本記事は、浅沼宏和の著書『ドラッカーに学ぶ「ハイブリッドワークライフ」のすすめ』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています
あなたはどのタイプ?成果を最大化するハイブリッドワークライフの思考法
ハイブリッドワークライフは、人生の成果を最大化するためには主体的な行動が必要という考え方です。人はそれぞれに特有の制約条件を抱えているため、目指す方向は異なってきます。個人がそれぞれの制約条件の中で、より豊かな人生を歩むには主体的な行動が必要なのです。
制約条件は人それぞれ違います。しかし、似たような制約条件を抱える人で類型化することが可能です。たとえば、組織や会社に属して働く人と、経営やフリーランスのように比較的自由度がある人とでは物の見方、制約条件は変わってきます。
さらに、結婚、出産・育児、介護などの個人のライフステージの変化もキャリアに大きな影響を及ぼします。また、キャリアの終わりをどのように考えるかも大切です。長寿化の中で定年や老後をそれぞれが捉え直す必要があるのです。
そこで、それぞれのライフステージに共通すると思われる事情、制約条件について簡単に整理しておきたいと思います。
組織や会社で働く人に向けて
ハイブリッドワークライフのタイトルに、最も関係するのは組織や会社で働く人たちです。終身雇用や年功序列といった日本型の雇用制度から、職務や役割を中心とした「ジョブ型」と呼ばれる制度に移行していく場合、ハイブリッドワークライフの考え方を実践している人は最も恩恵を受けるでしょう。
従来のような「就社」の意識、終身雇用や年功序列によって自分のキャリアは安定していると考え、安心している人はハイブリッドワークライフについてよく考えてみる必要があります。
人生100年時代に生きる私たちには70歳、80歳までを見据えたキャリア戦略が必要です。学校を卒業してから半世紀以上の間には何が起きるかはわかりません。巨大企業がいとも簡単に崩壊することも珍しくはありません。自分が身を託した組織が永続する保証はありません。
正規雇用と非正規雇用の区別は意味を失いつつあります。雇用形態ではなく能力や成果で評価される傾向が強まっています。「大手企業の正社員」という肩書が人生の保証書にはならない時代が到来したのです。
たとえ、一つの組織にずっととどまる場合であっても、自立し、主体性を持って行動することは必要です。仕事上の成果をあげる力が弱ければ、人生の成果も大きくはなりません。自らの会社、業界の常識がすべてではありません。多様なものの見方を身につけることで、大きな変化を乗り切る力も高まるのです。
経営者やフリーランサーに向けて
経営者やフリーランサーはもともと主体性を持って行動している方たちです。仕事とプライベートを一体のものとして捉え、自己管理するライフスタイルが当たり前になっている人も多いでしょう。
ある意味では最も"ハイブリッドワークライフ"的な人たちと言えるかもしれません。しかし、そうしたライフスタイルを持っていることを自覚している人ばかりではありません。無意識に行動している人も多いでしょう。
マネジメントとは成果をあげるために意識的に行動していくことです。無意識に行うより意識的に行うほうが成果は大きくなります。仕事の質、人生の質をよくするためには、明確な考えの下でライフスタイルを築くほうが有益でしょう。
今後、組織や会社で働く人たちにも主体性が求められるようになり、経営者やフリーランサーとの働き方の違いは少なくなるでしょう。経営者やフリーランサーの側では、そうした人たちの新たな関係を築く努力が必要になります。
これまでの自分のワークスタイルや、新たに登場するワークスタイルを模索するうえでもハイブリッドワークライフへの理解は大切です。
結婚、育児、介護、病気などによる離職中の人に向けて
『LIFE SHIFT』では、長寿化によって学業、仕事、老後といった3つの区分から、各ステージを行き来するマルチステージ化の時代が到来したことが指摘されました。ハイブリッドワークライフは、その考えを一歩進め、人生のステージがハイブリッド化したと捉え直します。
それは、複数のステージが並行し、重なり合うことを想定したワークライフの時代になったことを意味します。仕事をしながら育児や介護をする人は、複数のステージを同時に選択していることになります。
また、育児や介護、病気などでいったん仕事から離れた人も、次のステージに向けての準備を行うことは重要です。その場合、育児などのステージと次の仕事に対する準備が並行して行われているということです。人生がマルチステージ化したというより、ハイブリッド化したと考えるほうが実態に合っています。
