペーパーの発行から仮想通貨による払い込みまでの一連の工程をインターネット上で行うこととなる。そこには原則として国境という概念は存在しないため、世界中の投資家へアプローチが可能となる。

5,ICOを行う企業の2つのデメリット

ICOによる資金調達のデメリットも2つ挙げておこう。

デメリット1,投資家の信用を得ることが難しい

ICOでは投資家保護のルールが未整備であることが世界的な問題となっている。ICOによる資金調達が行われるようになった2017年以降、ホワイトペーパーで示されていたプロジェクトが実際に行われないなどの詐欺被害が多発したのである。ICOで投資家から信用を得るためには投資家保護のルール整備が重要であるが、対応状況は各国で異なっている。

海外には魅力的なホワイトペーパーを発行し多くの資金を調達した事例もあるものの、現状では多額の資金を調達するために、それに見合った信用を得るという行為のハードルは高いものとなっている。

デメリット2,今後の法整備によってルールが大きく変わる可能性がある

ICOによる資金調達は近年になって生まれた新しい手法であり、現状では各国の法整備が途上である。今後、法整備が進む中でICOに関するルールが大きく変わる可能性があり、ICOによる資金調達を検討する場合には、法整備の状況を注視する必要がある。

6,ICOを利用する投資家の3つのメリット

ICOを利用する投資家のメリットは大きく次の3つである。

メリット1,投資回収の方法を選択できる

ICOで発行されるトークンは一般的にユーティリティトークンと呼ばれ、企業のサービスなどの提供を受けることができるなど、独自の価値を付与されている。投資家はトークンに付与された価値を享受することで投資回収を行う選択肢を持つが、それとは別にトークンを暗号資産取引所を通じて第三者に売却するという選択を取ることもできる。投資回収の方法が複数ある点はICOの特徴であり、投資家における大きなメリットだ。

メリット2,小口での投資が可能

ICOは多くの案件で小口での投資が可能である。少額で国境を越えたプロジェクトへ投資が可能となるため、投資の幅が広がることとなる。

メリット3,大きな利益を期待できる可能性がある

ICOは投資したプロジェクトが成功すれば大きなリターンを得られる可能性もある。利益は保証されているわけではないが、従来にない選択肢が増えるという点ではメリットであろう。

7,ICOを利用する投資家の5つのデメリット

ICOを利用する投資家のデメリットは大きく次の5つである。

デメリット1,元本の保証はなく、大きな損失を被る可能性がある

ICOは大きなリターンの可能性がある反面、大きな損失を被るリスクもある。ICOで調達した資金は原則として返還不要である。元本の保証はされないので、安全性を重視したい人には向かない。

また、ICOは暗号資産取引所を通じて売買が行われるが、多くのトークンでは市場参加者は限られた人となる。株式市場よりも少ない参加者で売買を行うケースも多く、需要と供給のバランスが崩れやすいといった特徴もある。ICOはハイリスクハイリターンという性質の投資対象であるため、投資を検討する際は余裕資金で行うことが重要だ。

デメリット2,得られる情報が限られる

ICOの発行者はホワイトペーパーと呼ばれる事業の計画書を提示し、資金調達を行う。投資家にとってみれば、ICOを判断する材料はホワイトペーパーなど発行者が開示した限られた情報のみとなり、株式投資と比べると判断材料が少ない。

また、海外で行われるICOの場合には他の言語で記載されたホワイトペーパーから情報を得なければならない。更に、ICOに係るプロジェクトの進行状況についての報告も発行者によって異なるため、購入や売却の判断が非常に難しい。

デメリット3,ICO詐欺のような案件も存在する

ICOは2017年から活用されているが、資金を調達した後、ICOに係るプロジェクトが実行されないといった詐欺被害も数多く報告されている。ICOの発行者の中にはそうした悪意のある者も存在するということを前提に投資判断を行う必要がある。

デメリット4,発行者の経営やプロジェクトに参画できない

トークンには議決権などが原則として付与されていないので、ICOの発行者の経営やプロジェクトの進行についての参画や発言を行うことはできない。そのため、トークンを購入した後は事業者の動向に身を委ねるしかない。

