➤パワハラやセクハラなどハラスメント防止の法整備が進んでいますが、企業では貴重な人材の採用・定着・育成のためにこそ、ハラスメントが起きにくい組織風土創りが求められます。
➤多くの上司層は悪気がないにも関わらずハラスメント・リスクを冒しがちです。またハラスメント・リスクを恐れて部下とのコミュニケーションが希薄になる職場も増えつつあります。
➤こうした背景を踏まえて、本連載では管理職や経営者など上司層に向けてハラスメントを予防する上司力について解説します。
部下の思いを正しく捉える(価値観を知る)
前回掲載したCASE「社員の義務を果たしなさい!」をもとに、上司の部下に対する対応のあり方を考えてみましょう。
(1)新たな仕事の意味や目的をきちんと理解したい
そもそも人は、往々にして新しいことに対する不安を抱くものです。また上からの指示命令に従うだけでは、本当によい仕事は担えませんし成長もありません。優秀な社員ほど、仕事の目的をしっかり理解したうえで創意工夫をしようと考えていえます。
CASEの部下の【Aさん】は、新たな仕事を頭から拒否してはいません。そこで、「新規事業がどういう経緯と目的で決まったのか」「自分が担う意味は何なのか」を知り、不安を払拭したいと考えている可能性があります。
特に近年の若手は、社会貢献意識の高さから仕事の意味を問う傾向が高まっています。また終身雇用が保証されないなかで、自分のキャリアにとっての仕事の意味を上司世代以上に真剣に考えていることも考慮すべきでしょう。
(2)現在進めている仕事と上手に調整したい
また、本人にとっては現在自分が担っている仕事と新たな仕事との関係づけや、優先順位などを整理することも必要です。「新たな仕事を担当するには不安もある」との発言には、自分の中でうまく両立できるかどうかの見通しを持てなければ、責任をもって引き受けられないという気持ちを読み取ることもできます。
何のリアクションもなく安易に引き受けてしまう姿勢に比べ、むしろ慎重で信頼できる態度とも考えられるでしょう。
ハラスメント予防の心構え(あり方を定める)
(1)仕事の目的を共有する
上司がとるべき行動の第一は、新しい仕事の目的を部下と十分に共有することです。組織がどのような社会貢献や顧客貢献への理念や方針をもっているのか。いま組織を取り巻く経営環境や顧客ニーズをどう捉えているか。そのうえで、今回の新規事業がどんな意味や目的をもち、どのような経緯で決定されたのか、丁寧に伝えることです。
何よりもまず、上司自身がこの点をしっかり理解し、納得していることが大事になります。
(2)仕事・役割に動機づける
行動の第二は、新たな仕事がチームにとってどのような意味をもつか、さらに、本人のキャリアにとってどのような位置づけの仕事となるのか、上司としての考え方や期待をしっかり述べることです。
本人が自分だから挑戦すべき仕事として納得でき、自分の成長にとってもプラスに感じられるように、内発的に動機づけることが大切です。その上で、新たな仕事と今の仕事との関係づけや優先順位など本人が悩んでいるなら相談に乗り、必要な調整を図ることも大事です。
日常的な予防を図る(やり方を変える)
(1)日頃から部下の仕事と思いを把握する
この事例は、経営層からの指示をきっかけに生じた課題でしたが、大切なことは、上司が日頃から部下の仕事の状況や興味や関心などを把握しておくことです。定例ミーティングなどで仕事の進捗状況や課題を把握し、必要な相談に応じることで、本人の課題意識や思いを理解しておきます。
また、いつでも報連相(報告、連絡、相談)がしやすい関係をつくっておくことも有効です。働き方改革が進み、リモートワークなどでオフィスで顔を合わせる機会が少ない場合には、メールやチャットでコミュニケーションの経路を確保しておくことも有効です。
(2)日常的に上層部に対する報連相を行う
中間管理職の立場にある場合には、上司が経営層と現場を繋ぐコミュニケーションの要の役割を担うことも大切です。まずは、上層部の方針や関心事をタイムリーに把握し、日頃から部下にわかりやすく翻訳して伝えておくこと。また、現場の部下たちの状況から経営判断に必要な情報を恒常的に経営層に伝えておくことです。
こうして、経営と現場が乖離しないように意志ある翻訳エンジンを担うことも、現場上司の大切な役割なのです。
※ 職場のハラスメント予防についてさらに詳しく学びたい方、また職場での研修導入を検討される方は、弊社FeelWorksが開発した「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」をご参照ください。
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)等33冊。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)及び『本物の「上司力」』(大和出版)
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