次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、eBASE株式会社代表取締役社長の岩田貴夫氏。同氏にこれまでの事業拡大の軌跡、現況、今後の展望などを聞いた。

(取材・執筆・構成=菅野陽平)

食品業界の成功モデルを横展開し、レバレッジ効果で商圏を拡大中――eBASE株式会社
(画像=eBASE株式会社)
岩田 貴夫(いわた・たかお)
eBASE株式会社代表取締役社長
岐阜県出身。1990年大学卒業後、凸版印刷株式会社に入社。2003年に凸版印刷を退職後、同年11月にeBASE株式会社に入社。2020年6月に代表取締役社長に就任。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

食品業界の成功モデルを他業界に横展開し、商域を広げる

冨田:2006年の上場ですよね、私が証券会社に勤務していたときに上場されて、当時のことを覚えています。そのような会社の代表と対談させて頂けるとのことで嬉しく思います。まず、上場からどのように事業を拡大していったのかお聞かせ頂けますでしょうか。

岩田:上場当時から自作のパッケージソフト「eBASE」を販売していました。eBASEとは、企業内での商品やコンテンツ情報の構築・一元管理・活用と企業間の商品情報交換を支援するデータベースソフトウウェアです。上場当時は受託開発という形で、食品業界中心に提供し、食品管理や食の安心安全を担保するサポートをさせて頂いておりました。

冨田:私の当時の記憶ですと、生活協同組合さんやイオンさんなどの小売企業との連携が強いイメージでした。

岩田:そうですね。当初は食の安心安全をベースにしていたわけですが、小売企業が必要な情報はそれだけでありません。最近ではECサイトに使う画像も必要ですし、価格や物流条件、カタログなどもあります。現在はこのような商品マスター情報の活用、管理まで対象範囲が広がってきています。

今日においては日用雑貨、医薬品、家電、住宅、工具業界など様々な業界とお付き合いさせて頂いています。それら業界ごとに、企業間商品情報交換の標準化を推進し、商品データプールサービス「商材えびす」も展開しています。食品業界であれは「食材えびす」、日用雑貨業界であれば「日雑えびす」、医薬品業界であれば「OTCえびす/調剤えびす」といった形です。

食品業界の成功モデルを他業界に横展開しているのが現状です。ドラックストアの品揃えに対応できるようにしていますし、昨年あたりからは家電量販店やホームセンターのユーザーも増えてきています。

冨田:小売という括りで考えれば、日用雑貨や医薬品はイメージがしやすいのですが、住宅まで拡大されているのですね。構造的に同じであれば横展開が可能なのでしょうか? 何を基準に横展開をされているのですか?

岩田:バイヤー企業と仕入れの取引関係を活用させて頂くことがポイントです。バイヤー企業にeBASEを導入して頂いて商品管理の効率化に貢献すると、データを提供するメーカーさんにも「eBASEを活用すれば、複数のバイヤー企業にひとつの情報を送ることができる」という環境を提供できるようになります。

商品情報交換というモデルで普及をさせていこうということです。住宅業界をハウスメーカーさんと住宅設備メーカーさんの関係で見ると、ハウスメーカーさんのバイイングパワーが強いです。商品情報交換の効率化という面で、eBASEのモデルがうまくワークする業界だと思っています。

また、当社の創業メンバーは大手印刷会社出身で、印刷カタログのコンテンツを効率化するビジネスに需要があるのではないかと考えていました。ハウスメーカーや住宅設備メーカーとは印刷会社時代からお付き合いがあり、彼らの商品管理ノウハウを持っていたということも一因です。

冨田:あらゆる業界がその構造になっていると考えると、商域の開拓余地は広いですね。他業界への展開が加速するイメージが湧きます。

岩田:ニッチなところでいうと、カー用品店さんやスポーツ量販店さんもユーザーですね。ディスカウントストアさんもターゲットになってきます。

業界を超えた「レバレッジ効果」を活用

食品業界の成功モデルを横展開し、レバレッジ効果で商圏を拡大中――eBASE株式会社

冨田:今までは食品業界内のマッチング、例えば「食材えびす」を商品データプールとして食品メーカーと食品小売企業を繋いでいた状態から、業界を超えた繋がりが生まれそうな流れを感じます。

岩田:おっしゃる通り、食品業界のユーザーやコンテンツを囲っていることで、他の業界に提案を持っていけるという流れが生まれています。例えば、比較的食品の比率が高いドラックストアに対して、当社の食品業界の強みを生かして取引が始まれば、今後はドラックストアのバイイングパワーに乗って、日用雑貨商品やOTCが集まってくるといった流れです。うまくレバレッジ効果を活用できていると感じています。

冨田:ドラックストアは、地方に行けば行くほどコンビニやスーパーの市場をひっくり返していると思います。ドラックストアのバイイングパワーに乗れると、一気に商圏を拡大できそうですね。一番貯まっているデータは食品関係だと思いますが、やはり食品関係が業界をクロスさせる際の出発点なのでしょうか?

