近年は、超低金利が続いているため、資産形成の手段として株式投資を選ぶ人も少なくないだろう。株式投資をはじめる人に、まず知っておいて欲しいのが株式投資における税金のかかり方だ。株式投資で得られる利益には基本的に税金がかかる。しかし、ケースによっては税額負担を軽減したり確定申告が不要になったりする場合もある。

この記事では、株式投資で利益を出したときの税金のかかり方や確定申告の要否などについて解説していこう。

株の売買にかかる税金

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(画像=PIXTA)

一般的に所得税や住民税は、利益(所得)に対してかかるものだ。株式投資で得られる利益には「値上がり益(譲渡益)」と「配当金」の2種があり、それぞれに課税方法が異なる。まずは、2種の利益の違いや税金のかかり方について解説していく。

「値上がり益」にかかる「譲渡益課税」

値上がり益とは、株式を売却することによって得られる利益のことである。ちなみに利益というのは収入から手数料などの経費を差し引いた金額のこと。例えば10万円で買った株が15万円に値上がりしたときに売却すれば5万円の収入となる。しかし売買手数料などで5,000円を支払っていた場合は、値上がり益は4万5,000円(15万円-10万円-5,000円)となる。

ちなみに値上がり益は売却益とも呼ばれるが税制上は「譲渡益」といい、「上場株式等の譲渡所得等」として取り扱われる点は押さえておきたい。税率は、20.315%(所得税15.315%・住民税5%)で、申告分離課税となる。申告分離課税というのは、他の所得とは分離して税額を計算し確定申告によって納税する課税方式のことだ。例えば会社員が毎月もらっている給与は給与所得となる。

しかし給与所得者である会社員が株式取引で利益を得た場合には「給与所得」と「上場株式等の譲渡所得等」の2種類の所得となる。このとき株式投資による所得は、申告分離課税であるため給与所得とは別に税額を計算および申告するという仕組み。上記例でいうと4万5,000円に対して20.315%の税金がかかる。

ただし所得税の計算は、1年間(1月1日~12月31日まで)単位で行うのが原則だ。基本的には、1年間の売買で得られる利益をまとめて税金を計算することを知っておこう。

「配当金」にかかる「配当課税」

配当金は、「配当所得」として課税対象となる。税率は値上がり益と同じく20.315%(所得税15.315%・住民税5%)。しかし配当所得にかかる税金は源泉徴収されるため、原則として自分で申告する必要はない。とはいえ確定申告する課税方式を選ぶことも可能だ。確定申告をする場合は、先述した申告分離課税やすべての所得をまとめて税額を計算する総合課税のどちらかを選ぶことができる。

申告分離課税を選べば税率は20.315%(所得税15.315%・住民税5%)だが、総合課税を選んだ場合は、累進税率が適用されるため、他の所得額に応じて所得税率は5~45%と幅広く変わるのが特徴だ。住民税の税率は一律で10%。なお総合課税の場合は、配当控除が適用される。他の所得や配当金の額によっては節税につながる場合もある点は押さえておきたい。

株取引で利益が出たら確定申告が必要

配当金で源泉分離課税(源泉徴収)を選ぶ場合を除き株式投資で利益を得た場合には、原則として確定申告が必要だ。手元の資料や証券会社から送られてくる資料で1月1日~12月31日までの1年間の合計利益をまとめて計算し原則翌年の2月16日~3月15日までに確定申告を行う。しかし税金の計算は「苦手」「面倒」という人も少なくないだろう。

実は、確定申告をしなくても良い場合もある。株式取引を行うためには、証券会社に口座を開設しなければならない。口座の種類は大きく分けて「一般口座」と「特定口座」の2つがある。「一般口座」で行う投資では、売買損益や利子、配当などの投資で得られた損益通算の計算や納税手続きをすべて投資家自身で行わなければならない。

一方「特定口座」で取引を行えば売買内容の記録や損益の計算は証券会社が行ってくれる。また特定口座には「源泉徴収なし」「源泉徴収あり」の2種類ある点も押さえておきたい。「源泉徴収あり」を選べば利益が出るたび税金を源泉徴収してくれ納税完了。投資家自身は、税金に関する計算や申告の一切を行う必要がない点は大きなメリットだ。

それなら面倒な計算や確定申告書の作成、申告手続きをする必要のない源泉徴収ありの特定口座を選ぶのが良いと思う人も多いだろう。たしかに税関連の手続き面では一番楽だが税額の面では必ずしもベストな選択でない場合もある。

一般口座か特定口座か、選ぶポイント

「一般口座」「特定口座」のどちらを選ぶかは大切なポイントだ。また特定口座を選択する場合は、源泉徴収「あり」「なし」のどちらかを選択する必要がある。どの組み合わせを選ぶかによって税金面でどのように違いが出るのか、きちんと知っておくことが重要だ。それぞれの違いを上述したが選ぶときのポイントを2つ紹介しよう。

源泉徴収されるか、されないか

1つ目のポイントは、源泉徴収の有無である。確定申告や納税手続きを省けることは、税金関連の手続きが慣れていない人にとっては助かるシステムだ。特に多くの会社員にとっては、税金の計算や申告手続きとは縁がないもの。利益から一律20.315%の税金を引かれて完了するため、それを選ぶのが良いと考える人は「特定口座の源泉徴収あり」を選ぶことがおすすめだ。

