本記事は、ポール・エステス氏(著)、和田美樹氏(訳)の著書『GIG MINDSET ギグ・マインドセット 副業時代の人材活用』(アルク)の中から一部を抜粋・編集しています

ギグエコノミー

インターネット,仕事
(画像=Baliuk/PIXTA )

2019年、「ギグエコノミー」という言葉がついに『メリアム・ウェブスター辞典』に載った。ギグエコノミーの影響は身の周りの至るところで感じられる。小規模事業者やギグエコノミーに関する情報サイトSmall Business Labsの記事に、以下のような事実が述べられている。

●アメリカの労働人口の36パーセントが、本業あるいは副業でギグエコノミーに参加している。
●アメリカの全労働者の29パーセントが、本業が交代制勤務である。
●フルタイム勤務の企業幹部の63パーセントが、機会があれば、独立業務請負人[業務単位の請負契約を結び、期限つきで専門性の高い仕事を行う個人事業主]になってもよいと考えている。
●アメリカの労働人口のほぼ40パーセントが、4割以上の収入をギグワークで得ている。
●ギグワーカー[インターネットを通じて単発で仕事を請け負って働く人]の75パーセント以上が、フリーランスの仕事を辞めてフルタイムの仕事に就こうとは思わないという。
●コンティンジェントワーカー[ここでは、専門性の高い職種において業務単位で仕事を請け負うすべての非正規雇用者を指す]の55パーセントが、本業あるいはフルタイムの仕事を持っている。
●フルタイムのフリーランサー、独立業務請負人、コンサルタントの37パーセントを、21~38歳が占める。
●今後5年間で、アメリカの成人労働人口の52パーセントが、独立業務請負人になるか、その経験を持つ。
●少なくとも90パーセントのアメリカ人が、フリーランサー、コンサルタント、独立業務請負人として働くことに抵抗を感じていない。
●従来型の労働をしながらフリーランスの仕事をした人が挙げたトップ2の理由は、「副収入を得るため」(68パーセント)と「勤務時間の柔軟性」(42パーセント)。

ギグエコノミーは、最近リモートでできる仕事が増えたフリーランサーにとってはうれしい状況だ。また、従業員のためのオフィススペースや機器がいらなくなった組織にとっても朗報である。

ハリウッドの労働環境を例にとってみよう。1920年代初頭、超大手映画会社は、お抱えの脚本家や俳優、ディレクター、スタッフらを雇っていた。巨額の経費ではあったが、当時の映画界の活況を鑑みれば相応の額だった。それから時は流れ、雇用形態は大きく変わった。現在では、映画ごとに制作チームが組まれる。プロデューサーが、組合員の中から才能あるエキスパートを選び出して有期労働契約を結び、チームを結成するのだ。全員の契約が済んだら撮影に入り、契約どおりに無事終了したらチームは解散となる。そして大きな目標を達成したら、それぞれが次の制作プロジェクトに進む。

今、他の業界の大手企業も、この雇用形態に目覚め始めている。何十年と続く老舗のタクシー会社は、運営経費と利用料金の高騰に直面していた。そんな中、ウーバーという新興企業が現れ、フリーランサーを使って従来型のタクシーが抱える多くの課題を軽減した。タクシーよりも、存続可能性の高い利益率、安い利用料金が実現し、瞬時に市場の関心を集めた。

ギグエコノミーによる経済の大変動は変化に対応できない、あるいは対応する気のない企業に、大きな影響を及ぼしている。1955年にフォーチュン500[『フォーチュン』誌が、毎年売上規模に基づいて選出する米国企業500社]に入っていた企業の9割が、市場の変化によって現在は脱落している。

コンサルティングファームのイノサイトは、現在のS&P500企業の約半分が10年で脱落すると予測している。こうした移り変わりは、テクノロジーの発達と変化とディスラプションの加速が、経済に深く大きな影響をもたらしていることを物語る。

ネットフリックスはかつて、オンラインのDVDレンタルで既にディスラプションを起こしていたが、その後ストリーミング配信を始め、市場にさらなる変革をもたらした。赤い封筒でDVDが郵送されてきて、おまけに延滞料金がかからないこのサービスに消費者は満足し、それだけで生涯顧客になる価値があった。しかし、ネットフリックスは郵送でのやり取りを廃止し、コンピューターがあればどこからでも好きな映画が観られるようにした。しかも定額制だ。すばらしいではないか!さらに数年後には、毎月オリジナル作品をリリースするようになった。ネットフリックスが、かつてのハリウッドの映画会社のように、制作準備から配信までをすべて自前でコントロールしているのだ。ネットフリックスが制作するオリジナルコンテンツは、今ではHBOやショータイムなど、ケーブルテレビの有料チャンネルすべてを合わせた数を上回る。

ギグエコノミーはまた、多くの業界を、従来なら出会うことのなかったであろう働き手に引き合わせた。例えば、トップコーダーはエンジニアやプログラマーを世界中から起用している。

こうしたクラウドソーシングサービスは、一か所の職場に縛られない新しい人材へのアクセスを提供する。後章で紹介するとおり、フリーランサーを起用すると戦力が倍増する。前述のビデオエディター、ケンが一人で1日に捻出できる作業時間は最大24時間だ。しかし毎日24時間というわけにはいかない。睡眠時間や家族との時間、そして食事時間も必要だろう。

だが、ギグエコノミーを活用すれば、生産性を劇的に上げることができるのだ。

GIG MINDSET ギグ・マインドセット 副業時代の人材活用
ポール・エステス(Paul Estes)
20年にわたり、デル、アマゾン、マイクロソフトなどの巨大IT企業で活躍後、独立。現在は、世界トップレベルのフリーランス・ソフトウェアエンジニアのリモート派遣を行うトプタル社が運営する「Staffing.com」で編集長を務める。また、ギグエコノミーやフリーランサーを活用し躍進する企業の支援を行っている。ポッドキャスト番組「Gig Mindset」の元ホストでもある。
和田美樹(わだ・みき)
東京生まれ。1987年より米国在住。輸出入販売会社勤務を経て、幅広い分野の翻訳に従事する。主な訳書に『人生を大きく変える小さな行動習慣』(日本実業出版社)、『武器化する嘘』(パンローリング株式会社)、『カスタマイズ【特注】をビジネスにする戦略』(CCCメディアハウス)などがある。

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