約30年前、仲間と4人で着物販売の「一蔵」を立ち上げた河端義彦氏。問屋を介さず、メーカーから直接キャッシュで着物を仕入れるという当時としては革新的スタイルで、着物業界に風穴を開けた。販売事業が軌道に乗った後は、レンタル事業、ウエディング事業、SPA(製造小売)と事業進出を果たし、拡大の一途をたどっている。

年商200億円に迫る大店を一代で築き上げた代表取締役社長・河端義彦氏に、現在の事業とアフターコロナを見据えたビジョンを伺った。

(取材・執筆・構成=酒井富士子)

着物販売に流通革命を起こした「一蔵」トップの展望とは――株式会社一蔵
(画像=株式会社一蔵)
河端 義彦
河端 義彦(カワバタ ヨシヒコ)
株式会社一蔵代表取締役社長
1953年8月生まれ長崎県出身。1983年4月、株式会社いちこし入社。1987年5月、同社取締役。1991年2月、株式会社一蔵を設立し代表取締役社長に就任。

慣例を覆す現金買取で、創業1年目にして年商10億円

― まずは現在の事業内容について教えてください。

和装事業とウエディング事業の2本柱で展開しています。和装事業では、着物の販売・レンタルなど、ウエディング事業では結婚式場の運営などを行っています。

― 河端氏が創業されたそうですが、経緯をお聞かせください。

私は大手の着物販売会社に勤めていました。入社してしばらくするとバブル景気となり、着物は飛ぶように売れていました。当時の着物業界の仕組みは簡単にいうと、商品が川上であるメーカー→問屋→小売業者へと流れていました。小売業は、問屋から借りた商品を展示し、売れた商品の代金だけを問屋に支払い売れなければ返却するという、在庫リスクがない販売方法が当たり前でした。
ところがバブルがはじけると、着物が全く売れなくなってしまった。問屋もメーカーから借りた商品を小売業者に卸しているため、売れない商品は最終的にメーカーに戻ってきます。当時、私は最年少役員として営業部を率いて、京都の西陣や新潟の十日町によく行っていました。出向く先々で目にするのは返品の山です。そのうちにバタバタとメーカーが倒産していきました。

メーカーだけではなく、染屋さん、図案を起こす絵師、型を掘る彫り師なんかもどんどん廃業していきました。一方、会社は従来通りリスクを負わずに返品という方針でしたから、私としてもこの状況をどうすることもできませんでした。

― それが一蔵の創業のきっかけだったのですね。

着物業界が廃れていくのを黙って見ているわけにはいかなかった。染めでもプリントでもなく糸の織りで非常に繊細な柄を表現できる西陣織、染料で細かい絵を描く友禅の技術、どれを取っても世界に類を見ない素晴らしい技術です。日本は四季豊かですから、春の麗かな色や柄、赤とんぼが飛んで秋の気配を感じる頃の絵、冬景色の凛とした寒さを表現するような絵、そういうものを日本人は着物によって楽しんできたわけです。この美しい日本の文化を残したいと思いました。

当時の着物流通は、売れなくなるにつれ返品リスクが高まり単価がどんどん上がる悪循環に陥っていました。それならば、メーカーから直で買取すればいいのではないかと考え、独立前にメーカーを回って聞き込みをしたんです。あちこちでそんなことできるはずがないと言われましたが、キャッシュで買取なら仕入れ値が半額以下になるということがわかりました。販売には多少自信があったので、1991年37歳の時に思い切って仲間と4人で独立しました。

― 創業にはどのような苦労があったのでしょう。

最初、京都の問屋は私のことを知っていても、なかなか商品を売ってくれませんでした。キャッシュ買取といっても頭金だけ払ってあとは掛け仕入れということですからね。2日間くらい足を棒にして回って、やっと応援してくれるところが見つかりました。

しかし、最初は展示会もできません。中古のライトバンを2台買ってきて訪問販売です。それでも、売る商品は一級品。しかも安い。4人で各地を周り、最初の1カ月で3,000万円売り上げました。今では考えられないかもしれませんが、信販会社の審査が通り、担保なしで3,000万円貸してくれたことも追い風となりました。

手形決済が多い業界で現金買取をするわけですから、優秀なメーカーがどんどん応援してくれるようになりました。いいものを仕入れることができ、売上は1年目で10億円、それ以降は右肩上がりで推移しました。現金買取は画期的でした。 ところが、売上が伸びるにつれクレームも増えていきました。着物は注文を受けたらお客様のサイズに仕立てなければなりません。裏地、帯地、草履などの小物も全て注文通りにあつらえなければならない。そこのところが追いついていなかったのです。そこで一度、販売の手を緩めて、納品の仕組み作りに取り掛かりました。仲間は反対しましたが、1億円かけてオフィスコンピュータを導入しました。そのおかげで納品作業は格段に楽になり、落ち込みかけた売上も回復させることができました。