岩田:そうですね、まずは食品関係が出発点になることが多いです。一方で、日用雑貨や家電、住宅といった業界のコンテンツも集まってきていますので、食品以外からのレバレッジ効果も期待できる状況になりつつあります。

冨田:データが貯まれば貯まるほど、ユーザーが増えれば増えるほど、様々なマッチングが生まれるわけですね。「提携によりAmazonに蓄積され続けたデータ自体がトイザらスキラーになった」という話に近いかもしれませんが、貯まったデータ自体が新しい価値やサイクルを生み出しそうだと感じました。

岩田:eBASEを活用した商品情報交換の効率化を武器にユーザーを広げて、ユーザー同士のデータ交換のさらなる効率化のためにデータプール事業を始めました。それが「商材えびす」シリーズです。

これは当社が、商材えびす会員に対してデータを再販できるモデルになっていますので、いまご指摘頂いたように、次のビジネスのネタになっています。商材えびすのデータ(コンテンツ)をコアコンピタンスにしていき、消費者への開示の効率化や標準化を図っていきたいと思います。

例えば、食品のアレルギーや原材料、成分表記などを表示することは法律で決まっているのですが、表示場所や大きさがバラバラで見つけづらいことがあります。そこで、消費者向けに食品表示情報を閲覧でき、その食品を取扱っているECサイトや店舗名を表示するスマホアプリ「e食なび」というサービスも始めています。

このように、商材えびす(食材えびす)のコンテンツを消費者に開示することで、小売さんと消費者との間の情報開示支援を行い、小売さんからの新たな課金モデルを構築することを模索しています。

冨田:様々な情報をAPIなどで連携できると、「情報の見える化」の深さが違ってきますので、信頼性が高まり、結果として購買に繋がりそうですね。

eBASEのSI事業をベースに、B2B2Cビジネスで貯まったデータの活用を狙う

eBase

冨田:ここ数年でラインナップが急速に広がっている印象がありますが、どのような未来像を描いていらっしゃるのでしょうか?

岩田:ベースはeBASEのSI事業なのですが、その営業生産性を高めるためにB2B2Cビジネスを立ち上げて、小売さんのeBASE採用率を高めています。また、B2B2Cビジネスを進めることによって、最終消費者が当社サービスの利用者になっていきます。そうすると個人を特定しない個人情報(パーソナルプロファイルデータ)が貯まっていきますので、今度はそちらを活用したビジネスをやっていきたいと思っています。

冨田:エンドの個人までマーケットが広がるのですね。Cの人たちも囲い込んでいけるとなると、その人たちを小売さんや卸さんに直接マッチングするなど、また新しいビジネスが生まれそうですね。

岩田:今は商品情報に関するコンテンツも充実させています。例えば食品メーカーは、自社商品を販売するために料理レシピのコンテンツを作っています。このようなコンテンツも商材えびすのなかで管理して、消費者が欲しがっている情報を届けることで、メーカーさん商品への購買に結びつけることができると思っています。家電であれば商品ラインナップや取扱説明書なども当てはまります。

あとはPOSデータですね。小売さんからPOSデータをもらえれば、消費者に売れ筋商品を見てもらったり、メーカーさんに他社の売れている商品と自社商品の違いを比較してもらい、商品開発に利用したりすることができます。

冨田:POSデータまで取り込めてしまえば、今持っているデータをかけ合わせることで、より大きな付加価値を生み出せそうですね。POSデータまでいかなくても、コンテンツの組み合わせによって、様々な購買喚起ができると思いました。最後の質問ですが、今後eBASEさんはどのような世の中の“テーマ”に関連していくとお考えでしょうか?

岩田:2つあると思っています。1つは電子化による紙の削減です。メーカーから小売への見積書、商品提案書もそうですし、メーカー→小売→消費者と渡っていくパンフレットやカタログ、取扱説明書もそうです。ペーパーレスは創業当初からの提供価値ですね。

もうひとつは健康への貢献です。例えば、アレルギー疾患を持っている人にとって、アレルギー成分が正確に分かりやすく記載されていることは非常に重要な要素です。当社は食品サプライチェーンのなかで、食品情報を正しく表示していくインフラを提供しています。今後も食の安心安全の担保に貢献していきたいと思います。

先程ご紹介した「e食なび」では、自分が持っているアレルギーを登録しておくと、それが含まれている食品は表示されないという機能があります。また、自分はダイエット中だと設定すると、糖質が少ない順に食品が表示されます。

冨田:そうしたサービスを健康系の家電などと組み合わせると、業界を超えてさらに価値が出せるかもしれないですね。単純な業界で区切るのではなく、テーマやユーザーの課題、ニーズ、ライフイベントなどで切り出すと色々な接続ができる未来が近いのだと感じました。

岩田社長、本日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
岩田 貴夫(いわた・たかお)
会社名
eBASE株式会社
役職
代表取締役社長