次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回のゲストは、日本PCサービス株式会社代表取締役社長の家喜信行氏。ネットワーク機器のサポートインフラとして地道な基盤構築が形になりつつあり、今後さらに成長角度を上げていこうとしている同社の現在地と可能性を伺った。

(取材・執筆・構成=落合真彩)

日本PCサービス株式会社
(画像=日本PCサービス株式会社)
家喜 信行(いえき・のぶゆき)
日本PCサービス株式会社グループCEO 兼 代表取締役社長
1976年生まれ・45歳。兵庫県出身。桃山学院大学 社会学部卒業後、1998年に翼システム株式会社に入社。同社の販売するソフトウェアのサポートを行うフィールドエンジニアを経て、営業職へ。トップセールス賞を受賞するなどの成績を納め、同社最年少で大阪営業所所長に就任。その後、2003年・27歳で独立を決意。パソコンおよび周辺機器などの総合サポートサービスを大阪府吹田市で開始。その後、全国対応インフラの構築と、企業提携により規模を拡大。2014年11月・名証セントレックスへ上場(証券コード:6025)。IT機器やネットワークで困ったら日本PCサービスと言って頂けるよう、DX化が進む社会の中で必要とされるサービス提供を目指し、スマートフォン修理・回線事業などグループを拡大。IT機器の総合サポートサービスを現在進行形で拡大中。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

目指すは“家庭ネットワーク全体のJAF”

冨田:創業から徐々に事業をシフトされてきていると思います。今に至るまでの事業の変化をまずはお伺いできますでしょうか。

家喜:創業当初は、パソコンの困りごとがあったら駆けつけるという事業を開始しました。目標は「パソコン版のJAF(日本自動車連盟)」のような存在でした。

パソコンメーカーにだんだんと海外企業が増え、私たちも海外企業と契約する必要性が増してきました。そうなると、「私たちを使ってもらう理由」が明確に必要になってきます。そのような背景から、上場を目指すことにしました。市場選択については、同業他社さんの状況を鑑みて、名証セントレックスを選択。その結果としてパソコンメーカーさんとのお付き合いも継続して増えているので、上場の効果はあったと思います。

時代が進むにつれ、パソコンだけでなくWi-Fiやスマートフォンが普及しました。私たちはさまざまな機器や部品や環境に徐々に対応し、当初のような「パソコン版JAF」というよりは、IoT家電も含めて、家庭内のネットワーク機器すべてをサポート対象とする“ホームネットワーク全体のJAF”を目指して計画を練り、対応を進めてきました。

対応可能な機器を増やしつつ、拠点も増やしていきました。全国インフラがなければ、「JAFのような存在」とは言い難いですから。さらに、地域別対応、出張範囲、持ち込み店舗の拡大、コールセンターの整備を進めてきました。あらゆる側面が整ってきて、これからようやく「家まるごとのJAF」のようなサービスを出せる時期に来たところです。

正社員の訪問対応が形づくる、他にはない価値

日本PCサービス株式会社

冨田:ありがとうございます。御社は、「スマホスピタル」「スマホステーション」などのブランドごとの集客、営業力やスタッフのスキル、店舗の運営の統一化といったところに特徴があるとIR資料で拝見しています。家喜社長から見て、自社の競争優位性はどのようなところだとお考えでしょうか。

家喜:一番大きな競争優位性は「正社員が訪問対応している」という点です。登録制の人材派遣のモデルを採用している企業さんが多い中で、私たちは自分たちが訪問・修理するというモデルで成長しています。主要都市の拠点をすべて自社で賄っているところに大きな特徴があると思います。

冨田:自社で訪問・修理していくことで、具体的にどのような優位性がつくられるのでしょうか。

家喜:例えば、登録制の派遣スタッフさんやフランチャイズ企業に委託すると、対応可能なお仕事が限られてしまう場合があります。要するに、契約書に書いてあることにしか対応できない、してはいけないということになってしまうのです。

ただ、そもそもトラブルが起こっているところに訪問するということは、トラブルの原因を突き止め、柔軟に方法を選択して修理していくということです。正社員であればそれができますし、会社全体に技術やノウハウが積み上がっていきます。

訪問時のマナーや身だしなみといった部分でも統率が取りやすいため、お客さまの信用を損なう可能性が低くなります。さらに支払方法もお客さまのご要望に応じて対応でき、正社員が訪問するので現金回収がしやすいというメリットもあります。

このように、自社で訪問できるインフラ、自社のコールセンター、自社の店舗がそろっているのは大きいと思います。

地道な基盤構築を進めた結果、今後数年で高い利益率が可能に

日本PCサービス株式会社

冨田:なるほど。私の中でだんだんと腹落ちしてきました。直近の決算資料で中期経営目標としての「売上高100億・営業利益7億」という記載を最初に拝見したとき、失礼ながら「2021年8月期で2%弱と予想される営業利益率が、なぜ2024年には一気に7%まで引き上がるのだろう?」と不思議だったんです。

