本記事は、谷厚志氏の著書『損する言い方 得する言い方』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています

「私に言われても...」と自分を守らない

クレーム
(画像=NOBU/PIXTA)

●「自分は悪くないのに」と考えたら炎上する

仕事をしていて避けて通ることはできないのが、謝罪の場面だと思います。上司からの叱責、お客様からの苦情やクレームを受けることは、誰にでも起こります。

この謝罪が必要となる状況こそ、周囲からの信用を失ってしまうか、あるいは謝罪がきっかけで、その後に大きな信頼を得られるかのターニングポイントになります。

私は、仕事ができる人の大きな共通点として、“謝罪上手”があると考えています。

私の周りには、儲かっている投資家、すごい実績を挙げている経営コンサルタント、依頼者の行列が絶えないカメラマン、紹介だけで1年に10軒の注文住宅を受注する住宅メーカーの営業マンがいますが、彼らと接していて気づかされるのは、ポジションが高くなるにつれて腰が低くなり、謝ることや頭を下げることにまったく抵抗がないということです。

頭をたくさん下げてきたからこそ、圧倒的な成果を出し、ポジションを確立したのかと思うほどです。

一方で、ポジションが上がり偉くなったら謝らなくてもよいと思っている管理職の方が少なからずいます。クレームが起きると、自分はサッと逃げて現場に押しつけようとする人もいます。このような人が周囲から評価されて、信頼されることはまずありません。

「謝罪が苦手だ」と言う人の最大の特徴は、「自分は悪くない」「私のせいではない」と考えていることです。

以前、私のクライアント企業の部長から、「お客様からのクレームにメールで返信したところ怒らせてしまったので、相談に乗ってほしい」と言われたことがあります。その部長の返信メールを確認してみると、冒頭から「私は部下には気をつけろ、注意しなさいと散々指導をしてきたのですが、このようなことになってしまいました」と、責任逃れとしか思えない文面のメールをお客様に送っていたのです。

クレーム対応の専門家として活動しているなかで入手したデータがあります。それは、クレーム全体の60%以上は自分のせいではないことで、クレームやトラブルの対応を行なわなければいけないということです。

管理職や経営者の立場になると、ほぼ100%が自分のミスではない事情で、謝罪をしなければならなくなるでしょう。

とすると、どうするべきなのでしょうか?

そうです。うまく謝罪することができるようになる必要があります。

きちんとした頭の下げ方を学べば、仕事も人生も上昇気流に乗っていくと、私は考えています。

●謝ることは恥ずかしいことではない

謝ることは恥ずかしいことで、情けないことだと思っている人が多くいます。謝罪することで、自分の立場が悪くなるのではないかと気にする人がいますが、謝罪は自分ではなく、相手のためにするものだと理解してください。

謝ることは自分にとってマイナスで損をすることではなく、謝ることで相手との関係性をよくして、あなたが得をし、人として徳を積む機会にもなると考えてほしいのです。

さらに言うと、自分がすべて悪いかどうかに関係なく、怒っている相手や被害を主張してきた相手に対して、速やかに“謝罪の言葉”を最初に投げかけることは、トラブルが大きくなるのを避けることができる利点があります。

クレーム対応の現場で、お客様から「おたくの施設でケガをした。どうしてくれる」というクレームを受けたにもかかわらず、自分たちのせいではないかもしれないと考えてしまい、謝罪も何もせずに状況確認を進めてしまった事例がありました。

その後、自分たちの不手際でお客様がケガをされた事実が判明し、そこで初めて謝罪をしたところ、「今ごろ謝っても遅い!」と、さらにお客様の怒りを炎上させてしまいました。お客様はケガをさせられたことよりも、最初に謝罪がなかったことに延々と怒り続ける事態になってしまったのです。このような事態は、実際によく起きています。

なぜ、こんなことが起きるのでしょうか?

やはり、謝ることに対する抵抗感があり、謝罪のタイミングが遅れることで大きな問題に発展してしまうのです。

例えば、「私どもの施設でおケガをされてしまったのですね。ご不便をおかけし、誠に申し訳ございません。おケガの状況はいかがでしょうか?」と最初にしっかり謝罪した後に状況確認を行なうようにすれば、先ほどのように炎上することはなかったはずです。

これは私の苦い失敗談ですが、上司から「なぜ、お客様とのアポを取っていないのか!」と指摘を受けたときに、「部長から連絡すると言ってましたよ」と私が自分の正当性を主張したことによって、「言った」「言わない」の堂々めぐりになってしまったことがありました。

とても些細なことで、険悪なムードになってしまったのです。実際には、私がアポを取ることが、会議の議事録に書かれていました。その後、上司に謝ったのですが、完全に手遅れでした。多少の恨みを買ってしまったのでしょう。その後、しばらくは関係がギクシャクしたことを今でもよく覚えています。

これとは正反対のエピソードも紹介しましょう。

私の住んでいるマンションで、隣の部屋のペットの鳴き声がうるさかったので、マンションの管理人さんに「ちょっと鳴き声が気になります」と伝えたところ、管理人さんは開口一番に「そうでしたか!ご不便をおかけしたのですね。大変申し訳ありません」と謝罪をされました。そのときは、「管理人さんのせいでもないのに、なんて誠実な対応なんだ」と、とても感心しました。

人間の怒りの感情は、相手からの“最初の謝罪の言葉”ひとつで決まってしまうものだと痛感しました。

損する言い方 得する言い方
谷厚志(たに・あつし)
怒りを笑いに変えるクレーム・コンサルタント。一般社団法人日本クレーム対応協会の代表理事。クレーム評論家。1969年、京都府生まれ。近畿大学卒業後、広告会社の営業マンを経て、旅行会社のコールセンター、お客様相談室で責任者として2,000件以上のクレーム対応に従事。一時はクレームによるストレスで出社拒否状態になりながらも「クレーム客をファンに変える対話術」を確立する。現在は独立し、クレームで困っている企業などのために全国でコンサルティング活動を展開、具体的なクレーム対応法をアドバイスしている。圧倒的な経験知と人を元気にするトークが口コミで広がり、年間200本以上の講演・研修にも登壇する。最近はテレビ番組のコメンテーター、著名人のトークショーのナビゲーターとしても活動している。著書に『どんな相手でもストレスゼロ! 超一流のクレーム対応』(日本実業出版社)、『「怒るお客様」こそ、神様です! 』(徳間書店)、『ピンチをチャンスに変えるクレーム対応術』(近代セールス社)、『失敗しない! クレーム対応100の法則』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

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