シンカー:鉱工業生産は、輸出を含む財より国内サービス消費との相関関係が強いという意外な結果になっている。サービス消費の需要が拡大するにつれて、必要となる財の需要が拡大してきたことが分かる。デジタル革新などにより、サービス消費の拡大のため、デジタル関連製品を中心に、より多くの財が必要になってきているとみられる。サービス業の動きが数年の大きな景気循環を左右するようになっているとみられる。在庫の役割が小さいサービス業の動きを大きく左右するのは信用サイクルだ。信用サイクルの動きが、サービス・財だけではなく、雇用を含め、経済全体の動きを左右することになることを考えれば、新型コロナウィルス問題後の景気回復を促進するため、先進国の政策当局はインフレを許容しながら、緩和的な政策を維持し、信用サイクルを支え続けようとする可能性が高い。
4月の鉱工業生産指数は前月比2.5%と、コンセンサス(同3.9%程度)なみの結果となった。しかし、3月の同+1.7%に続き、2か月連続の上昇で、水準は99.6となり、新型コロナウィルス問題前の2020年1月の99.1を上回った。4月の実質輸出が同2.6%と、米国と中国の経済活動の持ち直しを反映して、2か月連続で増加したのと整合的な結果だ。半導体などの部品供給の問題を抱えて減産となった輸送機械工業除く自動車工業(同−4.6%)を除けば、総じて生産は増加した。5・6月の経済産業省予測指数は−1.7%・5.0%となり、海外経済の持ち直しとともに、生産の上昇トレンドも継続する見込みとなっている。4月の在庫指数が94.7と低水準となっており、需要の持ち直しが、部品供給の問題が小さければ、すぐに生産の持ち直しにつながりやすい状況となっている。
新型コロナウィルス感染拡大によるグローバルな経済活動の停止と再開の動きに、日本の生産活動は大きな影響を受けてきた。2020年1月から2021年4月まで実質輸出と鉱工業生産の相関係数は0.93と極めて高くなっている。輸出と生産の相関関係が極めて強いことは自明のように感じるが、実はこれはコロナ禍の特殊なケースであるようだ。デジタルとサービス業中心への産業変化によって、生産の動きに意外な変化が生まれてきていた。2013年1月から2021年4月まで、実質輸出と鉱工業生産指数との相関係数が0.49とそれほど高くない。実質耐久財指数(耐久財消費)と鉱工業生産指数の相関係数も0.31と高くない。一方、実質サービス指数(サービス消費)と鉱工業生産指数との相関係数は0.88と極めて高い。輸出を含む財より国内サービス消費との相関係数が高いのは意外だ。
国内のサービス消費の需要が拡大するにつれて、必要となる財の需要が拡大してきたことが分かる。デジタル革新の進展により、サービス消費の拡大に、デジタル関連製品を中心に、より多くの財が必要になってきているとみられる。実質輸出の多くの部分も、他国のサービス消費の需要の拡大に支えられているとみられる。現在の景気循環は単純な財の生産・在庫循環だけでは把握できないようになっている。サービス業は雇用の動きも大きく左右するので、景気循環への影響が更に強いと考えられる。
サービス業の動きが数年の大きな景気循環を左右するようになっているとみられる。在庫の役割が小さいサービス業の動きを大きく左右するのは、信用サイクルだ。現在、政策対応もあり、グローバルに信用サイクルは堅調である。長引くコロナ禍での負債の拡大などもあり、信用サイクルが崩れることがダウンサイド・リスクである。一方、新型コロナウィルス問題後の景気拡大を促進するため、政策当局がインフレを許容しながら、景気対比で緩和的な政策を維持し、信用サイクルがもう一段強くなれば、アップサイド・ポテンシャルとなる。信用サイクルの動きが、サービス・財だけではなく、雇用を含め、経済全体の動きを左右することになることを考えれば、新型コロナウィルス問題後の景気回復を促進するため、先進国の政策当局はインフレを許容しながら、信用サイクルを支え続けようとする可能性が高い。
図:日銀短観中小企業金融機関貸出態度DIと失業率(信用サイクル)
岡三証券チーフエコノミスト
会田卓司
岡三証券エコノミスト
田 未来