投資用マンションによる不動産投資を行おうとした場合、たとえば「東京オリンピックのあとの景気後退により、不動産価格が下落するはずだ」といった市況予想を行い、取得するタイミングを重視しがちですが、マンションなどの不動産価格は比較的長期間で変動するため、予想が外れた場合は大きな機会損失となってしまいます。

また、定年退職などによって収入が減少した場合は、減価償却による節税効果も減少してしまう恐れもでてくるため、不動産投資を開始する年齢が重要となっています。

本記事では、不動産価格の動向と不動産投資の開始時期が前後した場合、減価償却による節税効果にどのような影響を及ぼすのかを解説していきます。

不動産投資はいまが有利?

不動産投資は早い時期が良い理由。減価償却と法定耐用年数について
(画像=beeboys/stock.adobe.com)

不動産投資では賃料による収入の増加と減価償却による節税効果の2つが大きなメリットとなります。早くはじめるほど賃料収入による利益の蓄積が見込めるほか、減価償却による節税効果は所有者本人の所得が多いほど効果が大きくなるため、定年退職によって所得が減少した場合は節税効果も縮小してしまいます。

不動産の減価償却期間は比較的長く設定されているため、サラリーマンなどの会社員が節税効果をフルに活かそうとする場合は、できるだけ早期に開始することで不動産投資のパフォーマンスを向上させることも可能となります。

また、不動産価格も近年は上昇傾向が続いており、国土交通省が発表する不動産の取引価格の動向を指数化した「不動産価格指数」によると不動産価格の値上がり傾向が続いており、特に区分所有マンションにおいて顕著になっており、2020年に発生した新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的な流行や、それに伴う東京オリンピックの開催延期が生じたにも関わらず右肩上がりに上昇しているため、不動産投資をはじめるには今がもっとも有利なタイミングといえます。

東京23区の地価推移について

不動産投資にはオフィスビルやアパートなどを利用するものもありますが、これらは比較的多くの取得費用が必要となるため、資金が少ない場合は不動産のなかでも比較的安価な区分所有マンションが選びやすいといえます。

とくに区分所有マンションの不動産価格指数は全国的に上昇傾向が続いており、なかでも東京23区は大阪・名古屋などの他の都市圏よりも高い上昇率を示しています。

しかし、不動産価格が上昇に対し賃料相場は追従しきれないため、購入時期が遅くなってしまうほど物件の取得に多額の費用が必要となり投資効率が次第に低下していきます。上昇相場での不動産投資は、できるだけ早期に行動に移すことが投資成功のポイントといえるでしょう。

不動産投資における法定耐用年数と減価償却の関係とは?

区分所有マンションなどを利用した不動産投資の収入は「不動産所得」に区分され、事業所得・給与所得などと利益・損失を合算する「損益通算」を行うことができます。

この損益通算は、たとえば不動産所得の赤字と事業・給与所得の黒字を合算し、所得税の課税金額を押し下げることができます。ただし、この不動産所得の赤字は必ずしも実際の損失を生じる必要はなく、投資用不動産の減価償却によって赤字となった場合でも適用を受けることができます。

しかし、居住用不動産の法定耐用年数は木造で22年、マンションなどで採用されている鉄骨鉄筋コンクリート造や鉄筋コンクリート造などは47年となっており減価償却に長い期間が必要になります。

賃金カーブの動向について

サラリーマンなどが稼得する賃金をグラフ化すると定期昇給による上昇や定年退職などによる下降により山なりのカーブを描きます。
これを「賃金カーブ」といい、厚生労働省の統計では男性の場合は年齢の高まりとともに賃金も増加していき、55~59歳の42万1,000円をピークに、その後は下降していくことになります。

所得税は所得が多いほど税率が高くなる累進課税制度を採っていますので所得が減少してしまうと節税効果も低下してしまいます。賃金カーブの上昇に沿って所得の増加と節税対策の両方を実施することがおすすめです。

厚生労働省:令和2年賃金構造基本統計調査より
(厚生労働省:令和2年賃金構造基本統計調査より)

早く始めるほど節税効果や投資利益の増大を期待できる

不動産投資を有利に進めるにはこの賃金カーブの上昇に合わせていくことが重要ですが、開始タイミングが変化した場合、不動産投資の効果はどのように変化していくのでしょうか。シミュレーションによって確認しておきましょう。