ただし「源泉徴収あり」を選ぶと利益が確定するたびに税金分として20.315%が徴収される。例えば2021年1月X日に5万円の利益が出れば1万157円。次いで2021年9月Y日に10万円の利益が出れば2万315円が徴収される。年間利益合計15万円にして3万472円を証券会社経由で納税したことになるというわけだ。

ちなみにこの例では、一般口座を選んでも特定口座の源泉徴収なしを選んでも年間トータルでの税額は同じ。なぜなら冒頭で説明したが株式の値上がり益は譲渡所得として税率20.315%の申告分離課税だからだ。

利益が年間20万円出るかどうか

2つ目のポイントは、年間の利益合計額が20万円を超えるかどうかということ。会社員など年末調整だけで税関連の手続きを終えられる人は、給与などの他に所得があっても確定申告をしなくて良い場合がある。それは、年収が2,000万円以下の人、かつ給与所得と退職所得以外の所得の合計額が年間20万円以下の人だ。

つまり株式投資での得た譲渡所得が20万円以下の場合は、確定申告が不要だ。繰り返しになるが基本的に税金は、1年間の売買で得られる利益をまとめて計算するもの。例外として「特定口座源泉徴収あり」を選べば利益が出るたびに20.315%の税金が徴収される。つまり先述したように年間合計利益(所得)が15万円の場合でも税金が徴収されてしまうのだ。

一方「一般口座」や「特定口座源泉徴収なし」を選んだ場合は、1年間の合計利益(所得)を計算した結果、20万円以下なら確定申告をしなくても良い。そのためあえて税金を払う必要もないことになる。ただ株価の動きは、前もって予想することが難しく年間にどれだけの利益を出せるかは1年が終わってみないと分からない。

しかし投資金額が小さかったり小さな利益をコツコツと得たりする投資スタイルならば年間利益が20万円以下になる可能性はある。自営業者などそもそも確定申告をしなくてはならない人にとっては、年間利益が20万円を超えそうかどうかで選ぶのは得策ではない。しかし会社員であれば自分の投資スタイルに応じて口座を選ぶこともできそうだ。

ただ会社員でも医療費控除や住宅ローン控除など所得控除を受けるために確定申告をしなければならないケースもある。この場合は、年間20万円以下の利益も同時に申告しなければならないことは知っておいた方がよいだろう。

確定申告が必要なケース・必要でないケース

ここからは、具体的な例で確定申告が必要なケースと必要でないケースを見ていこう。

不必要:特定口座での運用で利益が出ている場合

「特定口座の源泉徴収あり」を選択している人は、利益がいくら出ても確定申告をする必要はない。なぜなら利益が出るたびに証券会社が一律20.315%の税率で源泉徴収し税務署へ納税してくれるからだ。また、「特定口座の源泉徴収なし」を選択している人でも、年間利益が20万円以下であれば年収2,000万円以下の会社員かつ確定申告で所得控除を受ける必要もないことを条件に確定申告は不要である。
※住民税の申告は20万円以下でも必要。

必要:特定口座での運用で損失が出ている場合

株取引によって損失が出るときには、確定申告を行うことで損益通算という税制措置を受けることができる。損益通算とは、損失を他の有価証券の売却益や配当金・収益分配金と相殺することだ。例えば、A証券で利益20万円、B証券で損失5万円という場合、これらの損益を通算すれば利益が15万円となりA証券で出た利益を小さくすることができ結果的に税額を減らすことができる。

「特定口座の源泉徴収あり」では、利益が出る都度源泉徴収されると述べた。しかしこの例でいえば20万円の利益からは4万630円の税金が引かれるが、売却して5万円の損失となったとき税金は引かれない。損益通算の適用を受けるためには、確定申告が必要だ。

不必要:NISA口座での取引なら非課税

NISA(少額投資非課税制度)を利用している場合、年間120万円までの投資なら購入から5年以内に得た売却益や配当金に税金がかからない。そのため確定申告は不要だ。ただし損失が出てもNISA口座と他の口座で損益通算ができない点は注意しておきたい。

不必要:配当金のみの利益

配当所得は、原則として源泉徴収の対象である。そのため年間の利益が配当金のみである人は、確定申告をする必要がない。確定申告する課税方式を選んだ場合のみ確定申告をしよう。

必要:20万円超の価値のある株主優待

株主優待により株主が受け取る金品は「経済的利益」として雑所得となり確定申告が必要だ。一般的に源泉徴収ありの特定口座を利用している人は確定申告が不要である。しかし株主優待に関しては源泉徴収されないので自分で確定申告しよう。ただし前述したように会社員で年収が2,000万円以下の人、かつ給与所得と退職所得以外の所得の合計額が年間20万円以下の人は確定申告が不要である。

そのため年間に受け取った株主優待の価値合計が20万円超の場合のみに確定申告が必要だ。

20万超の利益が出るなら「特定口座・源泉あり」

株式投資をするならできるだけ大きな利益を得たいと思うものだろう。一方株式投資で得た利益には税金がかかり原則として確定申告が必要だ。今回説明してきたように口座の選び方や利益の額によっては確定申告の要・不要や納税額が変わる場合もあるため、自分の投資スタイルに合わせて選択したい。

年間20万円を超えることが見込まれるなら「特定口座の源泉徴収あり」を選ぶことが有力な選択肢になる。これにより面倒な損益計算や納税手続きを省くことができるだろう。