THE OWNER特別連載「経営者のお悩み相談所 〜経営コンサルタントが一問一答!〜」第17回目は「ジョブ型雇用、同一労働同一賃金は導入すべきか?」という経営者のお悩みについてお答えします。
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【今回のご質問】
ジョブ型雇用、同一労働同一賃金については導入すべきでしょうか?どのようにお考えですか?
【ご回答】
同一労働同一賃金は法律ですので遵守しましょう。また、私の知る限り、中小企業は大抵ジョブ型雇用です。新制度導入というより、会社と従業員の双方に利のある雇用制度に整理することをお勧めします。
ご質問ありがとうございます。企業経営において、ジョブ型雇用と同一労働同一賃金について、どう考えて行ったら良いかというご質問と思います。同一労働同一賃金については、法的義務ですので対応しましょう。また、中小企業は職種を決めて採用するジョブ型雇用が一般的と思います。ジョブ型雇用を新しく導入するというより、会社・従業員で納得感のある雇用制度に整理することをお勧めします。
(注 本稿は個々の事業者の個別の状況に対する法律的助言を目的としたものではなく、本稿を元にした法律の適否に関する如何なる判断にも責任を負えません。個社の法的判断は、資格のある専門家に相談するか、またはご自分で調査の上で当局とのしっかりした意思疎通をお願いします。)
同一労働同一賃金とは
同一労働同一賃金とは、いわゆる正社員とそれ以外のパート・アルバイトなどで、同じ業務についている場合に、待遇に差異を設けないということです。言い方を変えると、差異を設ける際にはその合理的理由を説明できることが必要です。これは法律ですので、企業側に選択権はありません。言うまでもないことですが、法律は守りましょう。
法律遵守が大前提ですが、雇用形態の違いを整理・説明することは、会社と従業員の齟齬解消、より良い関係構築の一環であり、御社にとって有益なことです。例えば、小売店で残業がない筈のパート・アルバイトとして雇用した後、能力が認められて店長になった、残業が発生したが、雇用形態は元のままという場合です。こうした場合には改めて雇用形態と職責(職務と職位)を整理し、従業員に選択権を与えると良いかと思います。
雇用形態と職責(職務と職位)の関係を明確化し、従業員の選択を尊重することで、従業員の意欲は高まります。結果的に御社の利益に繋がります。加えて前述の通り法律的にも明確化が求められています。
ジョブ型雇用とは
ジョブ型雇用というのは職務(職種・業務内容)を決めて採用を行う雇用形態です。日本には主に定型業務を行うアルバイト・パートという雇用形態がありますので、それ以外の専門職を正社員として雇うということになります。例えば、経理担当者を正社員として雇用する、ITエンジニアを正社員と雇用するといった場合がジョブ型雇用です。
よく考えてみると、中小企業ではジョブ型雇用が一般的です。大企業や官公庁では、ジョブ型雇用に対してメンバシップ雇用と呼ばれる採用方式で、幹部候補としてジェネラリストを育成する仕組みがあります。但し、私は中小企業ではメンバシップ雇用は見かけたことがありません。
下記に改めてジョブ型雇用の利点と課題を記載します。
ジョブ型雇用のメリット
採用機会の拡大: ジョブ型雇用のメリットとして、採用機会の拡大が挙げられます。新卒一括採用やメンバシップ雇用よりも採用の門戸を広げるわけです。
人件費の抑制: もう一つのメリットは人件費抑制です。新しい雇用形態を設置し、就業規則に盛り込みます。従来の年齢給や勤続給を抑制した賃金表を設定することで、人件費の伸びを抑えることができます。
ジョブ型雇用のデメリット
一方でデメリットとしては、経営環境変化への対応が難しいということが挙げられます。正社員として専門職を採用しますので、状況の変化で仕事がなくなっても解雇は難しいと言えます。例えば、経理としてジョブ型雇用を行ったが、大規模な経理システム刷新を行った結果、経理担当者の必要数が大幅に減少した場合であっても、日本の法律上、解雇は困難です。
ジョブ型雇用以外の方法も検討しよう
人件費抑制は役職給で実現
年齢給や勤続給が大きく影響する賃金表では、人件費は増加しがちです。また、能力給の場合でも、能力を厳密に判定することが難しいため、人件費は増加傾向になります。最近では、人件費を役職給で制御する考え方があります。例えば、係長、課長、部長のポスト数を決めてしまい、その役職に応じて給与を払います。賃金表の改訂を行わない限り、役職数か役職なし社員数が増えなければ人件費は増加しません。
環境変化への対応力を正社員以外の人的リソース獲得で実現
前述の通り、ジョブ型雇用のデメリットは正社員として雇用するために、環境変化への対応力が不足することにあります。これを回避するものとして、以下のような方法があります。
パート・アルバイト: 主に定型業務を任せる時間給の従業員です。最近は労働コストが上昇してきているものの、他に比べれば依然として廉価な反面、指揮・監督は会社側が行う必要があります。
個人への業務委託(外注): プロフェッショナルな個人の力を活用する方法です。柔軟な業務遂行形態が可能です。但し、信頼できる人を探すのが最も難しい点です。また、委託先個人の負荷次第で、仕事を直ぐに引き受けてもらえないこともあります。
会社側が業務の指揮・監督を行う場合には、「契約社員」と見なされ、労働法の規制が変わることもありますので、ご注意ください。企業への業務委託(外注): 他の企業へ外注してしまう方法です。料金は高めです。
中小企業では寧ろしっかりした評価が大切
時々、中小企業で、意欲・能力の共に高い社員であっても、評価やフィードバックがなされず、放置されている事例を見かけます。意欲の高い社員程、成長意欲も高く、適宜新しい仕事を与えていかないと、物足りなさを感じ、最後には転職してしまいます。昇給させてあげられるかは会社の状況次第というところもありますが、社員の給与を上げられるよう、事業をコントロールしていくのが経営者の役目とお考え下さい。最低でも1年に1回は振り返りと、今後の希望について社員一人一人と話す時間を持ちましょう。
如何だったでしょうか。御社のご参考になったでしょうか。今回はジョブ型雇用、同一労働同一賃金について思うところを書かせていただきましたが、より具体的に御社の状況をお知らせいただければ、より具体的に回答できます。引き続き質問を受け付けておりますので、疑問があればご一報ください。
文・杉野洋一((同)Initiatives代表)
(提供:THE OWNER)