エコタウン事業は、温室効果ガス削減や循環型社会を実現する1つの理想型とも言えます。高いリサイクル技術や地域活性化の実績を持ち、世界へ貢献している事業もあります。エコタウン事業とはどういったものか、その目的と具体的な取り組みを紹介します。

エコタウン事業とは環境調和のまちづくり

環境と地域振興の調和を目指すエコタウン事業とは
(画像=sveta/stock.adobe.com)

エコタウン事業は資源の相互利用を通じて、産業の振興や地域活性化を推進するプロジェクトです。これはある産業から排出される廃棄物のすべてを、他の産業の原材料として廃棄物をゼロにする「ゼロエミッション構想」に基づいています。

都道府県や政令指定都市が、それぞれの地域特性に合わせた「エコタウンライフプラン」を策定し、環境省と経済産業省の承認を受けることで実施されます。承認されると、国がその事業を行う地方公共団体や民間団体を財政支援します。

エコタウン事業が制定された背景

エコタウン事業が制定された背景には、日本の経済成長に伴う廃棄物増加の問題があります。バブル景気によって消費や生活範囲が拡大し、廃棄物の排出量が増加し続け、多くの最終処分場で残余年数が10年未満になっていました。

さらに処理の難しい大型家電などの廃棄物出現や、容器包装の使用拡大などによる廃棄物種類の多様化という問題も発生しました。こうした問題に対し廃棄物量の低減や適正処理を推進するため、廃棄物の資源化や相互利用の技術開発、施設整備などが求められるようになりました。

こうした背景から、地方公共団体が国の支援を受けながら廃棄処理やリサイクルの受け皿を作り、さらに地域の循環型社会の形成と経済活性化も目指したエコタウン事業が生まれたのです。

エコタウン事業の事例紹介

具体的なエコタウン事業はどのようなものかを、その実績とともに紹介します。

北九州エコタウン事業

北九州市の「北九州エコタウン事業」は環境リサイクル産業を柱とし、エコタウン事業の第1号承認を受けています。北九州市は重化学工業を中心に、日本の近代化や高度経済成長を牽引する存在でした。しかし、1960年代に工場排気による大気汚染や、排水による海洋汚染が深刻化しました。

その後に市民や企業、行政が一体となった取り組みによって環境が改善し、環境再生を果たした「奇跡の街」として国内外に紹介されるようになります。この公害克服の経験と港湾機能やリサイクル産業の技術などを活かし、北九州エコタウンプランを策定したのです。

北九州方式3点セット

北九州エコタウンの環境産業振興には、「北九州方式3点セット」と呼ぶ戦略の柱があります。この組み合わせにより、事業性調査や技術開発への助成、行政手続きのワンストップサービスなどが可能になっています。

  1. 教育・基礎研究
    北九州市立大学や九州工業大学、早稲田大学、福岡大学と協力して基礎研究や人材育成を行い、産学連携の拠点として北九州学術研究都市を形成しています。

  2. 技術・実証研究
    洞海湾の西にある実証研究エリアでは、環境貢献の技術開発も盛んです。各種研究施設が充実しており、最先端の廃棄物処理や資源リサイクル、新エネルギーなど幅広い環境関連技術の研究開発が行われています。

  3. 事業化
    具体的な事業化では、ペットボトルやOA機器、廃太陽光パネル、食用油や古紙、空き缶など幅広いリサイクル事業会社が運営されています。さらに響灘(ひびきなだ)東部地区では、リサイクル事業と併せて風力発電事業も行われています。

世界へ発信する北九州エコタウン

北九州市は2018年、OECD(経済協力開発機構)による「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」にアジア地域で初めて選定されました。環境負荷の低いリサイクル製品を循環させる仕組みづくりが、高く評価されたと考えられます。

