次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。
今回のゲストは、トビラシステムズ株式会社代表取締役社長の明田篤氏。「私たちの生活 私たちの世界を よりよい未来につなぐトビラになる」を企業理念とし、創業以来さまざまなセキュリティ商品を提供している同社の事業展開や未来構想などを聞いた。
(取材・執筆・構成=菅野陽平)
1980年愛知県豊田市生まれ。2004年に創業、2006年に現在のトビラシステムズを設立。2011年に迷惑電話フィルタ「トビラフォン」をリリース、以降モバイルアプリや法人向け製品にも展開。2019年4月に東証マザーズ上場、翌年2020年4月に東証一部指定を果たす。2020年3月には新たにテレワーク促進サービス「トビラフォン Cloud」をリリース。地域の貢献活動にも取り組み、NPO法人CAPNA(子どもの虐待防止ネットワーク・あいち)の理事を務める。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
転機となった通信キャリアとの連携
冨田:2019年4月に上場し、2020年4月に東証一部に市場変更され、次の成長フェーズにさしかかっているところかと思います。まず、今の事業を展開したきっかけや、状況について教えてもらえますか。
明田:当社は、データベーステクノロジーを活用したセキュリティ製品やサービスを提供しています。主に「迷惑情報フィルタ事業」として、悪質な迷惑電話や詐欺電話を防止する「トビラフォン」の開発・販売を行っています。
トビラフォンは利用者や警察、自治体などから迷惑電話番号を収集し、データベースに蓄積させていきます。データベースで迷惑電話番号と判断されれば、その番号をまだ拒否登録していない契約者にも自動的に着信拒否設定が適用されます。そのため、未知の迷惑電話番号を拒否することが可能となります。このビジネスは11年くらいやっていまして、何回か大きな方向転換を経験しています。
冨田:その事業転換の部分を深堀りさせて下さい。どのような転換だったのでしょうか?
明田:祖父が原野商法の被害に遭って以来、迷惑電話に悩まされていました。身近な人が困っているという現実があったので、それをどう解決すれば良いか考えた結果、ハードウェア開発から始めました。迷惑電話に困っている人の電話機に直接付けて、特定の電話番号からの電話をブロックする「トビラフォン」です。当初、提供できるサービスはこれしか思いつかなかったので、量産して販売することを始めました。
悪質なセールスや特殊詐欺の電話を受けたことがある人は多いはずです。しかし、普及を進めていくうちに、「本当に商品を届けたい人が購入してくれない」という大きな課題にぶつかりました。
個人や小規模事業者には頻繁に迷惑電話がかかってくるので、その方々に活用してもらえると思ってトビラフォンを作ったのですが、得てして、被害に遭いやすい人ほど「自分は大丈夫」と強く信じているのですよね。そのため、お金を払ってまで、このようなセキュリティ製品を買おうとは思いません。
そこで考えたのが通信キャリアとの連携です。当社の強みは各方面から蓄積されていく迷惑電話番号のデータベースですので、ハードウェアやソフトウェアを売るのではなく、データベースを通信キャリアに提供していくことを進めました。
通信キャリアの電話回線の段階で、迷惑電話番号をシャットダウンしてもらおうということです。そうすれば、ある意味自分たちが空気のように気が付かれない存在になって、「セキュリティ製品を自分では買わない人」も守ることができるようになります。自らセキュリティ商品を販売していくことから、通信キャリアへのデータベース提供に舵を切ったことが、ひとつの大きな事業転換でした。
冨田:今後も自社でサービスを広げていくというよりも、通信キャリアに代表されるような何かのインフラに接続していく戦略が主流になるのでしょうか?
明田:今後に関しては、両方をやっていく必要があると思っています。いま申し上げた事業転換のあとは、通信キャリアと組むことによって「普及率100%を達成することも可能なのではないか」と思って事業を進めてきました。
しかし今年、大手通信キャリア各社から続々と格安プランが発表されました。これまでの大手通信キャリアのプランは、料金が高い代わりに様々な付加価値がついており、その一環として私たちのサービスも採用されていたわけです。しかし、格安プランは基本的に「電話とインターネットが安く使える代わりに、付属サービスが削ぎ落とされている」というものです。
今日においては、「電話とインターネットが安く使えれば、ある程度の不便は構わない」と考えて、格安プランで携帯電話を持つ人が一定数いる状況になりました。これまでのビジネスの延長線では、そのような人に、通信キャリア経由で当社のサービスを提供していくのは難しいと感じています。
そのような人には、私達が独自でサービスを提供していく必要がありそうです。通信キャリア経由と独自販路を組み合わせて、普及率100%を目指したいと思っています。
広告ブロックサービス会社の完全子会社化を発表
冨田:迷惑電話もそうですし、視界や思考を邪魔するものは世の中にまだまだあると思います。2021年8月31日には、非連続の成長に向けた初のM&A案件として、広告ブロックサービス会社の完全子会社化を発表されました。迷惑電話に加えて、迷惑広告の領域にも参入していくとのことですが、こちらは法人向け、個人向けの両面展開となるのでしょうか?
