東京株式市場は8月に入っても、上値の重い展開が続いています。

新型コロナウイルスの感染再拡大が気になる一方、市場参加者の夏休みが本格化し、様子見気分も強まりつつあります。

そうした中、上場企業の「2021/4~6期」決算発表もいよいよ佳境に入ってきました。8/4(水)には、トヨタ自動車(7203)やソニーグループ(6758)といった主力銘柄の発表が終了。8/6(金)には500社を上回る決算発表が行われました。

そこで今回は、決算発表で市場予想を上回る好決算を発表し、今後も市場での評価が高まりそうな銘柄を“先取り”したいと思います。

日本株投資戦略
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■執筆者のプロフィール

鈴木英之
鈴木 英之
SBI証券 投資情報部長 
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的寄稿も多数。
・出身 東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味 ハロプロの応援と旅行(乗り鉄)
・特技 どこでもいつでも寝れます
・好きな食べ物 サイゼリヤのごはん

≪決算発表は佳境へ≫好決算で今後上昇が期待される銘柄とは

日本株投資戦略,上方修正期待銘柄
(画像=PIXTA)

上場企業の「2021/4~6期」決算発表が佳境を迎えています。

3月決算企業にとっては第1四半期、12月決算企業にとっては第2四半期に当たります。発表された業績数値(特に利益)が、市場予想を上回ったり、通期予想が上方修正されると、株価は上昇しやすい傾向になります。

「2021/4~6期」の前年同期に相当する「2020/4~6期」は、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し、経済活動の停止が広範囲に及びました。このため、「2021/4~6期」は“ベース効果”により、前年同期比で大幅増収・増益になりやすい四半期とみられ、多くの3月決算企業で、当四半期の利益が市場予想を上回る大幅増益となっています。

ただ、冒頭で触れたように株式市場の上値は重く、好決算企業でも株価上昇は限定的な範囲にとどまっているようです。したがって、決算発表を機に、好業績銘柄を物色する動きは少ないようです。

それでも、株式市場の地合いが改善されれば、好業績銘柄から先に物色される可能性は大きいと考えられます。

そこで今回は、そんな好業績銘柄を抽出すべく、スクリーニングを行いました。

以下の全ての条件を満たす銘柄を、(7)の株価上昇率が小さい順に並べたものが図表1です。

(1)時価総額1,000億円以上の上場企業
(2)3月決算企業で、8/4(水)までに決算発表を終了
(3)3人以上のアナリストがカバーしていること
(4)2022/3期・第1四半期(2021/4~6期)の営業利益について以下の全条件を満たしていること
  ・前年同期比で増益(黒字)
  ・事前の市場コンセンサスを上回っていること
  ・新型コロナウイルス感染拡大以前の「2019/4~6期」を上回る利益額となっていること
(5)2022/3期(今期)の会社予想営業利益が増益>
(6)2023/3期(来期)の市場予想営業利益が、今期市場予想比で10%超の増益
(7)決算発表後の株価上昇率が0%超10%未満
(8)25日移動平均株価からのかい離率が0%超10%未満

今後上昇が期待される銘柄一覧
(画像=SBI証券)

図表1 今後上昇が期待される銘柄一覧
コード / 銘柄 / 株価(8/5) / 決算発表後株価上昇率 / 2021/4~6期営業利益 前年同期比 / 2021/4~6期営業利益 予想比
<6752> / パナソニック / 1,359.5 / 0.7% / 27.8倍 / 51.5%
<6981> / 村田製作所 / 9,286 / 2.0% / 104.7% / 31.4%
<2127> / 日本M&Aセンター / 3,115 / 2.5% / 19.8% / 0.9%
<4062> / イビデン / 6,060 / 3.2% / 140.5% / 51.3%
<6479> / ミネベアミツミ / 3,080 / 4.1% / 475.7% / 4.0%
<5332> / TOTO / 5,900 / 4.6% / 380.1% / 110.1%
<4543> / テルモ / 4,485 / 5.1% / 100.5% / 37.2%
<6902> / デンソー / 7,683 / 5.7% / 黒転 / 44.0%
<2412> / ベネフィット・ワン / 3,740 / 5.9% / 31.5% / 16.2%
<6645> / オムロン / 9,670 / 6.1% / 107.3% / 52.1%
<7732> / トプコン / 1,663 / 8.4% / 黒転 / 227.0%