さらに東アジアを中心に海外へ技術協力などで進出する企業もあり、北九州エコタウン事業は世界規模で拡大しています。

川崎エコタウン

川崎市は戦前から埋め立てによる工業地帯が形成されましたが、1980年代後半に過密による都市問題が深刻化しました。併せて既存産業の低迷という課題もあったため、これまでの公害対策の経験や資源循環型産業技術の蓄積などを活かした「川崎エコタウン事業」を策定し、1997年に承認されました。

4つの基本構想

川崎エコタウン事業には、4つの基本構想があります。

・企業自身のエコ化を推進
企業自体がリサイクル施設の整備を先導し、さらに企業の特徴や強みを活かした資源循環の促進を行います。合わせて工場からの排水や廃棄物のゼロエミッションにも取り組みます。

・企業間の連携による地区のエコ化
企業間の連携によって川崎ゼロエミッション工業団地の整備を進め、共同リサイクルも実施していきます。製造する産業側とリサイクルする側が隣接するという川崎の立地の特性を有効に活かします。

・地区の発展に向けた研究の実施
環境を軸とした持続的に発展する地区を実現するため、エネルギー有効利用の研究やエコタウン全体の取り組みを高度化する研究を行います。さらに研究開発産業の振興にも取り組みます。

・成果の情報発信、海外への貢献
企業や地区の成果を情報化し、国内だけでなく海外へも発信します。また得られた成果を開発途上国に貢献し、視察の受け入れも積極的に行います。さらに国内外の優れた環境技術やノウハウを発信する取り組みも行います。

環境技術で国際交流する場に

川崎は首都圏にあり、アクセスしやすいという立地をいかし、定期的に川崎国際環境技術展を開催しています。ここでは環境への取り組みや新たな技術を発信するだけでなく、環境技術の国際交流も行われ、企業と企業のビジネスマッチングの場としても機能しています。

今後は資源や廃棄物の処理だけでなく、発電施設を有することや各産業が持つIoT、AIなどの技術を活かし、循環産業と環境産業の高度化に取り組む計画です。また地域の活性化やアジアなどの都市への環境改善貢献も進めていきます。

秋田県北部エコタウン

秋田県は1990年代半ばに鉱山の閉山があり、代替え産業の育成を目指していました。そこで鉱山関連や林業、木材産業の技術活用も含めた「秋田県北部エコタウンプラン」を策定し、1999年に承認されました。この事業の特色は秋田県北部の9市町村によって取り組まれている点です。

この市町村のある地域では鉱山や精錬所が多く、これを活用した金属リサイクルの事業化が進められていました。さらに秋田杉の産地として木材産業も盛んなほか、秋田県有数の野菜産地ともなっています。これらの市町村が連携して、資源循環型産業への転換を図るエコタウン事業に取り組んでいます。

具体的な事業

秋田県北部エコタウンでは鉱業関連基盤を活用した家電リサイクル事業を行い、多種多様な非鉄金属のリサイクル拠点として関連基盤を強化しています。2011年には「地域活性化総合特区(レアメタル等リサイクル資源特区)」にも認定されました。

これにより日本国内やアジア地域からの金属系使用済み製品の搬入量が増え、目標値を大きく上回る金属リサイクルが実施されています。

リサイクル対象の拡大と今後の方向性

他にも農業用フィルムと廃プラスチックを複合した高機能性新木材の製造や、石炭火力発電所から発生する石炭灰を利用した製品の開発と販路拡大などにも取り組んでいます。さらに秋田県の気候特性を活かした大規模風力発電なども進められています。

CO2削減にも貢献するエコタウン事業

廃棄物の処理問題から始まったエコタウン事業ですが、大規模かつ広範囲なリサイクル設備や研究施設の整備により、循環型社会の実現に大きく近づいています。さらに関連企業による地域経済の振興や雇用創出にも貢献しています。

現在は温暖化対策に向けたCO2削減のためにも、よりリサイクルへの取り組みが重視される時代になっています。これからもさらに多くの地域で、エコタウン事業が普及していくことが期待されます。

(提供:Renergy Online



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