明田:どちらかというと、個人向けがメインになっていくと考えています。現時点においては日本で圧倒的な地位を築いている広告ブロックサービス会社「合同会社280blocker」を譲り受けさせて頂きましたので、まずはきちんを引き継ぐことにプライオリティを置いています。
冨田:いま法人向けと申し上げたのは、企業にかかってくる迷惑電話をブロックできることで、社員の無駄な対応時間を回避し、生産性を上げることができるようになると感じたためです。それはサイトブロック機能も同様です。大手企業のなかにはサイトブロック機能を導入しているところもありますが、ここにも市場があるんだなと思いました。
私自身もサイトブロック機能のヘビーユーザーです。「ちょっと集中力が切れるとネットサーフィンしてしまう」というのは、誰にでも当てはまることではないかと思います。体力のある大手企業はたくさんのお金をかけることができますが、そうではない企業に向けて、格安で販売できればある一定規模のマーケットになるのではないかと思いました。
明田:おっしゃる通りですね。法人向けの広告ブロックやサイトブロック機能までは手が回っていない状況なのですが、検討していきたいなと思いました。
グレーゾーンの犯罪から人々を守るため、ラインナップを広げていく
冨田:いま注目されている分野や業界はありますか?
明田:グレーゾーンの犯罪ですね。オレオレ詐欺といった明らかな犯罪行為は、警察の対応を含めて法律の整備も進んでいるので、減少傾向にあると思います。いま社会で大きな問題になっているのは、ブラックとは言い切れないグレーゾーンの犯罪です。社会課題がこちらの領域に流れつつあると考えています。
例えば、電話でアポを取って自宅訪問し、大切な貴金属を二束三文で買い叩いてしまう行為などが挙げられます。また、ネットを見ていても「リスクなしで儲かります!」といった明らかな投資系の詐欺広告を見かけます。このような領域は、明らかに悪意がある迷惑行為だと思いますが、なかなか警察が動けるような領域ではありません。
そこで当社が、グレーゾーンの犯罪から善良な人々を守るシステムを構築しなければいけないと考えています。先程仰って頂いた広告ブロックサービス会社の買収もそうですが、セキュリティ商品のラインナップを広げているという状況です。
冨田:「やる・やらない」は明言しづらいと思いますが、「構造的には同じなので横展開が可能」という新しい領域はあるのでしょうか?
明田:主要なところは大体抑えてきていると思っています。アイディアベースになってしまいますが、オンラインでいうと、SNSを介したセキュリティは可能性があると思います。LINEやTwitter、InstagramなどのSNS上で完結してしまう迷惑行為へのセキュリティはまだカバーできていません。ただ、迷惑行為に関するデータベースは蓄積されているので、どこかでそれを活用できるタイミングが来るかもしれません。
冨田:SNSはアカウント乗っ取りもありますし、迷惑行為の主要経路のひとつですよね。SNSは個人に紐付いていることが多いので、「迷惑か迷惑じゃないか」の二択ではなくて、迷惑度のようなものを示す指数があっても面白いですね。信用スコアに近い領域かもしれないですね。
社会課題を解決するような商品を作って、適切な利益を得る
冨田:経営判断をするうえでどのようなことを重視しているのでしょうか?
明田:当社が定めている行動指針が全ての判断基準になっています。まず大切にしていることは、当社で働いている人が生活を維持したり、大切な人を守れたりすることです。異なる理念の会社もあると思いますが、当社はまず自分たちが幸せになることで、社会に貢献できると思っています。
そのためには、社会課題を解決するような商品を作って、適切な利益を得ることが重要です。これらの行動指針は当社コーポレートサイトにも掲載されています。この行動指針が経営判断のベースになっています。
冨田:最後に、思い描いている未来について教えて下さい。
明田:「理想の世界」のイメージは皆さんお持ちではないかと思います。私の「理想の世界」は、オレオレ詐欺や投資詐欺のような犯罪行為、迷惑行為がない世界です。そのような世界を実現していくためにどうすれば良いのか、日々考えて行動しています。
プロフィール
- 氏名
- 明田 篤(あきた・あつし)
- 会社名
- トビラシステムズ株式会社
- 役職
- 代表取締役社長