人材育成・新規事業・働き方改革などの法改正やDX対応等…これらの課題解決をマネジメントするために、中小企業でもKPIマネジメントを採用する企業は増えつつあります。
それらの課題に対応するプロジェクトを発足し、そのプロジェクト1つ1つにKPIと責任者を設けて進めるのが一般的なやり方ですが、それでは管理KPIが多すぎる、そもそもあらゆるプロジェクトに責任者を割けないなどの問題があります。
それらの問題をどう解決していけば良いのでしょうか?本稿ではKPIマネジメントの2つの要諦を解説します。
安直に設定しがちなKPI
一般的にKPIは、まず解決したい問題があり、その目標数値などを定め、目標達成のプロセスのなかで特に重要なプロセス(Key Performance)を抽出し、それを指標化(Key Performance Indicator)するという考え方で設定されます。
例えば営業部門では、アポイント件数・成約率・リピート率、マーケティング部門では新規顧客獲得数・リピート率・PV数値、製造部門では総合設備効率・稼働率・不良率、経理部門ではミス発生率・業務自動化率・滞留債権回収率、などというKPIの例があります。
しかしそれらしいKPIを設定しても、なかなか人が思うように動いてくれないというケースはよくあります。
とある会社の営業強化プロジェクトの事例を見てみましょう。
社運をかけて開発した新商品を世に知らしめるべく、社長直下で新商品の販売強化プロジェクトを発足。営業マネージャーを責任者に据え、「アポイント数」「提案数」などをKPIに設定、毎月管理をしていくのですが、全く思うように進まない…
これはどんな会社にもよくある光景です。
KPIを設定したポイントは重要なプロセスであるにも関わらず、また毎月の管理も徹底しているというのに、一体なぜでしょうか?
KPIを追う立場である営業マンに尋ねると、こんな意見が出てきます。
「慣れない新商品を説明するのが実は億劫で…」
「アポイントを頑張って伸ばしても、どう業績につながるのか分からない…」
見えてくる2つの問題 人の心理とストーリー
ここでは2つの問題点が見えてきます。
人の心理を無視したKPI
1つ目の問題点は、「実は億劫で…」とあるように、この営業マンは、新商品の説明にストレスを感じているということがわかりました。そこをさらに深掘りすると、「前提知識の説明が小難しくて嫌がられる」「説明の時間が長過ぎて聞いてもらえない」などの億劫に感じてしまう要因も見つかりました。
これではどんなにKPIを掲げても、なかなか重い腰は上がらないでしょう。
例えば簡単で手短に説明できる標準ツールを会社で用意し「標準ツールを用いた提案数」にKPIを設定すれば、営業マンのストレスという阻害要因が解消されKPIが進みだすかもしれません。
人を動かしていくためには、このように「このKPIを設定したら、対象者や関係者はどんな反応を示すか?」「そこにはどんな阻害要因が存在しているか?」ということを人の心理的な要素も含めて検討し、それを勘案したKPIを設定する必要があります。
ストーリーが欠如した問題
2つ目の問題点は、「どう業績につながるのかわからない…」とあるように、アポイント率を上げる必要性を営業マンが理解できていないことが想像されます。理解できていないことに対して盲目的に優先順位を上げてもらうことは、なかなか期待できないでしょう。
ここで必要となるのが、KPIという「点」を理解してもらうだけでなく、点を線にしたストーリーで理解してもらうことが必要になってきます。
「アポイント数が増える」→「新商品の提案機会が増える」→「新商品の販売数が増える」という流れを理解してもらうのです。
このストーリーの有無によって、KPIを追う意義の理解に差が出ます。アポイント数を追うことが、どう展開して目標達成につながるのか?を可視化できるからです。当たり前のことのようですが、これを文字や図で可視化できている企業は、そう多くないでしょう。
ストーリーを理解しその流れを想像できるかどうかは、実行力に大きく影響を及ぼします。KPIがただのタスクの割振りや数字の割り当てでは、担当者のモチベーションも上がりにくいのは当然です。一方ストーリーがあればプロジェクト全体のリレーの中で自分がその一区間を担い、パスをつないでいるということが実感でき当事者になれるのです。
これはプロジェクトに限らず、タスク~事業や経営戦略全般に共通する考え方です。個別の打ち手だけを考えるのではなく、それらを連動させる「流れ」、その結果としての全体の「動き」がどうなるのか?ということが、あらゆる物事を動かしていく本質であり、同時に忘れられやすい視点の1つでもあります。
ストーリーによる2つのメリット
その他にも、ストーリーを作るにはこんなメリットがあります。
経営資源を今やるべきことに集中投下できる
ストーリーによって施策の順序論が可視化されるため、今はどのKPIに対して人手を割く必要があるか?のいうことが分かります。
この例ではアポイント数→提案数の順ですから、まず最初はアポイントをどうとるか?ということにフォーカスしそこに人手を割けば良いのです。
五月雨式に施策をうつのではなく、「Aという施策を打ち、それによる○○の効果が現れた状態で、次のBの施策を打とう。それによって××の状況を作れれば、Cの施策を動かしていこう」と、施策を展開する順番を可視化しますので、今何をする時なのか、逆に何をしないのか、が明確です。
これにより、冒頭に記載した、"そもそも全てのKPIに人手を割けない"という問題に対応しやすくなります。
全体の筋の良し悪しを検証できる
ストーリーがなければ、KPIを動かす施策の一つ一つの内容を検証するに留まります。これでは、個別の施策の良し悪しは判断できても、それらの施策の組み合わせや、展開順はどうなのか?という全体感では全く検証ができません。
施策という細かな戦術ベースで有効に感じ、実行に移すことは往々にしてありますが、もし全体を通して戦略的に大きな欠陥があったとしてもそれには誰も目をやることができません。
例えば先の例では、「アポイント数が増える」→「新商品の提案機会が増える」→「新商品の販売数が増える」という展開ですが、提案機会が増えると、販売数が増えるというのは、本当に良い筋でしょうか?
少し話が飛躍し過ぎているようにも感じます。それなら、この飛躍を埋めるための、新たな展開を検討する余地が見えてきます。これが戦略の欠陥の発見です。
ストーリーによって全体の流れの視点で検証することができれば、限られたリソースを消耗する前に気づけることが多くあると考えています。机上でイメージできないことを、やってみれば上手くいくというなら経営に苦労はありませんが、冷静に考えてみると期待しにくいことでしょう。
実行してみないと分からない事が大半ですが、「たしかに筋が良さそうだ」「6割くらいの感覚でいけそうだな」と思えるまでストーリー展開の筋を煮詰めることが少ないリソースで結果をだすために必要です。
まとめ
経営環境の変化はより一層激しさを増していますが、その変化に振り回されず、自律的な経営をしていくためには、KPIマネジメントは有効な考え方です。
しかし、要諦を押さえず安直にKPIを設定してしまうと人が思うように動いてくれなかったり、趣旨から外れたおもわぬ結果を招くことになります。そういった結果に対して貴重なリソースを割いてしまうのは非常に勿体ないことです。
また、KPIは一度設定すれば終わりではありません。実行してみて分かる不具合に対して、定期的にKPIを改める動的な運用が必要です。そのような繰り返しの中で、本当に機能するKPIが見えてきます。
一度上手くいかなかったからと言って諦めれば、将来成功する可能性をつぶしてしまうことになりますので、失敗ではなく発見だと捉える仮説思考と知的持久力がマネジメント側には必要とされます。
もしKPIが機能していないと感じたら、ぜひこの2つの考え方を取り入れてみてください。
(提供:THE OWNER)