本記事は、森川夢佑斗氏の著書『超入門ブロックチェーン』(エムディエヌコーポレーション)の中から一部を抜粋・編集しています。

ブロックチェーン
(画像=PIXTA)

ブロックチェーン技術が示唆した4つの可能性

ブロックチェーンは、ビットコインを実現するために考案された技術ではありましたが、同時に情報通信産業に関わる人間に、次のような可能性を示唆しました。

① 障害やエラーに強い分散ネットワークの可能性

第1に、ブロックチェーン上に記録された情報はネットワークの参加者がいる限り、世界のどこかに必ず存在しています。その一方で、どこにもマスターが存在していないため、ダウンさせれば全体の機能が停止するようなポイント、いわゆる単一障害点を持ちません。

「社会全体に関わるようなシステムが1つの障害で停止してしまう」といったリスクを軽減する、ダウン耐性の強いシステムが構築できるようになりました。

② 不正や改ざんに強い記録システムの可能性

第2に、ブロックチェーン上に記録された情報は合意形成の仕組みによって、過去に遡って削除したり改ざんしたりすることが非常に困難です。その権限を有する管理者もいませんから、少なくともネットワークの参加者のうち半数以上が、過去の記録を書き換えることに同意し、それを受け入れなくてはなりません。

このように、過去に起こった出来事に対して確からしさを担保することのできる記録システムが実現可能になりました。

③ 網羅的で透明性の高い追跡システムの可能性

第3に、ブロックチェーン上に記録された情報は、そのデータ構造によって過去に遡って検証することが容易です。

例えば、私が受け取ったビットコインは誰がいつマイニングしたものかをいつでも検証することができます。これは、ブロックチェーン内で行われる記録の更新作業が、基本的に過去に記録された情報を根拠に行われるからです。

ブロックチェーン上で生じる出来事は、ハッシュ関数によって圧縮を繰り返しながら常に最新のブロックに反映されており、現在と過去の出来事の関連性を紐解くことが容易という性質を持っています。

これは情報の追跡性(トレーサビリティ)を高めることができるのではないか、という可能性を秘めています。

④ オープンで疎結合なシステム連携の可能性

第4に、ブロックチェーンは、インターネットのように相互に接続しやすいデータの表現方法を採用しています。

例えば、World Wide Web、俗に言うインターネットはIPアドレスを通じ、世界中のあらゆるサイトが同じ表記手法のアドレス(住所)を持っているため、ハイパーリンクによる相互の接続が可能です。同様に、ブロックチェーン上の口座はインターネット同様のアドレスという概念が採用されています。

さらに、ネットワークが世界中で共有されていることから、ブロックチェーン上に存在する複数のサービスを相互に接続することが従来の手法に比べて比較的容易に実現します。

これら4つの可能性を一言でまとめたのが〝デジタルとアナログのいいとこ取り〟です。

ビットコインを代表とする「仮想通貨」「暗号資産」というキーワードからブロックチェーンを知った方からすると、「完全にデジタルでバーチャルだから〝仮想〟通貨なのでは?」と疑問を持たれるかもしれません。しかし、アナログな「モノ」は簡単に消えてなくなりませんし、一度かたちを変えてしまうと簡単には元に戻せなくなります。証拠としても効力を持ち、どこにでも持ち運ぶことができます。

ビットコインはデジタルデータでありながら、このような性質を持っているため、物質としての金になぞらえて「デジタル・ゴールド」といわれています。

歴史が証明するブロックチェーン技術のポテンシャル

私が「ブロックチェーンが世の中に大きなインパクトを与える技術である」と考えるに至ったのは、ビットコインに出会った瞬間ではなく、その本質的な仕組みが「誰か特定の存在に依らず情報を記録する技術である」ということを理解した時でした。

そもそも「記録」とは、この世の中で起きた出来事を、他者に伝えるために、なんらかの媒体に写し取っていく行為であり、コミュニケーションの一手法です。また、私たち人類はコミュニケーションの技術を駆使(くし)して社会を形成してきた動物です。そのため記録の技術というのは、これまでも私たちの社会を大きく変革させてきました。

「文字」というテクノロジーを扱えること自体が、歴史上とても貴重な能力だったことを私たちはしばしば忘れてしまいます。人類史における4大古代文明には「文字の発明」という共通点があります。

