ビジネス界をリードする経営者は、今の時代をどんな視点で見ているのか、どこにビジネスチャンスを見出し、アプローチしようとしているのか。特集「次代を見とおす先覚者の視点』では、現在の事業や未来構想について上場企業経営者へのインタビューを通して、読者にビジネストレンドと現代を生き抜いていくためのヒントを提供する。

福島県に本社を置き、希少金属の回収に特化した株式会社アサカ理研。コアコンピタンスである高度な選択剥離技術、効率的な回収技術に加えて、洗浄技術は世界でもトップレベルにあるという。同社の代表取締役社長である油木田祐策氏に話を伺った。

(取材・執筆・構成=菅野陽平)

株式会社アサカ理研
(画像=株式会社アサカ理研)
油木田 祐策(ゆきた・ゆうさく)
株式会社アサカ理研代表取締役社長
鹿児島県出身。大学卒業後は三菱商事㈱に就職し、長年にわたり金属・エネルギー関連事業に携わる。また、三菱商事RtMジャパン㈱の貴金属グローバルheadとして経営に従事し、2019年12月より㈱アサカ理研の代表取締役社長に就任。グローバルな事業経営および管理・運営業務に関する高い知見を生かし、リチウムイオンバッテリーの再生「LiB to LiB」の事業化に挑む。

30年以上在籍した三菱商事からアサカ理研の社長へ

―まずは自己紹介を兼ねて、これまでのキャリアを教えていただけますでしょうか。

前職は三菱商事で、金属・エネルギー関係の仕事に長く携わってきました。アサカ理研とは三菱商事時代から付き合いがあり、創業者の山田慶太会長にヘッドハンティングされたというのが入社の経緯です。2019年8月1日に入社したので、入社から2年強が経ちました。当社は9月決算であるため、19年12月の株主総会をもって社長に就任しています。

―三菱商事で30年以上活躍していたなか、御社に移るのは大きな決断だったと思います。どのような思いでヘッドハンティングを受けることにしたのでしょうか?

三菱商事では色々な仕事を経験させていただき、ある程度のポジションまで上がっていたことは事実です。自分で言うのは恐縮ですが、今後も大事にしてもらえるグループには入っていたと思います。ただ私は常々、「このまま大企業でそれなりのポジションで終わることも悪くないが、別の場所で自分の能力を最大限発揮できるチャンスがあれば、ぜひチャレンジしたい」と思っていました。

少し話が逸れてしまいますが、日本はいま労働人口が減っており、いわゆる「人口オーナス期」を迎えています。働き手が少なくなっているため、本来であれば人材の取り合いになるはずですが、優秀な学生は安定志向が強く、有名企業に応募が集中していると思います。三菱商事は客観的に見ても、リクルートにはあまり苦労していない会社です。今日においては、官僚を目指していたような人材も流れてきています。

一方で大企業各社は時代の要請もあり、「シニア活用」も声高にうたっています。安定志向を求めて集まってくる若者にも活躍してもらいつつ、シニアも活用する。これは矛盾がある姿勢だと思います。話を戻しまして、手前みそで大変恐縮ですが、ある程度の経験と能力があるシニアにチャレンジできるオファーが届いたら、そちらにチャレンジして、大企業のポストは若手に譲るべきという私のイズム(主義・信念)もありました。

既存3事業に加えて、リチウムイオンバッテリーの再生を新たな柱へ

―御社の事業内容について教えてください。

当社は福島県郡山市に本社を構えています。雪もあまり降らず、南東北と呼ばれている場所です。北関東に近く、東京へのアクセスも良く、ロジスティクスという意味では関東エリアとの取引も問題ありません。郡山市はもともと軍需産業の街で、爆薬などを作っていたと聞いています。化学産業が根付いている地域なのです。

株式会社アサカ理研
連結会計年度の概況(画像=株式会社アサカ理研第53期株主通信より引用)

当社の事業は大きく分けて3つあります。貴金属事業、環境事業、システム事業です。それぞれを簡単にご説明します。

貴金属事業は、一言で言えば「大手メーカーさんのクリーニング屋」です。有価貴金属を含む廃棄品からの貴金属回収、機能部品・治具の精密洗浄および再生を業務としています。市中に出回っているものを回収するというよりは、大手メーカーさんの製造工程で出てくる廃棄品を対象としています。廃棄品といっても、すべて無駄なものではありません。クリーニングすると、余分についていた貴金属が回収できます。これらをメーカーさんに返却したり、場合によっては買い取ったりしています。

株式会社アサカ理研
貴金属事業の概要図(画像=株式会社アサカ理研第53期有価証券報告書より引用)

環境事業は、工業用廃液のなかに入っている金属を回収し、加えて液自体も再生する事業です。これは祖業でして、前身のアサカ理研工業株式会社は塩化第二鉄液製造、プリント基板屑およびエッチング廃液からの銅粉回収を目的として設立されたという経緯があります。

株式会社アサカ理研
環境事業の概要図(画像=株式会社アサカ理研コーポレートサイトより引用)

システム事業は、上記2事業とは別ドメインなのですが、検査現場の合理化・省力化から複数検査システムの効率的計測ネットワーク開発および特注システムなどを行っています。もともと自社が使うために開発したものなのですが、「優秀なシステムなのであれば他社にも販売してはどうか」ということで事業が始まりました。

―今後はどのように事業展開を進めていきたいとお考えでしょうか?

