「太陽光発電システムを0円で導入できる」PPA(電力販売契約)モデルはこんなフレーズで紹介されることが多いですが、実際には「PPAに不向きな企業」もたくさんあります。
本稿の前半では「PPA向き・不向きの分かれ目はどこか」、後半では「PPA向きの会社に導入した場合、どのような効果があるのか」を考察します。
※なお本稿では、利用企業が所有する建物の屋根や敷地に太陽光発電システムを設置する「オンサイトPPA」をPPAモデルと表記しています
導入費用0円で話題のPPAモデルにもデメリットがある
PPAモデルの利用企業のメリットでよくいわれるのは「(自家消費電力をまかなう)太陽光発電システムを0円で導入できる」というものです。この他にも、PPAのメリットは下記のように数多くあります。
- 電気代が割安になる
- 再エネ賦課金がかからない
- 自家消費した電力に環境価値がつく
- 太陽光発電システムの固定資産税がかからない
- 太陽光発電システムのメンテナンス費用がかからない
- 停電時にも電気が使える(ただし設備や設計による)
- 太陽光発電システムを最終的にもらえる
これらのメリットを端的にまとめれば「PPAモデルはコスト削減に貢献し、サステナビリティに取り組む企業イメージ確立に貢献する」となります。一方、PPAモデルには下記のようなデメリットもあります。
- PPA事業者(設備提供業者)の倒産リスクがある
- 10年以上など長期契約のしばりがある
メリットとデメリットを比較すると「PPAモデルはメリットが圧倒的に大きい仕組み」というのは一目瞭然です。そのため、経営者や担当者としてはPPAのことを知れば知るほど「今すぐ導入したい」という結論に至りやすいでしょう。
しかし、実際にはPPAモデルに不向きな企業もあります。勇み足をしないよう、まずは「自社がPPA向きか否か」を判断することが大事です。この判断をしないままPPAモデルの導入検討を進めてしまうと、最終的に費やした期間がムダになります。
電力消費量の多い企業は、PPAモデル導入を先延ばしにする理由がない
自社が「PPA向きか否か」を判断するには、「PPA事業者の視点」で自社の特徴をチェックするとわかりやすいです。PPA事業者からすると、利用企業に太陽光発電システムを提供するのは投資です。電気代によってシステム設置にかかった費用を回収することで利益を得ます。
投資家の視点でPPAを考えると、利用企業の消費電力が少なければ、太陽光発電システムに投じた費用の回収が難しくなります。また、利用企業が倒産したり電気代の支払いが滞ったりすれば多大な損失が発生します。
つまり、PPA事業者に歓迎される(=PPAモデル向きの)利用企業とは、次の2つの条件を備えた企業ということです。
- 現時点で大量の電力を消費している
- 将来的に大量の電気を消費し続ける可能性が高い
この条件にあてはまらない企業はPPAに不向きです。具体的にいえば、小規模でオフィスワークが中心のような電力消費量の少ない企業とPPAモデルは相性が悪いです。こういった企業が再生可能エネルギー利用を推進するならPPAモデル以外の道を探るべきです。
逆にいえば、大量の電力を消費している企業は、PPAモデル導入を本気で検討すべきです。
実際のPPAモデル導入事例を見ても、電力消費量の多い企業ばかり
「大量の電力を消費している企業にPPAモデルが向いている」というのは、導入事例を見ても明らかです。以下の表は、これまでにPPAモデル導入を発表した企業や自治体の一例ですが、いずれも店舗や工場などで電力を大量消費する企業ばかりです。
PPA導入企業や自治体 | 概要 |
---|---|
イオン | 2019年、滋賀県の店舗でPPAモデルを初導入 200店舗まで拡大していく計画 |
キリンビール | 仙台工場の倉庫屋根に太陽光パネルを設置 工場で使用する電気の13%をまかなう計画 |
カイハラ産業 | 同社は国内最大のデニム生地メーカー 三和工場で国内最大級のPPAモデルを導入 |
東洋アルミニウム | グループ孫会社の工場でPPAモデルを導入 |
横浜市 | 建て替え予定のない65校の小中学校が対象 学校の屋上にパネル、屋内に蓄電池を設置 |
上記のPPAモデル導入企業の中から、2050年にCO2などの排出ゼロを目標に掲げるイオンの事例を詳しく見ていきます。イオンの事例を見てみると、PPAモデルのメリットをより実感していただけるのではないでしょうか。
PPAモデル導入で「再生可能エネルギー推進のジレンマ」解消
「2050年にCO2などの排出ゼロ」の目標に向かって、イオンでは店舗や駐車場の屋根に太陽光発電システムの設置を進めています。直近では約7000万kWhが太陽光によって発電された電力です。
長期的に見れば、太陽光発電設備で発電した電力を自家利用することでコストダウンできるのは間違いありません。
一方、短期的に見れば、太陽光発電システム設置を推進するほどコストがかさむ問題が出てきます。導入コストを企業努力や補助金などで吸収しても限界はあるでしょう。このような「再生可能エネルギー推進のジレンマ」を解消するのにPPAモデル導入は貢献します。
一例では、イオン藤井寺ショッピングセンターやイオンモール津南でPPAモデルの導入を実施し、将来的に200店舗でのPPAモデル採用を目指しています。
つまり、200店舗分の太陽光発電システム設置という莫大なコストが浮くわけです。PPAモデルによって、コストを抑えながら再生可能エネルギーを進めることが可能になります。
早い段階のPPAモデル導入でステークホルダーにインパクト
イオンの導入事例でわかることは、PPAモデルを業界や競合他社に先駆けて導入するほど、お客様・取引先・金融機関などのステークホルダーに「CSRやサスティナビリティを進める企業」のインパクトを与えられるということです。
イオンが店舗にPPAモデルを初めて導入したのは2019年4月です。国内小売りで早い段階で導入に踏み切ったことで数多くのメディアで「イオンがPPAモデルで再エネ推進」というような見出しで取り上げられました。
PPAモデルが注目される流れは2021年5月段階でも続いており、例えば2020年3月4日付の日経ESGでも「イオン、PPAやプラ対策で脱炭素化」の見出しで記事化されています。もしこれが、5年後、10年後にPPAモデルがスタンダードになった段階で導入を表明してもインパクトは皆無でしょう。
PPAモデル導入は2021年、2022年段階でもインパクトのある施策です。「CSRやサスティナビリティを進める企業」のイメージ確立を目指すなら早い段階で導入すべきです。
PPAモデル・太陽光発電の導入は、サスティナビリティ時代の経営法則
御社が「PPAモデル向きの企業」なら、早い段階で導入を決断すべきです。これが本稿を通して経営者や担当者の方々にもっともお伝えしたいことです。とくに現時点で自家発電用の太陽発電システムを有していない企業は、PPAモデルによって早急に実現することをおすすめします。
どのタイミングでPPAモデルによる太陽光発電システムを導入しても、「初期費用を0円にできる」「長期的に電気料金を抑えられる」というコスト削減効果は変わりません。
しかし、もう一つのメリットである「サスティナビリティに取り組む企業イメージの確立」は先延ばしにするほど薄れていきます。競合他社が太陽光発電を導入してからの後追いでは、差別化になりません。
PPAモデルの導入によって、自家発電用の太陽光発電システムをいち早く導入し、その事実をステークスホルダーにしっかり伝えていく。その結果、お客様、地域、金融機関などから信頼感を獲得して収益に結びつける。これこそがサスティナビリティ時代の経営法則なのです。
(提供:Renergy Online )
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