本記事は、谷厚志氏の著書『損する言い方 得する言い方』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています

「関わりたくない」と苦手な人から目を背けない

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(画像=Graphixchon/PIXTA)

●苦手と思うことの中に楽しみを見つける

私はやりたくないことに出くわすと、「生きるのがつらい」と口癖のようにつぶやいていました。

あるお仕事の現場で、AIの専門家の方とお会いする機会がありました。ご存知のように、「AIが発達すると、人間の仕事がたくさん失われていく」と言われています。その方と会話を交わしたなかで、とても印象に残っていることがあります。

それは、そのAIの専門家の方が「目先のお金や安定にしがみつき、仕事を嫌々我慢してやっている人は必要とされなくなり、会社から与えられたことだけしかやらない人は確実に仕事がなくなっていく」と仰ったことです。また、「『テレワークで通勤時間がなくなり、楽になった』と言って家でゲームばかりしている人や、『今の時期は暇だから周りの人も大した仕事をしていない』と流されて生産性のない時間を過ごしている人から路頭に迷っていく時代になる」と断言されていました。

つまり、人が見ていなくても自分を律して全力で仕事に取り組まないと、これからは生き残れないということです。

また、その話を聞いた後、私が「では、どんな人がこれから生き残れるのか?」と質問すると、その方は「苦手だと思う仕事を楽しくできる人」と教えてくれました。

誰もが何となく避けたがることを愚痴も言わずに楽しく取り組むことができる人が、重宝されるようになるというのです。少し意外な答えでしたが、私は“確かに、そうかもしれない”と、非常に納得したことを覚えています。

大事なのは“楽しく”という部分です。AIが発達しても、面倒な仕事や苦手な人との人間関係がなくなることはないでしょう。そうであれば、仕事をしていくなかで「嫌だ」「つらい」「逃げたい」という気持ちになる時間が短ければ短いほど、心地よい充実した時間を過ごせるようになります。

例えば、私が専門としているクレームやトラブルの対応は、おそらく誰もが苦手と思う仕事なのかもしれません。ただ、私は“お客様のお困り事を解決する価値ある仕事”だと考えるようになってからは、嫌な思いもせず「生きるのがつらい」とつぶやくこともなくなりました。

では、どうすれば苦手なことや逃げたいと思う仕事を、意義や価値ある仕事へと自分で認識を変えていく習慣を身につけることができるのでしょうか?

その一例を紹介しましょう。取引先の社長さんで元々はミュージシャンだったのですが、音楽をあきらめてサラリーマンに転身したという方の話です。

営業マンとしての下積み時代のエピソードがとても興味深いのですが、彼は上司から叱られたときには「プロデューサーがよい楽曲を提供してくれた」と喜ぶようにし、その上司から残業や休日出勤を頼まれたときにも、「俺はやっとブレークした」「またアンコールをもらった」と奥さんに話していたそうです(笑)。使う言葉によって、物事の解釈を大きくポジティブに変えられることは、とても重要な能力だと言えます。

●苦手な人とのストレスフリーな付き合い方

苦手なことへの解釈を変える方法は仕事だけでなく、苦手な人と接するときにも活用することができます。

あなたの周りで、自分が特に苦手だと思う人はどんな人ですか?

ちなみに私は、会社員時代に“言葉が通じない(理解しようとしない)上司”と“本当に苦手な部下”との出会いによって、いろいろな面で随分と鍛えてもらいました。

言葉が通じない上司に対する私の不満は、仕事の進捗状況や売上見込みをしつこく聞かれることでした。その上司にも進捗状況の報告はしていたと思うのですが、それでもしつこく確認してくるのです。こうした状況で、「しつこくて嫌な上司」を「いつも気にかけてくれている上司」というように表現を変えることもできるかもしれませんが、私は報告の仕方を変えました。

その上司からしつこく進捗状況を確認される原因は、「問題なく順調に推移しています」「月末には目標数字は達成できます」という私の意見だけを伝えてしまっていることでした。おそらく、その上司は、根拠や具体的な数字が私の口から出てこないということ、つまり明らかに事実情報が不足していることで不安になっていたのです。

これに気づいた私は、「先方からも『順調に進んでいますね』というお言葉を頂戴しています」「目標数字の80%は獲得できており、見込みの3社のうち1社の発注が決まると目標数字は達成します」という内容を伝えるようにしたところ、その後、上司からしつこく進捗状況を確認されることはなくなりました。

自分の意見を伝えて相手(上司)を説得するのではなく、“根拠”と“数字”をしっかり伝えることで納得を得るコミュニケーションスキルを身につけることができたのです。

一方、苦手な部下に関しては、「関わりたくない」と周囲に言っていたぐらい本当に苦手だったので、例の音楽をあきらめてサラリーマンに転身した社長さんに相談しました。「どこがムカつくのか?」と聞かれたので、「私への報告でウソをつくことがあります。それと、売上が上がってもいないのにデスクでキョロキョロして落ち着きもないのですよ。ホント、最悪だと思いません?」と同意を求めたところ、「なるほど、でもウソをつくのは、彼に守りたい自分のプライドがあるからでしょう。それと、キョロキョロしているのは、人には見えない何かが見えているのではないのだろうかと笑い飛ばすぐらいの度量を持ったほうがいいですよ」と真顔でアドバイスをしてくれました(笑)。

つまり、相手に対して嫌な感情を持たないためには、相手を変えようとせずに自分の相手に対する評価の仕方を変える必要があるということを指摘してくれたのです。ですから、苦手な相手との出会いは、自分が大きく変われるチャンスだと考えましょう。

損する言い方 得する言い方
谷厚志(たに・あつし)
怒りを笑いに変えるクレーム・コンサルタント。一般社団法人日本クレーム対応協会の代表理事。クレーム評論家。1969年、京都府生まれ。近畿大学卒業後、広告会社の営業マンを経て、旅行会社のコールセンター、お客様相談室で責任者として2,000件以上のクレーム対応に従事。一時はクレームによるストレスで出社拒否状態になりながらも「クレーム客をファンに変える対話術」を確立する。現在は独立し、クレームで困っている企業などのために全国でコンサルティング活動を展開、具体的なクレーム対応法をアドバイスしている。圧倒的な経験知と人を元気にするトークが口コミで広がり、年間200本以上の講演・研修にも登壇する。最近はテレビ番組のコメンテーター、著名人のトークショーのナビゲーターとしても活動している。著書に『どんな相手でもストレスゼロ! 超一流のクレーム対応』(日本実業出版社)、『「怒るお客様」こそ、神様です! 』(徳間書店)、『ピンチをチャンスに変えるクレーム対応術』(近代セールス社)、『失敗しない! クレーム対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

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