いまご説明した3事業は、私が来る前からある程度の規模があり、東北地方ではNo.1です。しかし、各事業においては、当社より大きい会社もあります。当社は「超大手とは言えないが、そこそこのサイズ感でやっている」というイメージです。

では、今後は何を強みにしていけば良いか。私が来た理由ともリンクするのですが、今後は「LiB to LiB」の実現を目指したいと思います。「LiB to LiB」とは「リチウムイオンバッテリーtoリチウムイオンバッテリー」の略です。

これまでのリチウムイオンバッテリーは、例えばクルマに搭載されて役目が終わったあとは、値段が高いものだけを再利用し、残りは捨てるという使い方をしていました。世間ではこれを「リサイクル」と呼んでいますが、私達は「再生」を目指したいと思います。

つまり、リチウムイオンバッテリーをほぼ100%再利用するということです。リチウムイオンバッテリーにはリチウム、コバルト、ニッケル、セパレーター、プラスチック、カーボン、グラファイトなどさまざまものが使われています。なかには、捨てると地球に害がある物質も存在します。

あらゆるものを無駄にしない、捨てると害になるものはコストをかけてでも再利用する、限りある資源を有効活用する、このような姿勢は昨今のバズワードでもあるSDGsの達成に貢献するものだと思います。リチウム、コバルト、ニッケルなどの資源は、今後足りなくなることが予想されています。当社が先陣を切って手がけていき、「LiB to LiB」を4本目の事業の柱に育てたいと思っています。

SDGsの矛盾をできる限りなくしていきたい

―ここからは油木田社長のパーソナルな部分についてお聞きしたいと思います。ご多忙だと思いますが、日々の学びやインプット方法について気をつけていることはありますか?

知らないことが弱点になるかもしれないので、何でも貪欲に、興味を持ったらとりあえず一旦はのぞいてみることを意識しています。もうすぐ60歳になりますが、「もう60歳か」と思うのか、「まだまだ色々学びたい」と思うかによって、日々の吸収力が変わってくると思います。

昔はそこまで気にしていませんでしたが、キリスト教と仏教とイスラム教は何が違うのか、といった宗教に関する本も読むようになりました。もちろん、事業に関する学びも欠かしません。この会社にいると、普通の会話に専門用語が出てくることも多いので、高校の化学や物理の教科書を読み直すこともありました。

コロナ禍においては会食や出張が少なくなるので、以前よりはまとまった時間が取れるようにもなりました。「やるな」と断言されているのは、ある意味ありがたいですね。「やってもいいし、やらなくてもいい」という状態であれば、やっぱり「もう少し現場に行ったほうが良いのではないか。お客さまと対面で会う機会を増やしたほうが良いのではないか」と気になってしまいますので。

―最後に、注目している分野や、御社の未来構想について教えてください。

先ほど申し上げた「LiB to LiB」は、社会的に必要な事業といっても、本当に必要になってくるのは10年後くらいだと思います。しかし、それ以外にもやることはたくさんあります。既存の3事業は、私の目から見ればまだまだ伸びしろがあります。このようなチャンスを頂けたので、精一杯改善に取り組んでいきたいですね。

注目している分野で言えば、水素燃料電池(FCV)もリサイクルの需要がありそうだと見ています。レアアースなどの日本が手に入れにくい資源も注目しています。時代の流れを読みながら、必要なものをリサイクル、再生していく事業を進めていきたいと思います。

SDGsの概念自体は素晴らしいと思いますが、なかなか難しい命題だと感じています。例えば、リチウムイオンバッテリーの回収率を極めて高くして、世の中がEVだらけになると、化石燃料業界の人は食いっぱぐれてしまうでしょう。「自然破壊するな」というのは正論ですが、それを100%守っていたら、鉱山開発業界の人や資源輸出で外貨を稼いでいる国は困ってしまいます。

「地球上の誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っているSDGsですが、すべての人が幸せになるのは非常に難しいと思います。当社はこの矛盾を極力なくしていきたいですね。発電をすべて自然エネルギーに切り替えると電気代が高騰するように、極端なことに言うとコストが大幅に上がってしまいます。動脈と静脈のバランスを考えて、良い塩梅を見つけることが重要だと考えています。

プロフィール

氏名
油木田 祐策(ゆきた・ゆうさく)
会社名
株式会社アサカ理研
受賞歴
2021年2月「第2回 こおりやまSDGsアワード」受賞、2021年6月「中小企業無災害記録証第三種(銅賞)」受賞
役職
代表取締役社長
出身校
上智大学外国語学部