本記事は、浅沼宏和の著書『ドラッカーに学ぶ「ハイブリッドワークライフ」のすすめ』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています

ハイブリッドワークライフ3
(画像=PIXTA)

ゼロにする?適切に増やす!?意外と知らない「ミス」と「失敗」の違い

ミスはゼロに、失敗は適切に増やすことが正しい

ハイブリッドワークライフは主体的に行動することで人生の成果を最大化すること、より満足のいく人生を送ることを目指す考え方です。努力や積極的行動はそのための前提条件です。失敗を恐れず、積極的に行動することで人生を切り拓くことができるのです。

ところが、努力や積極的な行動に否定的な考え方をする人が多いのです。

たとえば、日本生産性本部が1999年から21年間続けてきた、新入社員に対する「働くことへの意識調査」(2019年度で終了)の結果は、現代の若者のキャリア観をよく示しています。

注目すべきは、働き方について「人並で十分」と考える新入社員が6割を超えていることです。その一方、「自分の能力を試したい」と考える人は1割程度しかいないのです。

人は自分に得になるように考え、行動しています。「人並で十分」、「能力を試したいとは思わない」人は、それが自分の得になると考えているのです。「人並み以上に働くのは損、チャレンジはしたくない」というわけです。つまり行動や失敗をネガティブに捉えているのです。

しかし、こうした物の見方は決して得にはなりません。その理由を考えてみましょう。

この意識調査には問題点があります。質問の前提となっている物の見方があいまいなのです。「人並」と「チャレンジ」について考えてみましょう。

「人並」はとてもあいまいな言葉で、人によって受け取り方が違います。そこで、「100人います。"人並"とは何番目を指しますか?」という質問を考えてみました。そして、6年間で1000人を超える若手のビジネスパーソンにこの質問をしてみました。

その結果、「50番目、51番目」と答えた若者が6割強になりました。次に多かったのは、意外ですが、「60番目~70番目」と答えた人です。比率にすると20%程度になりました。このように、「人並」の意味は人それぞれ違うのです。

こうした物の見方の違いはどこから来たのでしょうか?それを考える上で、正規分布と対数正規分布を知る必要があります。

「人並」を50番目、51番目と考える人は正規分布を前提にしています。正規分布とは確率的な分布が富士山のように左右均等になるグラフです。正規分布を前提にすると、ちょうどまん中の人が"人並"になります。

ところが、自然現象や社会的現象の多くは正規分布ではなく、対数正規分布になることが分かっています。なんだか難しそうに聞こえますが、対数正規分布は私たちの身近なグラフなのです。

たとえば、同じ給料で入社した人たちのうち、毎年、一定の割合の人を一定の比率で昇給させるとします。昇給する人はランダムに選ぶこととします。これを何十回も繰り返すことで得られる結果を表したグラフが対数正規分布です。正規分布に比べて片寄った分布のグラフになります。

多くの人は対数正規分布する現象を「正規分布している」と勘違いをしてしまうのです。たとえば、毎年、ニュースなどでも話題にされるサラリーマンの平均年収についても誤解があります。

サラリーマンといっても、年収200万円にも満たない非正規労働者もいる一方、外資系企業などで数千万円をもらっている人もいます。こうした人たちの年収は左頁の下の図のように対数正規分布を描くのです。

対数正規分布では平均値は中央値より大きくなります。中央値とは、「100人中50番目、51番目」のことです。平均値の人は40番台になり、平均以下の人の方が多くなります。しかも、中央値より少し下の人たちが多数派集団になるのです。

また、分布図を見てすぐわかるように中央値よりも低い数字がグラフのピークになっています。グラフのピークは似たような人が固まって存在するボリュームゾーンを表しています。

グラフ
(画像=ドラッカーに学ぶ「ハイブリッドワークライフ」のすすめより)
図2
(画像=ドラッカーに学ぶ「ハイブリッドワークライフ」のすすめより)

ボリュームゾーンは、いわば多数派のエリアです。対数正規分布では60番~70番の人たちは"多数派"になりますから、「自分たちは"多数派"だから"人並"なのだ」と考えてしまうのです。