情報を伝えるためのフォーマットを「文字」として体系化し、それをなんらかの媒体に記録することによって、それまで村落単位で生活していた先史人類を「国家」という単位まで拡大することに成功しました。

また、ヨーロッパのルネサンス期における3大発明には「活版印刷」が含まれています。これも、聖書から新聞などのメディアへと発展していくにつれて、正しい情報の流通範囲と流通速度を加速させ、人々の思想や価値観に大きな影響を与えています。

文字を用いてなにかを「記録」する、という行為は、人間の生活に必要な衣食住に直接的に寄与しない営みです。逆にいえば、物書き業はもちろんのこと「文字を用いてなにかを記録する役割」は、高度に役割分担が進んだ社会の中でしか、存在し得ない職業です。

こうした特権的な人間は専門の教育機関で識字能力を習得し、官僚として国家や共同体運営の中枢を担っていました。メソポタミア文明の書記、古代ローマの神官、中国の科挙など、文字の読み書きができる、ということそのものが、限られた一部の人間にだけ許された特殊能力だったのです。

記録の保管についても同様に限られた営みです。また、私たちが触れることのできる歴史とは「勝者の記録」でもあります。古来から王朝や文明が新たに樹立される時には、それに敵対する勢力を貶おとしめる内容の記録が残されています。

王朝が打倒される際には、その王朝にまつわる記録が消去されることもあります。「過去になにがあったのかを記録し保存する」という行為は、一部の専門技術者とそれを雇用する権威が、社会を維持するという目的のもとでコストをかけて行う営みだったのです。

こうした前提が、近代以降に入り2度のイノベーションで塗り替わってきました。1度目は産業革命期における活版印刷、2度目はIT革命期のインターネットです。

15世紀半ばにヨハネス・グーテンベルクが考案し実用化に成功した、金属活字を使った印刷術、活版印刷の技術は中世における最も重要な発明の1つです。活版印刷は、ルネサンス、宗教改革、啓蒙時代、科学革命の発展に寄与したと言われていますが、功績として特筆すべきは、識字率の向上と記録された情報の大量生産でしょう。

これにより、出来事や考え方を、すぐさま文字情報に写し取り、すばやく大量の人間に伝えることができるようになりました。これは印刷業・出版業の始まりであり、記録の作成者と閲覧者を大幅に増やすことになります。

また、20世紀最後に普及したインターネットは、既存のインフラであった電話線網を用いて遠隔地のコンピュータ同士の通信を可能にしました。記録の作成と流通を活版印刷以上に分散化させることに成功したのです。

ところが、ここでやり取りされる大量のデータを破綻なく処理するために、通信内容を集約し記録していくサーバー、つまり記録の管理者が必要となりました。現代において記録の管理者として大きな力を有する存在がGAFA(ガーファ)のような巨大プラットフォーマーです。彼らは大量の情報をビッグデータとして活用し、巨額の利益を得ています。

かつて、活版印刷が庶民に情報を手にする機会をもたらし、インターネットが情報発信の機会を与えたように、ブロックチェーンは誰もが確かな情報を記録し利用できる機会を与える存在となるでしょう。

次章では、確かな情報を記録する力が最初に発揮された「価値の記録」の領域で、ブロックチェーンがどのように利用されているかを解説します。

超入門ブロックチェーン
森川夢佑斗
株式会社Ginco代表取締役。1993年大阪府出身。京都大学法学部中退。大学在学中にブロックチェーンの研究開発事業を開始し、2017年12月に株式会社Gincoを創業。2018年にスマホで簡単かつ安全に暗号資産を一括管理できるウォレットアプリ「Ginco」を提供開始。累計数千億円以上の暗号資産が流通するサービスへと成長させる。2019年には事業者の暗号資産活用を加速させるため事業者向けのウォレットシステム「Ginco Enterprise Wallet」を開発。現在はさらにデジタル証券の管理を行うウォレットシステムの提供に取り組むほか、金融のみならず幅広い分野でのブロックチェーン活用とDX支援に取り組んでいる。 2019年には、ブロックチェーン業界を代表する起業家としてForbes Next Under30、BUSINESS INSIDER「BEYOND MILLENNIALS」などに選出された。著書にベストセラーとなった『ブロックチェーン入門』(KKベストセラーズ)ほか、『ブロックチェーンの描く未来』(KKベストセラーズ)、『未来IT図解 これからのブロックチェーンビジネス』(エムディエヌコーポレーション)などがある。

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