シミュレーション条件
・投資開始年齢は25歳、35歳、45歳の3パターンで平均年収は下表に従う。
・所得控除は給与所得控除、基礎控除、社会保険料控除の3つとし、社会保険料の負担率は15%とした。

年齢平均年収(万円)所得控除合計
(万円)
給与の課税所得
(万円)
20代280.3182.198.2
30代370.5221.7148.8
40代449.2249.2200.0
50代503.8268.3235.5
60代353.6215.1138.5
70代~312.6196.7115.9

(平均年収出典 厚生労働省:令和2年賃金構造基本統計調査より)

・平均余命は82歳とした。
・物件価格は3,500万円の新築マンションで法定耐用年数は47年とした。
・賃料収入の想定は当初20年間は120万円で、それ以後は15%減少し102万円とした。
・不動産投資の経費率は30%とした。
・不動産投資の利益と節税による還付金は年利2%で複利運用を行った。

シミュレーションの結果、開始時期が早いほど所得税の節税効果や累積利益の増加が見込めました。不動産の賃料収入は物件の減価償却費によりほとんど吸収されており、所得税による税負担はほとんど生じていませんでした。

減価償却費は25歳開始の場合は72歳で、35歳開始の場合は82歳で償却が終了し、平均余命以内で節税効果を活用することができました。一方、45歳開始の場合は減価償却が完了する前に平均余命を迎えてしまうほか、累積利益を複利運用する期間も短いため投資パフォーマンスの低下も顕著となっていきました。

取得する物件の築年数などにもよりますが、新築マンションによる不動産投資を検討している場合は35歳頃までの開始をおすすめします。

25歳開始35歳開始45歳開始
所得税の
節税効果
累積利益所得税の
節税効果
累積利益所得税の
節税効果
累積利益
82歳
到達時
6万3,000円8,045万7,000円4万8,000円5,978万8,000円2万6,000円4,261万6,000円

※不動産投資期間の差異による投資パフォーマンスへの影響について
(参照:厚生労働省:令和2年賃金構造基本統計調査、令和2年賃金構造基本統計調査をもとに編集部作成)

中古マンションや木造戸建住宅の減価償却について

年齢により投資期間が長く取れない場合は、法定耐用年数が短く、短期間で減価償却が行える中古マンションの購入が思い浮かびます。

中古マンションの法定耐用年数は、(新築の耐用年数-築年数)+築年数×0.2で算出され、たとえば築15年のマンションを購入した場合は(47年-15年)+15年×0.2=35年となります。

従前の条件でシミュレーションを行ったところ、45歳開始の場合でも平均余命以内に償却を行うことがき、節税効果が高まりますが、その反面賃料収入が減少してしまうため、総合的なパフォーマンスでは劣ってしまいました。

また、木造戸建住宅の場合はさらに短期間で償却が可能ですが、土地が減価償却の対象とならないため、投資パフォーマンスがより低下してしまいました。

45歳開始(新築)45歳開始(中古)45歳開始(戸建)
所得税の
節税効果
累積利益所得税の
節税効果
累積利益所得税の
節税効果
累積利益
82歳
到達時
2万6,000円4,261万6,000円60万6,000円4,066万1,000円27万4,000円3,955万9,000円

※不動産投資期間の差異による投資パフォーマンスへの影響について
(参照:厚生労働省:令和2年賃金構造基本統計調査、令和2年賃金構造基本統計調査をもとに編集部作成)

不動産投資はさまざまな要因を総合的に判断することが大切

不動産価格の変動は株式などの金融商品と比べて比較的穏やかといえます。ただし、購入するタイミングを計っていると長い時間を必要としてしまうため、賃料収入を得る機会を失ってしまうほか、予想通りに価格が調整されなかった場合は物件価格の値上がりにより投資効率の低下を招いてしまう恐れがあります。

また、自身の賃金カーブを意識し、所得が少ない時期や減少した場合は賃料収入で補ったり、給与所得が多いタイミングで節税効果が発揮できるよう、不動産投資の開始時期を意識したりしておくとよいでしょう。

不動産投資による賃料収入は安定しているため資金計画が立てやすいという特徴があります。しかし、増えた収入を消費に回してしまうと、定年退職や賃料の値下がりなどで収入が減少した際に支出の削減が間に合わず生活が困窮してしまうかもしれませんので、複利運用などで利益をさらに増やしていくことをおすすめします。

(提供:Incomepress



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