そのため、「サラリーマンの平均年収が〇〇万円」というニュースを聞く場合、「自分は"人並"に働いているのに、年収は"人並"以下だ」と不満を持つ人が出てくるのです。その人たちは「平均値」を「中央値」や「ボリュームゾーン」と取り違えています。

成果も対数正規分布を描いていると考えられます。すると、"人並"以下の成果しかあげていない人が多数派になります。ところが、そうした人たちの多くが、「自分は"人並"以上の成果をあげている」と勘違いしている可能性があるのです。

成果の少ない人ほどキャリアにおけるリスクが高くなります。ところが物の見方が適切ではないため、多くの人はキャリア上のリスクを低く見積もっている可能性があるのです。

次に、「チャレンジしたくない」という問題です。多くの人が「失敗したくないからチャレンジしたくない」と考えています。しかし、そこにはミスと失敗の取り違いがあると思われます。

ミスと失敗は日常的には区別せずに使われています。しかし、この二つは全く違う意味の言葉です。

ミスとは「正しくない」ことです。原語でmistakeです。間違いや正しくないことは無くさなければなりません。ミスはゼロにすべきものなのです

これに対し、失敗とは「成功に至らなかった」という意味です。原語はfailureです。成功には失敗がつきものです。失敗は試行錯誤の結果です。失敗は成功するまで繰り返すべきものなのです

たとえば、科学者は実験の成功までに何百回も失敗を繰り返します。正解が分からない以上、失敗し続けるしかないのです。しかし、その失敗はミスではありません。成功に必要な試行錯誤なのです。成功には失敗がつきものです。大きな成功をしようと思えば、それだけたくさんの失敗、つまり試行錯誤が必要になります。

ミスはゼロにすべきで、失敗は適切に増やすべきものです。成功に失敗はつきものです。「失敗したくないからチャレンジしない」という考え方は、「成功したくないからチャレンジしない」と同じことなのです

図3
(画像=ドラッカーに学ぶ「ハイブリッドワークライフ」のすすめより)

ここまで理解した上で「チャレンジしたくない」と思っている人は多くはありません。間違った物の見方によって、「チャレンジする」という適切な行動が妨げられているのです。

いかがでしょうか。"人並"や"失敗"といった初歩的な言葉をどう理解するかで、「何が得な行動なのか」が違ってくるのです。

ドラッカーも、「優れた者ほど失敗は多い。それだけ新しいことを試みるからである。失敗をしたことのない者は凡庸である」(『現代の経営』)と言っています。人生の成果を最大化するためには、適切に失敗し続ける習慣が必要なのです。

ドラッカーのマネジメントの本質は「成果をあげるために行動する」ことです。成果をあげるには試行錯誤、つまり失敗が不可欠です。ハイブリッドワークライフでは失敗をポジティブに捉えます。長い目で見れば、色々なことにチャレンジし、積極的に行動するほうが、"得"になるのです。

ドラッカーに学ぶ「ハイブリッドワークライフ」のすすめ
浅沼宏和(あさぬま・ひろかず)
1963年静岡県浜松市生まれ。税理士、公認内部監査人(CIA)。(株)TMAコンサルティング代表取締役・浅沼総合会計事務所所長。早稲田大学政治経済学部卒業、中央大学大学院法学研究科修了、名古屋学院大学大学院博士後期課程修了。ドラッカーのマネジメントを取り入れた経営戦略を取り入れたコンサルティングをおこなっている。また、ドラッカーのマネジメントの実践法を取り入れた企業研修、セミナーを実施し、大好評を得ている。ドラッカー学会会員、日本会計研究学会会員。主な著書に『世界一やさしいドラッカーの教科書』『世界一やさしいマイケル・ポーターの「競争戦略」の教科書』『ストーリーでわかるスターバックスの最強戦略』(共にぱる出版刊)、『ドラッカーが教えてくれた経営戦略作成ノート』(中経出版刊)、『キーワード読む経営学』(共著・同文館)等がある。

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