本記事は、浅沼宏和の著書『ドラッカーに学ぶ「ハイブリッドワークライフ」のすすめ』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

ハイブリッドワークライフ1
(画像=PIXTA)

ジョブ型雇用時代を生き抜く”ハイブリッド”ワークライフバランスとは

ハイブリッドワークライフとは何か?

現代社会はかつてないほど大きな変化に直面しています。その変化は政治・経済・社会のみならず環境問題などあらゆる分野に及んでいます。私たちは、その条件の中で生きていかなければなりません。

先進国の中でも日本は特に悪い条件がそろっている国です。少子高齢化、超長期にわたる低成長、巨額の財政赤字、隣国との関係の緊張化など、こうした悪条件が今後も続いていく可能性が高いのです。私たちは個人の力では解決できない厳しい条件を抱えています。

こうした厳しい制約条件の中で、より望ましいワークライフを築こうとするコンセプトが「ハイブリッドワークライフ」です。ハイブリッドワークライフでは制約条件の下での人生の成果の最大化を目指します。それは、どれだけ制約条件が厳しくても、より充実した人生を送るために努力するほうが良いという「素朴な」考え方です。

国や社会、コミュニティ、会社などの組織を頼りにして長い人生を生きていくことは年々難しくなっています。私たち1人ひとりが自立し、主体性を持つ必要があるのです。他人頼みの人生を歩むのではなく、自分自身で人生を切り拓くのです。現代は主体性を持って人生を生き抜く時代なのです。

ハイブリッドワークライフはワークライフバランスとは違った視点に基づいています。ワークライフバランスでは仕事とプライベート、つまりオンとオフを明確に分け、オフを余暇と位置づけます。簡単に言うと、しっかり仕事をして、余暇はくつろぎ、楽しもうという考え方です。

しかし、仕事以外の時間を「余った暇(ヒマ)」と考えてしまうと、現代社会を生き抜くことはできません。厳しい制約条件の中で成果を最大化するためには自分の能力を高め、全力を尽くす姿勢が必要です。ワークライフバランスは厳しい環境を生き抜く考え方としては不十分です。

また、ワークライフバランスを発展させた「ワークライフインテグレーション」という考え方があります。ワークライフバランスのようにオンとオフを分けるのではなく、仕事とプライベートを一体のものとして捉えます。

「9時から5時まで」のような勤務時間ではなく、あげた成果で仕事を評価しようとする考え方です。リモートワークが普及した現在において注目すべき考え方です。

ワークライフバランスとワークライフインテグレーションは、ともに組織や会社が行動するための考え方です。ワークライフバランスは従来の日本型の雇用制度の枠内で働く人を守ろうとする考え方です。

それに対し、ワークライフインテグレーションは終身雇用、年功序列といった従来の雇用制度を、役割や職務を軸にした、いわゆる「ジョブ型」と呼ばれる制度に変えていくうえで必要となる考え方と言えます。

ワークライフバランスとワークライフインテグレーションはどちらも重要な考え方です。この2つの考え方は、組織や会社が置かれている状況や事情に応じて使い分ける必要があります。

しかし、2つの考え方はともに組織、企業の視点に立っています。ワークライフの主体である働く人自身が行動するためのものではありません。ですから、働く人たち自身がどのように行動していくべきかについての考え方を整理する必要があります。これが本書の目的です。

自らの人生に主体的に取り組み、仕事とプライベートを共に充実させようという考え方を本書では「ハイブリッドワークライフ」と名づけています。このコンセプトは社会の行方を鋭く洞察した経営学者ピーター・F・ドラッカーの考えに影響を受けています。また、「人生100年時代」の到来、AI等の情報技術の急速な発展、働き方改革など最近の動向を考慮しています。これらは現代のキャリアに影響を及ぼす重要な制約条件だからです。

激しい変化の時代に必要なのは自立し、主体的に行動することです。他人任せで自分の人生は切り拓けません。仕事や人生に主体的に取り組むことが強く求められているのです。私たちだれもが何らかの制約条件を抱えています。制約条件の種類や大きさは人それぞれです。残念ながらすべての人が望み通りの人生を歩めるわけではありません。貧困や病気などで自己実現どころか、自立することさえ困難な人も少なくありません。

しかし、それ以上に多くの人が主体的な行動を自ら避けています。より豊かな人生を目指せるはずなのに行動しないのです。行動しないことで多くの可能性を失っているのです。ハイブリッドワークライフが焦点を当てるのは、こうした人たちです。

厳しい条件に直面していても、その中で可能性を見つけ行動することで人生はより豊かになるはずです。少なくとも主体的に生きるほうが人生はより充実します。

自分が直面する条件の厳しさを国や社会、会社や学校、家族や友達のせいにすることは簡単です。しかし、自分自身が主体的に行動しなければ人生は豊かになりません。

個人の力で国や社会を変えることは難しいでしょう。会社、家族、友達の考え方を変えることも簡単ではないでしょう。しかし、自分自身の行動は変えることができるはずです。物の見方を変え、行動を変えることで成果は大きくなるのです。

ハイブリッドワークライフでは国の政策や少子高齢化など、個人の力で変えられないことを「制約条件」と捉えます。一方、個人の力で変えられること、影響を与えられることを「問題」と捉えます。解決できないことではなく、解決できることに注目するのです。これが「制約条件の中での人生の成果の最大化」の考え方です。

努力は必ず報われるわけではありません。しかし、厳しい条件の中で幸せになるには努力することは不可欠です。厳しい条件の中で努力できることが「生き抜く力」なのです。その努力が実を結ぶようにマネジメントする。そうした考え方やその実践がハイブリッドワークライフです。

「積極的に行動することは大変で気が重い」と考える人もいます。しんどい思いをしてまで頑張ろうとは思わない」というわけです。また、「変化はいやだ」「今のままで十分だ」と考える人もいます。何かをなし遂げる達成感よりも、現状維持で得られる安心感をより重視するのです。

しかし、行動しなければ良いことは何も起きません。また、現状維持で安心したいという考え方は、変化の時代においてはリスクが高く、気づかぬうちに〝茹(ゆ)でガエル〟になってしまう可能性を持っています。

現代のように厳しい時代だからこそ、主体的に行動することが大切なのです。ハイブリッドワークライフでは、個人の主体的生き方という視点から仕事とプライベートを捉え直します。

ドラッカーに学ぶ「ハイブリッドワークライフ」のすすめ
浅沼宏和(あさぬま・ひろかず)
1963年静岡県浜松市生まれ。税理士、公認内部監査人(CIA)。(株)TMAコンサルティング代表取締役・浅沼総合会計事務所所長。早稲田大学政治経済学部卒業、中央大学大学院法学研究科修了、名古屋学院大学大学院博士後期課程修了。ドラッカーのマネジメントを取り入れた経営戦略を取り入れたコンサルティングをおこなっている。また、ドラッカーのマネジメントの実践法を取り入れた企業研修、セミナーを実施し、大好評を得ている。ドラッカー学会会員、日本会計研究学会会員。主な著書に『世界一やさしいドラッカーの教科書』『世界一やさしいマイケル・ポーターの「競争戦略」の教科書』『ストーリーでわかるスターバックスの最強戦略』(共にぱる出版刊)、『ドラッカーが教えてくれた経営戦略作成ノート』(中経出版刊)、『キーワード読む経営学』(共著・同文館)等がある。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます
ZUU online library
(※画像をクリックするとZUU online libraryに飛びます)