ですが、確かに今おっしゃったモデルであれば、事業戦略のひとつである「定額保証・保険付きサービス」も成り立ちますし、「ストック型の商材やアフターセールス」にも結びつきます。逆に派遣人材やフランチャイズ企業をネットワーク化しているだけでは、このような展開はあり得ないのだろうと思います。自社で賄われているからこそ、こうしたラインナップを次々付随させることができ、ここから顧客単価やLTVが一気に引き上がる、と。

家喜:おっしゃるとおりです。私は前職でパッケージソフト会社の営業をしていました。その立場ですと、トラブルが発生したときに、自社ソフトのサポートしかできないんですね。だからお客さまは、機器で困ったら各メーカーに、ウイルスソフトで困ったらウイルスソフトの会社にそれぞれ電話しなければならない。これはお客さまにとってすごく不便ですよね。逆にそこで対応できると、強固な信頼関係がつくれます。

また、サポートチームはチームワークが強みになります。当時私は大阪の営業所にいたのですが、誰かがトラブルに巻き込まれていたら、次々と駆け付けてみんなで早くトラブルを解決していこうという文化がありました。お客さまとの関係性も深く、スタッフたちの関係性も深い。こういったところを強みにした事業をしていきたいと考え、創業したという背景があります。

働き方改革の文脈とは少し異なるかもしれませんが、これまで訪問人材やコールセンターを自社でそろえ、お客さまからお金をいただいて、自分たちの労働でお返しするということで成長してきました。最初はもちろんしんどかったのですが、訪問件数を重ねてお客さまのトラブルを解決し続けると同時に、全国インフラを整えていくことを優先してきた結果、冒頭にお話ししたような「家まるごと」のサービスを展開できるところまできたというのが現状です。

冨田:そのケイパビリティを生かして、いよいよここからギアを入れ替えていかれるということですね。

家喜:はい、前期からパソコンやスマートフォンの保証・保険付きサービスを先行スタートして、かなり伸びてきています。これから本格的に家まるごとサービスという利益率の高いビジネスモデルを強化していきます。もちろんストックの積み上げも進めていきますし、アフターセールスにも自社で対応できるようします。

今までの展開を外から見ると、地道な労働集約型で、「儲からないことを全部自分たちでやっているな」という印象だったと思います。「スマートフォンの修理会社、家電修理会社、コールセンター……労働集約型ビジネスの会社ばかりM&Aしてるやないか」と思われたのではないでしょうか(笑)。でも実は、全部ワンストップで対応できるような仕組みをつくってきたことによって、これからの高利益率と大きな成長が見込める。そういう設計をしています。

創業以来の夢実現へ。今こそ求められる「家まるごと」対応

日本PCサービス株式会社

冨田:なるほど。非常に強い構造であると理解できました。世の中がデジタル化していく中で、実はリアル接点を持つ会社さんが非常に価値を高めていくことも同時に起こると予想しています。普段何もないときはなかなか動こうと思えなかったことでも、1度困った経験をすると、他にも困ったことが出たときのために準備しておこうというモチベーションが高まりやすいです。

お客さまがいざ困ったときに助けられる仕組みを作っている御社は、お客さまとの関係が非常に深くなりますし、クロスセル、アップセルもしやすくなりますよね。ここまで骨太な事業戦略についてお話しいただきました。最後に、さらなる今後の展望などはございますか。

家喜:家まるごとサポートするというニーズは高まってきていると感じます。コロナの時期、ご家庭でネットワーク機器を使うことが増えたことによって、トラブルの量も増えました。

ただ、例えばリモート会議がうまく作動しないというときに、連絡すべきは回線会社なのか、パソコン会社なのか、ソフト会社なのか。一般のお客さまはどこに連絡したらいいかわからないことが多いのです。だからこそ、IoTやネットワーク機器に関するトラブルなら何でもサポートしていくサービスを展開する意義があります。

スマートフォンやパソコンは個人情報の塊ですし、もはや財布を預けているようなものです。さらにこれから行政サービスもオンライン化が進んでいくでしょうし、医療・介護分野も同様です。そこをしっかりサポートする「e-おうち」というサービスをすでに始めています。先ほど申し上げたように、基盤の構築はほぼ完了して、やっと創業以来やりたかったことの実現に向けてスタートできる。私としても今後が非常に楽しみです。

プロフィール

氏名
家喜 信行(いえき・のぶゆき)
会社名
日本PCサービス株式会社
役職
グループCEO 兼 代表取締役社長
ブランド名
日本PCサービス
出身校
桃山学院大学 社会学部 卒業