本記事は、森川夢佑斗氏の著書『超入門ブロックチェーン』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

ビットコイン
(画像=PIXTA)

ビットコインの革新性とは?

さて、ここまでビットコインというブロックチェーン技術の活用事例をご紹介し、基本的なブロックチェーンの仕組みについて解説してきました。ここからは、あらためてビットコインの革新性について、その設計を振り返ってみましょう。

まず最初に、ビットコインが革新的だといわれるのは「どこにもマスターとなるファイルを置かない」という点です。

特定のサーバーなどに、管理者権限を持たせてファイルを更新していくのではなく、前出のP2Pネットワークという、インターネット上でのデータ共有技術を利用してファイルを保全しています。

次にP2Pネットワークで、ファイルがバラバラに扱われてしまうことを防ぐことが必要です。そこで取引を1つひとつ追加していくのではなく、一定量の取引をブロックというかたまりにして順番に確定させていく、というデータ構造を採用しています。

そして、ブロックの追加時にはハッシュ関数を用いてます。これにより過去のブロックと新しいブロックとを繋ぎ合わせるとともに、データが遡さかのぼって改変されることを防ぐため、ブロック同士の繋がりを強固にするパズルを仕掛けます。

さらに、このパズルを解く作業を「誰もやりたくない作業」ではなく、「誰もがやりたい作業」にするために報酬を設定します。

これらの巧妙な仕掛けにより、本章冒頭で登場した「エクセルファイルの管理者」を特定の誰かに固定しなくても、正確な取引の記録を残していくことが可能になっています。ビットコインが叶えようとした理想も、このような「特定の誰かに依拠することなく、正しい記録を残すこと」にあります。

ビットコイン論文が匿名の人物〝サトシ・ナカモト〟によって公表された2008年、世界はリーマンショックの只中にありました。

リーマンショックとは、アメリカの投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが2008年9月15日に経営破綻したことに端を発して、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した出来事です。リーマン・ブラザーズの破綻の背景には、サブプライムローン問題に始まる不透明な損失を銀行がひた隠しにしてきたという事情がありました。

ビットコインはこの問題に対するアンチテーゼとして生まれた、とも語られています。

2009年ビットコイン・ブロックチェーン上に最初に刻まれたトランザクションには「ザ・タイムス2009年1月3日 英財務大臣が銀行救済のため二度目の公的資金注入の瀬戸際にいる」という趣旨の文章が刻まれています。

これはロンドンタイムスの見出しからコピーされたもので、そこには銀行という巨大なエクセル管理者と、それを救済しようとする国家、つまり法定通貨の発行体を揶揄する意図が読み取れるでしょう。

超入門ブロックチェーン
森川夢佑斗
株式会社Ginco代表取締役。1993年大阪府出身。京都大学法学部中退。大学在学中にブロックチェーンの研究開発事業を開始し、2017年12月に株式会社Gincoを創業。2018年にスマホで簡単かつ安全に暗号資産を一括管理できるウォレットアプリ「Ginco」を提供開始。累計数千億円以上の暗号資産が流通するサービスへと成長させる。2019年には事業者の暗号資産活用を加速させるため事業者向けのウォレットシステム「Ginco Enterprise Wallet」を開発。現在はさらにデジタル証券の管理を行うウォレットシステムの提供に取り組むほか、金融のみならず幅広い分野でのブロックチェーン活用とDX支援に取り組んでいる。 2019年には、ブロックチェーン業界を代表する起業家としてForbes Next Under30、BUSINESS INSIDER「BEYOND MILLENNIALS」などに選出された。著書にベストセラーとなった『ブロックチェーン入門』(KKベストセラーズ)ほか、『ブロックチェーンの描く未来』(KKベストセラーズ)、『未来IT図解 これからのブロックチェーンビジネス』(エムディエヌコーポレーション)などがある。

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