目次

  1. 要旨
  2. 6月21日の株価急落
  3. 株式市場の反応
  4. 日本の場合
  5. 長期金利の行方

要旨

経平均株価は、6月21日に大幅に下落した(前日比▲953.15円)。先週のFOMCとダウ急落を受けたからだ。日本株は、ワクチン効果を先取りしていた分、反動の下落も大きい。米国は、金融緩和の出口戦略に着手したことになる。これで株価がしばらく上昇しないと問われると、米長期金利が低位であることが、楽観的な材料になる。まだ継続的な株価下落かどうかは見極めにくい。

6月21日の株価急落

日米株価が急落している。6月21日の日経平均株価の終値は、前日比▲953.15円の下落である(図表1)。目先、これが一時的なものかどうかが焦点になる。

引き金は、6月15・16日のFOMCで想定外に緩和修正の見通しが早まったことだ。メンバーの利上げ見通しが、2023年末に2回を見込むかたちに変わった。2022年末に18人中の7人が利上げを見込む。3月時点の利上げ見通しは、2023年末7人だったのに、6月には一気に13人の利上げ派に変わった。また、6月に2022年末7人という人数も、今後の展開では過半数に増えていく可能性を感じさせてきな臭い。セントルイス連銀のブラード総裁は、18日に2022年末に利上げを見込んでいることを明らかにした。

6月のFOMCで起こったサプライズは、8月のジャクソンホール会議でテーパリングの時期を見定めようとしていたら、いきなり利上げの観測の前倒しを食らった格好だったからだ。米国は、金融緩和の出口戦略に着手したことになる。仕組みとしては、超過準備の金利(IOER)を引き上げれば、利上げ開始までに完全に月1,200億ドルの資産買い入れをゼロにまで減らしていく必然性はない。それでも、大方の見方は、順序としてテーパリングは利上げ前に完了すると見たのだろう。

仮に、2023年末に2回分+0.50%の利上げとなっているのならば、利上げ開始は2023年6月になり、資産買い入れ額はそれまでにかなり縮減されると見込まれる。テーパリングに1年間をかけてから利上げ開始とすると、テーパリングの開始は2022年6月になる。テーパリングから利上げまでに様子見を半年間設けるとすると、2021年末のテーパリング開始という日程であってもおかしくはない。

過去の経験では、2013年12月のテーパリング開始で100億ドルずつ買い入れを減らして、2014年10月に完了した。それから、2015年12月に利上げに踏み切っている。今回はそれよりもずっと急ぎ足になる気配を感じる。コロナ禍からの正常化が速いから、そうなりそうである。

その行方を占うときは、今後の消費者物価が鍵になる。前月比の上昇幅が6~8月までずっと高止まりすると、日程は前倒しされることになる。原油価格の上昇が6月以降の物価上昇圧力になることが有力視されているので、まだ危険な状態は9月のFOMC頃までは続きそうだ。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

株式市場の反応

日米株価は、コロナ禍が始まって、2020年夏くらいから上昇を続けてきた。米株価は特にそうだ。当面の試練は、金融相場が緩和後退を織り込んでどこまで自律的に下がるかである。一方で、ワクチン効果が、実体経済を押し上げる効果もかなり大きいはずなので、金融相場はうまく行けば、業績相場へとスイッチしていくだろう。

米経済は、すでに3月くらいからワクチン接種の効果が、財政政策と相まって、マインドや実体を改善させている。それに比べると、日本の場合は、ワクチン接種が遅れている。日本株の動きは、ワクチン効果をかなり先取りしている様子があるので、相対的に業績相場へのスイッチは遅れるだろう。理由は、金融緩和+ワクチン期待で株価が過大評価されて上昇した部分が、金融緩和の後退で大きく下がり、それを今後、従来期待された以上の業績拡大で取り戻すのは時間がかかると考えられるからだ。

FRBにしてみると、ワクチン効果が3~6月にかけて予想以上に実体経済を回復させたので、金融緩和を多少修正しても、景気拡大は揺るがないと判断したのだろう。しかし、米株式市場は、過剰流動性の効果は予想以上に株価を嵩上げしていた可能性はある。その反動の大きさは深刻である。すると、米株価の水準回復には少し時間がかかるというシナリオになる。

日本の場合

米株価に連動して、日本の株価が下落すると、日本の景気回復は余計に遅れてしまう。日銀もそれを強く警戒するだろう。

日銀は、FOMC直後の6月17・18日に決定会合を開いており、総裁記者会見でも、米金融緩和の修正について黒田総裁に質問があった。黒田総裁は、緩和修正は「ドル高・円安と多くの市場参加者はみるだろう」と、日本株への好材料を強調してみせた。

さらに、米国での緩和縮小が、日銀の出口を連想させないように釘を刺す。「日本はコロナ拡大前から物価上昇率が低い水準で停滞していた」から、ワクチン効果で物価の勢いが元に戻るとしても、2%の実現はまだ遠いという説明である。コロナ前に物価上昇ペースが速かった米国とは同列に出口戦略を語れないという見方である。

長期金利の行方

筆者には、1つだけ気になることがある。米長期金利が意外に上昇方向には動いていないことだ(図表2)。もしかすると、日米株価は意外に堅調さが維持できるかもしれないという気持ちもある。現時点で、筆者は日米株価が低迷する局面に入ったと断言できないというのが正直な見解だ。

すでに、バイデン政権はかなり大規模な国債発行を予定していて、これまではFRBの資金供給がそれに一役買っていた。テーパリング観測は、国債の需給をFRBの緩和が支え続けるという見方を修正するものだったはずである。米長期金利はもっと上昇してもおかしくはない。

しかし、米長期金利は1.4%台である(図表2)。2021年2・3月に米長期金利が上昇していたときに比べると、少し事情が違っている気がする。2・3月は、長期金利上昇によって、実体経済が下押しされる懸念はもっと強かったはずだ。現在は、株価下落に反応した米長期金利の低下が、実体面への悪影響を相対的に小さくしていると考えられる。米長期金利が低位であるのは、FRBの金融緩和の修正がそれほど大きくないとみているからなのだろうか。ブラード総裁の発言が行き過ぎだと、多くのFOMCのメンバーが考えれば、金融市場とのコミュニケーション・ギャップを埋めるために、何人かのメンバーはもっとハト派的なメッセージを送ってくるはずだ。それを見極めようとしている投資家も少なからず居ると思う。

逆に、そうした追加的なメッセージがなければ、米長期金利は夏場にかけて上昇するだろう。そうなったときは、日米株価の下落局面はしばらく続くとみられる。(提供:第一生命経済研究所

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

第一生命経済研究所 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生