デメリット5,投資家保護のルールが整備されていない

ICOについては、法整備が追い付いておらず投資家保護に関するルールが整備されていない。投資家はICOに関して自己責任の基に投資を行う必要があり、仮に事業者の過失や瑕疵に基づく損失を被った場合でも、民事でのやり取りを余儀なくされる可能性がある。

また、海外で行われるICOの場合には現地の法規制に従う必要があるが、各国でも法整備は途上であり、多くの場合、詐欺などにあった場合でも泣き寝入りを強いられてしまう。

8,ICOの動向や現状

国内外におけるICOの動向や現状について簡単に説明しておこう。

ICOは世界的にトーンダウン?

ICOの黎明期には多くのベンチャー企業などがICOによる資金調達を行い、仮想通貨市場の隆盛も相まって活況を呈した。一方でICOによる詐欺被害も多く報告されるようになった。近年においてはこの詐欺のイメージが強くなり、世界中で勢いはトーンダウンしてしまっている状況だ。

日本ではICOに関する法整備が進む一方で弊害も

各国同様日本においてもICOに関する法整備は進められており、2020年5月1日に施行された改正資金決済法などでは、ICOに関する法律の大枠が作られた。それによると、ICOで発行されるトークンのうち、企業のサービスなどの提供を受けることができるユーティリティトークンについては、原則として発行者が暗号資産交換業の登録を受けなければならないこととなった。発行者に暗号資産交換業の登録を義務付けることで、投資家保護を進め詐欺被害を減らす目的である。

しかし、暗号資産交換業の登録には審査のほか、資本金額が1,000万円以上などの形式基準もあるため、発行者がICOを行うハードルを大きく上げることとなった。ICOに関しては投資家保護を目的とした法整備は進んだものの、一方で発行者側に掛かる規制は強くなっている。

なお、ICOのうち、事業収益の分配金を受け取る権利を付与されたトークンなど、株式に性質が似ているものについては、金融商品取引法の対象となり、その枠内において投資家保護が進められることとなる。

9,ICOからIEOへ

ICOは企業の自由な資金調達を支援する画期的な枠組みであったが、その自由度の高さゆえ、投資家が不利益を被るケースも多くある。各国はICOの発行者のメリットと投資家保護の両立を図るため、法整備を進めているが、その中で新しく登場したのがIEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング:Initial Exchange Offering)だ。

IEOとはICOを行う企業の委託を受けた暗号資産取引所などの暗号資産交換業者が、対象となるトークンを発行元に代わって販売するという手法である。

暗号資産交換業者が発行元企業と投資家の間に介在することで、発行元の情報やトークンに係るホワイトペーパーなども交換業者が確認を行うことができ、投資家保護の促進につながると期待される。日本においては、ICOを行うにあたり発行者が暗号資産交換業の登録を行う必要が生じ、ICOのハードルが高いものとなった。IEOであれば登録された暗号資産交換業者へ委託する場合、発行元で暗号資産交換業の登録は不要である。

投資家保護とICOのメリットの両立を目指し、今後はICOからIEOへ資金調達の方法は変遷していく可能性が高い。日本においても、暗号資産交換業者であるコインチェックが東証一部上場のLink-Uなどと共同で、日本発のIEOを目指したプロジェクトを2020年8月に発足しており、IEOの実績が出てくる可能性が高い。

一方で、ICOは企業側において従来の資金調達方法と比べてコストや手間が削減されるという大きなメリットがあった。投資家保護の観点からの規制が進めば、ICOやIEOによる資金調達のコストも増加し、それ自体の利用が控えられるという可能性もある。ICOやIEOなどの暗号資産による資金調達は法整備の動向にも注意を払う必要がある。

執筆・樋口壮一(金融ライター)
新卒で証券会社に入社後、10年間リテール営業、ホールセール営業を経験。現在は事業会社の営業企画部門に努める傍ら、個人として投資を行い、マーケットに携わる。

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