本記事は、大橋高広氏の著書『リーダーシップがなくてもできる 「職場の問題」30の解決法』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています
企業は若手社員とシステム導入には投資するが、上司には投資しない
●教育をしてもらえない上司たち
「若手社員の残業時間が削減される反面、管理職の負担が増える」 「労働時間管理が厳しくて、管理職が部下に仕事を教える時間的な余裕がない」
こういった企業の現状を見るにつけ、上司が置かれている環境の厳しさをご理解いただけると思います。にもかかわらず、会社は、まったくといっていいほど上司をサポートしていない現状があります。
企業は、若手社員とシステム導入には投資しても、職場の要となる管理職には投資をしません。
一般的に、企業は新入社員にビジネスマナー研修などを受講させますが、その後の教育投資は、企業規模によって異なります。
大企業の場合は、若手社員が実務に関しての研修を受ける機会がたびたびあります。一方で中小企業は、そこまで研修でフォローをせず、現場のOJTを中心に育成を図る傾向があります。いずれにしても、若手社員の教育に力を入れ、管理職教育が後回しになっているという点では共通しています。
●システム導入よりも後回しにされる管理職
また、企業はシステム導入にも躍起になっています。
経営者は、「データによる見える化」「AIによる効率化」などのフレーズが大好物です。それらをもたらすツールがあると聞くと、一も二もなく飛びつく傾向があります。
データによる見える化の代表格が、HRテックによるモチベーション管理などです。
AIによる効率化には、経理作業のクラウド化などがあります。たとえば、領収書をスマホで読み込むと、自動的に仕訳ができるようなサービスが提供されています。
このように効率化を進めれば作業時間が短くなり、コスト削減も期待できるので、経営者が前のめりになる気持ちもわかります。
たしかに、経理のようにルールが共通していて、各企業ごとにほとんど違いがない仕事では、システム化による恩恵が大きいのは間違いありません。人が処理しても、AIが処理しても結果が同じ。この場合、速くて確実なAIを導入するのは理屈が通っています。
しかし、たとえば「部下の失敗」を同じように扱うことはできるのでしょうか。
一言で「失敗」といっても、「リスクをとって勝負した結果の失敗」と、「過去の失敗を繰り返してしまった不要な失敗」とでは評価が異なります。これはシステムでは判断が難しいといえます。
本来、それを適切に評価して会社に報告したり、共有したりするのは上司の役割です。その役割を果たせなければ、職場全体が停滞してしまいます。
このように、上司の仕事は相当困難です。なのに、なぜか軽視されているのです。
少し前に、人事業界では、「ティール組織」というものが流行しました。
ティール組織とは、簡単にいうと、上司から指示命令を受けて仕事をするのではなく、自ら意思決定して自分らしく働く人たちからなる組織のこと。
『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(フレデリック・ラルー、英知出版)という本をきっかけに注目を集め、日本でもティール組織をテーマにしたセミナーや勉強会がさまざま開催されました。
社員全員が自発的に行動することができ、勉強熱心で、職場改善への意欲も高く、自ら目標設定し達成できるのであれば、ティール組織は実現するでしょう。
けれども、本当に日本の職場はそこまで成熟しているのか。私は非常に懐疑的です。社員全員が自立しているわけではないのに、ティール組織を実現しようとしても不可能です。
私がさまざまな企業で1200人以上もの方々とお話しをしてわかったのは、社員によって「常識」はバラバラであるということです。日本の職場は、まず基本となる常識をすり合わせるところから始めなければいけないというのが実情です。そこを理解せずに、闇雲に「生産性を上げろ」「システムを導入すればいい」というのは優先順位が間違っています。 企業は、職場の共通理解を形成するために、管理職をサポートすべきなのです。
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