本記事は、大橋高広氏の著書『リーダーシップがなくてもできる 「職場の問題」30の解決法』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています

会社は上司教育には投資しない

マネジメントスキル
(画像=kelly marken/PIXTA)

●なぜマネジメントスキルを養成しないのか

働き方改革関連法の施行や新型コロナ感染拡大などの状況を受け、今、多くの会社が職場改善に本気で取り組もうとしています。ところが、肝心の現場では、実行部隊となるべき上司層がほとんど機能していない状況があります。

たとえば、会社として何か新しい業務改善を実施しようとすると、上司層が「ただでさえ忙しいのに、面倒な仕事を追加しないでほしい」と反発するケースがあります。

あるいは、部下からの不満をかわすために、上司が会社を悪者にするパターンも珍しくありません。

「俺はこんな取り組みは嫌だし、無駄な取り組みなのはわかっているけど、会社がやれっていうから仕方がない。我慢してやるしかないだろ」

そんなふうに上司が部下に伝えることで、会社の発信したいメッセージがねじ曲げられ、期待したように改善が進まなくなっています。

上司層が機能しないのは、上司個人の資質に問題があるのかもしれません。しかし、私から見ると、そこには単純に上司本人の問題として片づけることができない、構造的な問題があると考えています。

第一の問題は、管理職への登用の仕方です。

ほとんどの場合、会社では実務で優秀な実績を出している人が、ある程度の年齢に差し掛かったところで「そろそろ管理職になりなさい」といわれて上司になっています。

中には、社内営業や社内プレゼン、ゴマスリのうまい人が評価されて昇格するケースもあります。いずれにしても、昇格にあたっては本質であるマネジメントスキルが問われていないことが多いのです。

そもそも管理職を登用する立場にある人自身が、マネジメントスキルを認められて上司になったわけではありません。そのせいで、何となく自分の経験をもとに部下を昇格させてしまっている状況があります。

彼らはマネジメントに関する教育を受ける機会が少なく、また注意をされる機会も少ないため、「自分たちはマネジメントができている」と思い込んでしまっています。

そのため、「自分たちにはマネジメントスキルが不足しているかもしれない」という疑問を持っていないのです。

よく、スポーツの世界などでは「名選手、名監督にあらず」という表現が使われることがあります。現役時代は名選手として活躍した人でも、引退して指導者になると、必ずしも結果を出せるわけではないということです。

プレイヤーとして成績をあげる能力と、指導者として指導する能力は別物。そんなことは、誰でもみんなわかっているはずなのに、なぜかビジネスになると、当たり前のように成績優秀者を「成績がいいから」という理由で管理職にしています。

そして、スポーツなら、選手は指導者による技術やメンタルについてのきめ細かな指導が必要だとわかっているのに、自分の職場では「仕事は人に教わるものじゃない。先輩の背中を見て学ぶものなんだ」といわんばかりのマネジメントをしているのです。これでは、職場が良くならなくても何の不思議もありません。

●上司に必要なのは精神論ではなく、メソッドである

私が一番深刻だと感じているのは、上司層に問題があるという事実を会社がほとんど認識していない点です。

会社としては職場改善に前向きなのですが、問題がどこにあるのかよくわからないので、「とにかく上司と部下に面談をさせて、問題を挙げてもらえばいい」などと結論を出しがちです。現に、そうやって会社にいわれるがまま面談を行っている上司は、全国各地に何万人もいるはずです。

でも、「プレイヤーとしては優秀かもしれないけど、マネジメントスキルに乏しい上司」から「職場の問題点を率直に挙げてほしい」といわれて、面談の場で本音を口にする部下が、いったいどれくらいいるでしょうか

現実は、当たり障りのない発言をして面談を終えようとする部下が大半です。そして上司は、面談シートを次のようにまとめます。

「○○さんは健全な愛社精神を持っているし、向上心もあります。特に問題なく働いていると思います」

結果として、報告を受け取った会社の上層部は、「現場に問題はないはずなのに、どうして成果が出ないのだろう?」と頭を抱えることになるわけです。

こういう会社で私が若手社員にヒアリングをすると、報告書で見聞きしていたのとはまったく別の現実を目の当たりにします。

若手社員は、私に向かって次々にこういいます。

「この会社、本当に終わってますよ。上司は自分の成績さえ上げていればいいという感じで、職場を良くしようなんて全然考えていないんです」
「新卒3年目ぐらいの社員は、全員転職サイトに登録してると思いますよ」

繰り返しますが、こうした状況が生じているのは、上司個人のせいではなく、上司を教育しない構造に問題があります。

本来、会社はもっと上司の教育に投資をすべきなのですが、「教育投資は若手に行うもの」という固定観念が強く、どうしても後回しになりがちです。

もちろん中には意識の高い上司もいます。マネジメントスキルを向上させるために、ビジネス書を読んで勉強するなどの自己投資を行っている人はいます。

けれども、既存の「上司本」には、リーダーシップなどの精神論を説いたものが多く、管理職として実務上の課題にどう向き合っていけば良いのかを解説してくれるものは少ないのが現状です。そのため、多くの上司は学べば学ぶほどどうして良いのかわからず右往左往しているのです。

POINT
上司になるために求められたスキルと、上司になってから期待されているスキルは、大きく異なる。にもかかわらず、上司は会社から育ててもらう機会を与えられていないことがほとんど。だからこそ、まず始めに上司に必要なのは、リーダーシップなどの精神論ではなく、上司としての業務を遂行するための具体的なメソッドである。

リーダーシップがなくてもできる 「職場の問題」30の解決法
大橋高広(おおはし・たかひろ)
株式会社NCコンサルティング代表取締役社長。 1982年生まれ。大阪府出身。人事評価制度、管理職育成、職場改善の専門家。大阪商工会議所人事労務サポート推進パートナー、八尾市や守口市、門真市、和泉市などの商工会議所専門相談員。 同志社大学を卒業後、大手通信系企業にて歓楽街での飛び込み営業を経て、経済団体に入職し中小企業の経営支援に従事する。その際、橋下徹氏による府政改革を経験。その後、中堅製造業で総務経理を担当する傍ら、父から息子への事業承継を推進。2015年、株式会社NCコンサルティングを設立。 開業から約5年間で70社以上のクライアント企業のスタッフへ直接面談を実施。ヒアリングしたスタッフの総数は1,200名を超える職場の問題に精通した人事のプロ。「中小企業が元気になれば、日本が元気になる」を信条に、コンサルティング・研修・セミナー・講演を全国各地で行なっている。

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