本記事は、ポール・エステス氏(著)、和田美樹氏(訳)の著書『GIG MINDSET ギグ・マインドセット 副業時代の人材活用』(アルク)の中から一部を抜粋・編集しています

スキルの半減期

ダウン
(画像=Na/PIXTA)

大学に入ったら、少なくとも一つのことを4年かけて学ぶ。ビデオエディターのケンの場合は、撮った映像を編集し、魅力的な作品に仕上げるためのスキルだ。つまり、アビッドや、ファイナルカット、アドビ プレミア、その他、多くのソフトウェアやツールの使い方を学んだはずだ。問題は、これらのスキルにはすべて、有効期限があることだ。

クラウドソーシング大手、アップワークのCEOステファン・カスリエルは、学んだスキルの半減期が来る、つまり、スキルの価値が初めて学んだときの半分に減るのは約5年だと言った。ステファンは世界経済フォーラムのウェブサイトに寄稿した記事で、今日存在する仕事の多くは21世紀モデルに当てはまるが、その訓練とスキルは、まだ20世紀モデルを抜け出ていないと述べている。仕事やスキルが急速なペースで変化している分、スキルを最新の状態に保つ必要性も増している。労働者のリスキリング[新たなスキルを学び直すこと]に関するある白書によると、成人の4人に1人が、自分のスキルと現職で必要なスキルにギャップがあると答えているそうだ。

これは、個人のスキルを使う能力が鈍るという意味ではなく、そのスキルを適用する場がなくなるということだ。わかりやすい例として、ATMが導入されてからの銀行窓口や、電話が発明されてからの電報オペレーター、トラベロシティやオービッツ、プライスラインなどの予約サイトができてからの旅行代理店窓口などが挙げられる。時間は誰のことも待たずに、絶え間なく進展する。ことにIT業界ではその進み具合が激しい。学び直しを続けていかなければ、間違いなくお払い箱となる。

問題は、きっとあなたも経験済みだと思うが、学び直しの時間がないことだ。僕も、なにか外国語を学んでみたくても、そんな授業をいったいいつ受けられるのかと思う。与えられるすべての仕事のエキスパートになれたら最高だとも思うが、仕事には納期や会議がある(会議についてはまた後で議論するが、ともかく疫病のように、可能な限り回避すべきものだということは明言しておく)。

このすねの傷を誰より理解しているのがフリーランサーだ。常に次のクライアントを探し、総じて、潮流や流行にうまく乗っているからだ。彼らは一つの仕事を終えると、次のクライアントと仕事をするまでの合間時間に、学び直しができる。仕事の実践で学ぶ場合も多く、多様なクライアントと関わるので、常に新しいコンセプトや目標に取り組むことになる。

大企業に勤務するメリットはわかっている。予想のつく勤務時間、そして福利厚生などだ。だが、そうした古い形態の仕事と、新しいギグエコノミーとの相性もわかっている。自分が有用であるためには、価値を提供し続けるためには、時間を確保して学び直しをする必要がある。環境の変化を認識することは、大きなプロセスの最初の一歩だ。

学び直しが重要なのは、ホワイトカラー労働者だけではない。商業や製造業の労働者も常に学び直しが必要だ。例えば、火災報知システムの技師は、毎年、モナコ社のようなメーカーの研修に出て、ソフトウェアとハードウェアの最新情報を学ばなければならない。検針の作業員も、新しいビルで作業できるように最近のワイヤレスメーターの使い方を学ばなければならない。配管工や溶接工は、新しい道具を使うための訓練をし、安全性認定を受ける必要がある。社会が複雑化し、インターネットに接続する機器が増えるにつれ、新しいスキルや新しい考え方が必要とされているのだ。

学ぶためには余暇が必要だ。これに関しては、次の3点を念頭に置いて取り組もう。1.時間をつくるかどうかはあなた次第である。2.実際にやりながら学ぶことも可能である。3.学び直しは必須である。

1.忙しいのはみんな同じ。これは現代社会の現実というほかない。IT労働者が教育や研修を受けるのに使える時間は、週に約24分だそうだ。事態をさらに複雑にしているのが、現代人の集中力の持続時間が大幅に短くなっている点だ。読むのに4分以上かかるメールは読んでもらえない。会議は、時間と労力を湯水のように使う(一方、そのメリットはどんどん少なくなっている)。学び直しの必要性を受け入れ、そのための時間をつくろう。

2.大半の人はやりながら学んでいる。消費者としてどう生活しているかが、仕事の仕方にも影響する。われわれは、新しいものに挑戦したり試したり、他の人と協働したりする中でスキルを学ぶ場合が多い。あなたもこの1年で、同僚や友だちとのやり取りの中で、何かしらの新しい能力を身につけているのではないだろうか。そうした人とのつながりがあるからこそ、そのスキルが特別な意味を持ち、より早く学べるのだ。

3.学び直しは必須であることを理解しよう。もはや、すべての企業がテクノロジー企業といえる。常にインターネットと共に生活し、クラウド上でコミュニケーションをとり、特定の所在地からではなくネットワークからコマンドを実行する。社会全体がそうなっているので、過去のビジョンに固執するのは無益だ。あなたは、学び、成長し、進化する必要がある。

僕がそのことに突然気づかされたのは解雇を言い渡されたときだ。幸運にも、すぐに新しいポジションに飛びつき、キャリアを立て直すことができたが、あれが新たな旅路と気づきの始まりだった。ものの見方と思考様式を変える必要性に気づいたのだ。僕の経験を参考に、新しい仕事の仕方も視野に入れてほしい。

GIG MINDSET ギグ・マインドセット 副業時代の人材活用
ポール・エステス(Paul Estes)
20年にわたり、デル、アマゾン、マイクロソフトなどの巨大IT企業で活躍後、独立。現在は、世界トップレベルのフリーランス・ソフトウェアエンジニアのリモート派遣を行うトプタル社が運営する「Staffing.com」で編集長を務める。また、ギグエコノミーやフリーランサーを活用し躍進する企業の支援を行っている。ポッドキャスト番組「Gig Mindset」の元ホストでもある。
和田美樹(わだ・みき)
東京生まれ。1987年より米国在住。輸出入販売会社勤務を経て、幅広い分野の翻訳に従事する。主な訳書に『人生を大きく変える小さな行動習慣』(日本実業出版社)、『武器化する嘘』(パンローリング株式会社)、『カスタマイズ【特注】をビジネスにする戦略』(CCCメディアハウス)などがある。

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