※Bloomberg、会社公表データをもとにSBI証券が作成。 ※「決算発表後株価上昇率」は、各社決算発表日の終値から8/5(木)終値までの株価上昇率です。ただし、デンソーは取引時間中の決算発表であったため、決算発表前日の終値で算出しています。 ※「予想比」は、Bloombergによる集計の市場コンセンサスからのかい離率です。 ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。

抽出銘柄の投資ポイント

ここでは、図表1に掲載した銘柄の一部について、投資ポイントをご紹介します。

パナソニック(6752) 「新生パナソニック」を目指し、好調なスタート

パナソニック(6752)
(画像=SBI証券)

※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
期間:2020/8/17~2021/8/6(日足)

■日本を代表する総合エレクトロニクス企業

「ナショナル」や「パナソニック」等のブランドを中心に家電機器やAV機器の製造・販売を行ってきました。

2022/3期第1四半期は、売上高1兆7,924億円(前年同期比28.8%増)、営業利益1,044億円(同27.8倍)と増収増益。

白物家電中心の「アプライアンス」が売上高6,743億円(前年同期比21.7%増)、営業利益421億円(前年同期比2.8倍)とけん引。電設・照明資材等の「ライフソリューションズ」、車載機器等の「オートモーティブ」他も好調でした。

2022/3期(通期)は売上高7兆円(前期比4.5%増)、営業利益3,300億円(同27.6%増)を計画しています。

■ソニーとの格差は縮まるのか

かつては、同様の利益水準でしたが、2021/3期の営業利益はソニーの9,718億円に対し、パナソニックは2,586億円と格差が生じています。その差は「ソフトウェア」かもしれません。 パナソニックは、車載電池事業で米テスラ社と親密ですが、2021/3期末までに保有するテスラ株(購入金額は24億円前後)の全てを約4,000億円で売却しました。

一方、サプライチェーンマネジメントソフトウェアの大手である米ブルーヨンダーを約7,600億円で買収すると4月に決定。米ブルーヨンダーがパナソニックの完全子会社化となることで、パナソニックは収益力向上に向けて一歩踏み出したのかもしれません。

村田製作所(6981) EV市場拡大で“強い”追い風か

村田製作所(6981)
(画像=SBI証券)

※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
期間:2020/8/17~2021/8/6(日足)

■積層セラミックコンデンサで世界シェア40%

セラミックコンデンサを中心とする電子部品の世界的な大手企業です。この部品は、電圧の安定やノイズの除去、信号の取り出し等の役割を果たし、携帯電話やノートPC、自動車など、用途先は多岐に及んでいます。

セラミックコンデンサの中でも重要な「積層セラミックコンデンサ」では、世界シェア40%を有しています。材料から製品まで一貫した生産体制が強みとみられます。

2021/4~6期の業績は好調。受注高は前年同期比68.7%増え、売上高は4,395億円(前年同期比34.5%増)、営業利益は1,050億円(同104.7%増)となりました。これを受け、会社側は2022/3期の業績予想を上方修正。予想営業利益は3,200億円から3,650億円(16.5%増)に増額しました。

■想定される2種類の“追い風”

当社製品の用途先としては、全体の42.3%(2021/4~6期)を占める通信がトップで、1台当たり800~900個程度のセラミックコンデンサが搭載されています。これに対し、車載向けは18.9%と少なめです。ただし、ガソリン車では1台当たり1,000個程度使用されていたセラミックコンデンサは、EV車では10,000個程度まで急増するとみられ、EV市場の拡大は同社に追い風となりそうです。

なお、10月に日経平均採用銘柄の定期入替が予定されています。算出・選定基準が見直されるため、村田製作所も新規組み入れ銘柄として有望視されています。

日本M&Aセンター(2127) 12期連続最高益を予想

日本M&Aセンター(2127)
(画像=SBI証券)

※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
期間:2020/8/17~2021/8/6(日足)

■中堅・中小企業を対象にM&Aを仲介

全国の公認会計士・税理士の共同出資により設立された独立系のM&A(企業の合併・買収)仲介会社です。中堅・中小企業を対象とした案件を中心に、専門的なサービスを提供しています。

譲渡側である中堅中小企業の経営者後継問題や先行き不安などの問題を解決。同時に買収側である中堅企業(上場企業および上場予備軍含む)の発展を実現するための「戦略としての友好的M&A」を推進しています。