株式会社一蔵
1991年当時の河端社長。思い切って起業に踏み出した

― 他にも御社のターニングポイントはありますか。

創業から3年経った1994年、成人式の振袖は貸衣装と言っていた時代に、振袖のレンタルをしている企業があり、なかなか良さそうだと感じました。例えば原価10万円のものを10万円で貸すと3年で30万円の売上になりますよね。利益率6割程度でのレンタル業は利が低いということで販売大手はどこもやっていなかった。ここに目をつけました。

サービスも工夫しました。着物と帯の一式レンタルに加え、肌に直接ふれる肌襦袢、腰巻、足袋などを差し上げるというサービスです。それがウケました。全部込みで1万8,800円の破格でしたが、赤字にはならなかった。レンタル業が加わり、その後は売上もさらに伸びました。

2016年からは企画から販売まで一気通貫で行うSPA(speciality store retailer of private label apparel)も始めています。製造小売業ということですが、プライベートブランドで振袖を製造しています。

今はプリンターで染料を入れた後、刺繍や金箔の加工を入れていく手法が主流なのですが、最初に絵師が起こした図案をデータ化したりするのに30万〜40万円かかります。こういった初期投資が必要なので、大手の着物メーカーはみんな他社の様子を伺いながら無難な柄を染めていくんです。

ところが、我々はこのプリントする染屋さんなどと共同で製品開発をし、流通改革をすることで製造コストを下げられる。小ロット生産が可能なので思い切った柄の着物も作れる。そうすると1枚の着物を選ぶのも、お客様にとって楽しい体験となります。バラエティに富んだ品揃えは当社の強みのひとつです。

株式会社一蔵
「一蔵&オンディーヌ銀座本店」

コロナによりウエディング事業で減収。逆風を追い風に変える今後の戦略は

― 決算資料を拝見すると、2021年3月期に売上が落ちています。やはりコロナの影響は大きいでしょうか。

創業以来初めての大赤字で、特にウエディング事業の落ち込みは顕著でした。

― この危機を乗り越える戦略はありますか。

従来の結婚式では平均60〜70人を呼んでいたところ、親しい人のみ20人程度で行うお客様が増えました。少人数の挙式だからこそご提供できる商品開発をこの1年取り組んできました。

大きなバンケットにポツンと座らされたゲストは気兼ねしてしまいますから、リビングの様にソファーや本棚を置いてリラックスできる空間に作り替えたり、式場で流す映像もアットホームなイベントを中心に制作したり、心が通い合う温かな結婚式をプランニングしたいという思いから「ユニティ(=団結・結束)ウエディング」と名付けました。おかげさまでユニティウエディングは堅調に進んでいます。

株式会社一蔵
「ユニティウエディング」

プロデューサーによるパーティー演出のノウハウは、結婚式に限らず、お宮参り・七五三など他のイベントにも広がります。七五三のスタジオとして、背景に池も森も山もある、アウトドアとインドアが融合したスタジオを。その横にはオシャレなバンケットにキッチンがあって、シェフが料理を振る舞い少人数なりの心のこもったパーティーが出来る。楽しかったパーティーが終わった後も、写真や動画でその時の思い出を見返すことができる。規模が小さくなる分、他では体験できない特別なプランをご提供できるよう構想を練っているところです。

― そのような新しい発想はどこから湧いてくるのでしょう。

毎朝2時間半から3時間は自分の時間を取るようにしていて、筋トレをしたり本を読んだりしています。本は趣味のものだけではなく、仕事の役に立ちそうなものも選んでいます。

当社は「銀座いち利」というカジュアル着物ブランドを手がけていますが、その販路拡大のためECサイト「いち利モール」を立ち上げた際には、角井亮一氏の本が大変参考になりました。物流代行会社を経営されていている方なのですが、ECサイトで商品が探せ、実際に店舗で見て買うこともでき、店舗で思い切りがつかなくても後からECサイトで購入できるという「O2O」戦略は同氏の本から学びました。

あとは、改めてお客様の声を大切にしようと情報を集めることにも注力しています。来館される方へのヒアリング、メールやLINEでいただいたご連絡に質問を返すなど、スタッフの総力を挙げてお客様のニーズや意識の変化を丁寧に聞き取るようにしています。これから世の中がどう変わるかを肌で感じ取るようにしています。

― コロナ禍で将来に不安を感じている経営者の方も多いと思います。同じ立場の方にアドバイスがありましたらお願いします。

コロナのネガティブな情報は溢れていて、社員も大きな不安を持っています。しかし、社員と話してみると、心配しているだけではないんですね。私たちの場合は着物の販売や結婚式ですから、販売や接客をちゃんと楽しみたいという思いを持つ社員は多い。その志のためにも、しっかり感染対策をして、立ち止まらずに挑戦する価値はある。そのことをご自身が現場から感じ取ることが大切なのではないでしょうか。

プロフィール

氏名
河端 義彦(カワバタ ヨシヒコ)
会社名
株式会社一蔵
役職
代表取締役社長
ブランド名
【和装】一蔵、オンディーヌ、銀座いち利、ラブリス、いち瑠、いち波
【ウエディング】キャメロットヒルズ、グラストニア、百花籠、ネオス・ミラベル