仮想通貨(暗号資産)への投資がブームとなっています。それを象徴するのが、仮想通貨の代表格ともいえるビットコインの高騰です。2021年2月には600万円の大台を突破し、投資家ではない人たちからも注目を集めました。
これだけ価格が高騰している背景には、仮想通貨を資産として認識して保有したいと思う人が買いを入れていることも十分考えられます。アメリカの大手EVメーカーであるテスラが大規模なビットコイン投資をしたのも、その流れの一環であると考えることができます。
多くの人や企業が仮想通貨を資産として認識するようになると、気になるのは相続です。現役世代の人が仮想通貨を購入して保有し、そしてその人が亡くなると仮想通貨も相続財産となります。これまでになかった新しい資産だけに、仮想通貨の相続は税制上どのような扱いになるのでしょうか。その場合、税率はどうなるのか、節税の余地はあるのか、といったように次々と税金に関する疑問が浮かび上がってきます。そこで今回は、仮想通貨と相続の関係について解説します。
仮想通貨とは何か
最初に、仮想通貨とは何かという基本的な部分について簡単におさらいをしておきたいと思います。
仮想通貨とは暗号資産、暗号通貨とも呼ばれるもので、ブロックチェーンと呼ばれるネットワーク上に存在する暗号データのことです。この暗号データは強固なセキュリティ性によって復号や偽造、改ざんなどが極めて困難であるため、決済に使用できる通貨としての役割や価値を持つようになりました。
その草分けのような存在が、ビットコインです。昨今の仮想通貨投資ブームではビットコインが600万円を突破したことなどが耳目を集めていますが、それ以外にもイーサリアムやリップルといった主要な仮想通貨も存在し、こうした仮想通貨も高騰しています。さらに他にも膨大な数の仮想通貨が存在し、世界中の仮想通貨取引所で日々取引されています。
混同されやすいのが、キャッシュレス決済に用いられる電子マネーです。PayPayや楽天Edyといった電子マネーはいずれも日本円がベースになった電子マネーサービスであり、単に決済を電子化しているだけで仮想通貨とは別物であるとお考えください。しかし、テスラの事例のように代金決済を仮想通貨で行うことが一般化すると、電子マネーのサービスを使った仮想通貨決済が日常的に行われるようになるかもしれません。
昨今の仮想通貨の高騰には、こうした未来を見すえて需要が高まるのではないかという思惑も関係しています。
仮想通貨の法的な位置づけ
法的には、仮想通貨はどのように位置づけられているのでしょうか。資金決済法という法律の第2条5項には、仮想通貨の定義があります。
資金決済法第2条5項
この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
この条文から読み取れるのは、仮想通貨の財産的価値です。仮想通貨に財産的価値があるということは、相続においても単なる暗号データの塊ではなく、財産として見なすという意味でもあります。
相続税の基本的な仕組み
それでは次に、相続税についての基本をおさらいしておきましょう。相続税には累進性といって、対象となる財産の規模が大きくなるほど税率が高くなる仕組みになっています。以下が、相続税の税率一覧表です。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
1,000万円以下であれば10%である税率が、6億円を超えると55%にもなります。その差は、なんと5.5倍です。しかも最低税率でも10%なので、相続税は累進性があることに加えて税率が高いことでも知られています。
このように相続財産の規模によって税率が変動するため、相続税を少しでも低く抑えるためには、相続財産の評価額を低く抑えるのが基本的な考え方です。しかし、すでにご存じのように仮想通貨の相場はボラティリティ(変動幅)がとても高く、乱高下することも多いため、その価値をどう評価するのかが気になるところです。
仮想通貨を相続した場合の税務
被相続人が仮想通貨を保有している場合、相続発生日(被相続人の死亡日)の価額によって資産額を評価することになります。しかし、仮想通貨取引所は24時間稼働しており、株価のようにその日の終値がありません。そのためどの時点での価額を使って評価するかといった明確な定義がまだありません。現段階では、その日のある時点での価額を適用することとなっています。
仮想通貨に対する法整備が追い付いていないことは各方面から指摘されていますが、それは相続財産としての評価にも同様のことがいえます。
また、すでに数えきれないほどの仮想通貨が流通していますが、そのうちどれを資産と見なし、相続税の課税対象とするかについては、国税庁が「活発な市場がある仮想通貨」と定義しています。具体的にはビットコインをはじめ、先ほど挙げたイーサリアムやリップルなどはほぼ確実に資産として見なされると考えられます。その他のコインについては個別に評価すると定義されているため、実質的に無価値なコイン以外は課税対象になると考えた方がよいでしょう。
相続した人がパスワードを知らない場合はどうなる?
仮想通貨は手に取ることができる現物があるわけではなく、あくまでもブロックチェーン上の暗号データにすぎません。保有している人だけが知っていた管理口座のパスワードを知らなければ、仮に仮想通貨を相続したとしてもそれを使用したり、処分したりすることができません。相続人がパスワードを知らず、使用できない状態であっても相続したことになるのかといった議論があります。
相続した人がパスワードを知っているにもかかわらず、知らないふりをして課税逃れをする余地が生まれるため、現状の解釈ではパスワードを知らなくても課税対象になると考えられています。しかし、これについても法体系や解釈が整備されているとはいえず、今後こうした問題についても法的に整備されていく可能性があります。
こうした仮想通貨特有の問題を考えると、今後仮想通貨の相続が考えられる場合はその仮想通貨を相続した人が引き続き管理できるようパスワードなどの情報を共有しておく必要があるといえるでしょう。
仮想通貨をめぐる税制はまだ過渡期にある
先ほどから述べてきているように、仮想通貨に関する税制はまだまだ未整備の部分が多く、過渡期にあります。仮想通貨取引によって得られた所得は所得税の雑所得扱いとなり、すでに分離課税になっているFXとは扱いが異なります。今後FXと同様に扱われる可能性はありますが、現状のままだと仮想通貨取引は税制上不利な位置にあると言わざるを得ません。
新しく登場した資産だけに税制だけでなく法的な整備が追い付いていないのは明らかですが、だからといって仮想通貨がなくなるわけではなく、今後仮想通貨がさらに普及すれば相続との関わりは必ず生じることになります。仮想通貨を資産と見なし、ポートフォリオの一部に組み込んでいる方は、投資による利益だけでなく相続のこと、税制のことにも関心を持って可能な限り理解をしておくことをおすすめします。
特に仮想通貨の価格が乱高下している関係上、これまででは考えられないような大きな利益を手にする人が続出しています。このように大きな利益を上げている人が多い世界は税務当局も目を光らせているので、思わぬ不利益を被ることがないように情報を収集しておくことが重要です。
(提供:Incomepress )
【オススメ記事 Incomepress】
・不動産投資にローンはどう活用する?支払いを楽にする借り方とは
・お金の貯め方・殖やし方6ステップとは?ごまかさずに考えたいお金の話
・日本人が苦手な借金。良い借金、悪い借金の違いとは?
・あなたは大丈夫?なぜかお金が貯まらない人の習慣と対策
・改めて認識しよう!都市としての東京圏のポテンシャル