■2022/3期は上半期予想を増益予想に上方修正

2021年3月期の営業利益が164億円(同15.2%増)。過去最高となる914件(前期比3.3%増)のM&Aを成約させました。

経営者の高齢化などで中小企業の後継者探しは年々増加しており、年間3~4千件の中小M&Aが実施されている模様。2022年3月期の連結業績予想は、売上高375億円(前期比3.8%増)、営業利益172億円(同4.8%増)と12期連続の最高益を目指します。

そうした中、第1四半期の営業利益は58.5億円(前年同期比19.8%増)と好調なスタート。中間期の予想営業利益を77.4億円(前年同期比20.8%減)から100億円(同2.3%増)に上方修正。これを受けて、通期予想の上方修正にも期待が集まり始めました。

3月末の株式分割(1:2)を考慮すれば、2月高値の3,210円(修正後株価)を超えると、上昇加速の可能性もありそうです。

イビデン(4062) 米国の国策が追い風に

イビデン(4062)
(画像=SBI証券)

※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
期間:2020/8/17~2021/8/6(日足)

■ICパッケージ基板・プリント配線板が主力業務

電子機器に広く使われているICパッケージ基板、およびプリント配線板等が主力業務です。ディーゼル排出ガス浄化フィルター(DPF)等も手掛けています。

このうち、ICパッケージ基板はICチップを保護し、プリント配線板へ接続する役割を果たす部品で、同社と新光電気工業(6967)が高いシェアを占めています。

ICチップは、コスト競争や性能向上の観点から小型化が求められますが、回路線幅の微細化や、複数チップをひとつのパッケージに格納する積層化が、具体的な手段となります。

また、同社は高い技術力で、米大手半導体インテルと取引を拡大しています。

■インテル向け売上高がけん引

2021/3期は売上高3,234億円(前期比9.3%増)、営業利益386億円(同96.3%増)と大幅増収・増益。インテル向け売上高が388億円増加し、売上構成比が25.9%から35.7%と高まったことがけん引役になりました。2022/3期・第1四半期も、営業利益が157億円(前年同期比140.5%増)と好スタートです。

新型コロナウイルスの感染拡大や米中対立もあり、米国は半導体の国内生産を増やす方針です。そうした中、インテルも生産増強の方針ですが、微細化で台湾TSMC等に後れを取り、十分な利益を確保することが難しくなっています。そうした中、インテルは高いICパッケージの技術を持つイビデン等と結びつきを強めています。

インテルは米アリゾナ州に200億ドルで新工場を増設する方針。それに対応すべく、イビデンは岐阜県大垣市の工場に総額1,800億円の設備投資を行う方針です。

ミネベアミツミ(6479) 自社株買い(上限300万株・100億円)が新たな支援材料に

ミネベアミツミ(6479) 
(画像=SBI証券)

※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
期間:2020/8/17~2021/8/6(日足)

■ベアリングや小型モーターを得意とする電子部品大手

ベアリングや小型モーターを得意とする総合電子部品メーカーです。2017年にミネベアとミツミが統合して誕生しました。情報通信機器や家電、自動車制御モーターに使われる小型ボールベアリングでは世界シェア60%を誇っています。

2021/3期は売上高9,884億円(前期比1.0%増)、営業利益511億円(同12.8%減)と増収・減益でした。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、航空機や自動車向けの部品が減りました。

しかし、「5G」の普及が主力製品の需要増につながり、3月には主力ベアリングの生産量が過去最高水準に。2022/3期・第1四半期(8/4発表)は売上高2,483億円(前年同期比32.5%増)、営業利益196億円(前年同期比5.8倍)と急回復となりました。これを受け、2022/3期の営業利益は800億円から870億円へと上方修正されました。

■EV化でベアリングの加速度的増加に期待

8/4(水)の決算発表と合わせ、会社側は自社株買い(上限300万株・100億円)の計画も併せて発表しました。発表後、8/4(水)と8/5(木)の株価は堅調に推移しています。

7/13(火)に付けた3,165円が年初来高値となっていますが、ここを越えてくると「保ち合い放れ」の様相が強まりそうです。

中期的にも主力のミニチュアボールベアリングはEV化が進むことによって、1台当たりの搭載数量が加速的に増加すると期待されます。市場予想営業利益は2023/3期997億円と、拡大継続の見込みです。

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部

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