もちろん、次のステージに向かうことは簡単なことではありません。『LIFE SHIFT』では「変身資産」、つまり変化に対応し、機会を生かす能力の重要性が指摘されていましたが、そのための取り組みへの意識を強く持つことが大切です。
仕事のステージ、育児のステージなどとは別に、次のステージに備えるステージという見方をすれば、あらゆるステージはハイブリッドなステージと考えられるのです。仕事の中断はキャリアにおける大きなリスクです。しかし、それを次のキャリアに向かう準備期間として捉え直すことは、人生の成果を最大化する大きなポイントになります。
学生や教育関係者に向けて
1996年以来、文部科学省では教育の目的として、「生きる力」を身につけさせることが大きな目的となっています。その間、"ゆとり教育"と言われる時期や、それに対する反省というように何度か方針は変わりましたが、「生きる力」の重要性は一貫して強調されてきました。
「……いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力など自己教育力」(1996年の中教審第一次答申)が重要であるとされ、さまざまな取り組みが教育現場でなされてきました。しかし、若者の多くは「安定志向」を持っており、大きな組織に属して人並み程度に働くことを希望するようになっています。仕事上の苦労や努力は敬遠されがちで、自分の能力を試したい、チャレンジしたいと考える人は少数派なのです。
ドラッカーのマネジメントの観点では、「生きる力」とは社会で成果をあげる力のことです。成果をあげることで社会における自分の価値がより大きくなるのです。成果をあげるためには主体的な行動の習慣が必要です。自分の頭で考え、行動の方向を決め、努力することが不可欠なのです。
「若者にはチャレンジ精神が必要なのだから、大企業ではなく中小企業に就職すべきだ」というわけではありません。どのような進路を選択するかは個人の自由です。しかし、「大きな会社に入社できれば安心」とか、「資格があれば安心」という考え方はもはや通用しなくなったということです。
ハイブリッドワークライフは、「どのような大会社に入社しようとも、それが一生の安心を約束してくれるものではない」ことを前提にしています。今後数十年の間に、予想もできない大きな変化が何度も訪れる可能性が高いのです。
中教審の答申が述べているように「いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動」する力を身につけることが重要なのです。しかし、現実には「生きる力」の大切さが十分に伝わっていないように思われます。ハイブリッドワークライフが提唱していることは、学校教育が教育の課題として捉えていることと同じなのです。
学生やその教育に携わる先生方には、改めて「生きる力」の大切さを考えていただきたいと思います。
中高年の方や仕事をリタイアした方に向けて
「人生100年時代」と呼ばれる長寿化の時代には、「老後」の意味の捉え直しが必要になります。たとえば、現在、100歳の人の多くが45年間も老後を送っている。かつては55歳が定年退職の年齢だったからです。その方たちも、まさか自分の老後が45年間も続くとは想像していなかったことでしょう。
長寿化によってキャリアのステージはマルチ化、もしくはハイブリッド化しました。「老後」は固定的ではなく、流動的な意味を持つようになります。そして、主体的な行動の積み重ねの差によって、ワークライフの豊かさの差が出てくるようになるでしょう。
十分な職務能力と心身の健康を保持して、定年後も70歳、場合によっては75歳や80歳まで働く人も出てくるでしょう。また、仕事自体はリタイアするものの、コミュニティ活動などの社会活動に積極的に参加し、貢献するライフスタイルを持つ人も多くなるでしょう。しかし、どちらの場合にもかなり早くから「老後」に向けた助走が必要になります。
特に組織や会社に所属する人は制度としての定年の年齢が明確になっています。その時までに準備を整えておく必要があるのです。ドラッカーは、第二の人生に向けた助走には少なくとも10年の期間が必要だと考えていました。
また、年齢が上がるほど、活動の土台となる肉体・精神・社会的健康への取り組みが重要になります。特に、「健康寿命」、つまり自立して日常生活を営める期間を延ばす努力は、人生の成果を最大化するために極めて重要です。しかし、男性は平均的に最後の9年間、女性の場合は12年間を健康寿命が失われた状態で過ごしているのです。
健康は年齢が上がるほど重要な意味を持ちますが、それは長い間の行動の積み重ねの結果でもあります。早い段階から少しずつ健康への取り組みをはじめ、中高年以降は本格的に取り組むべきでしょう。
「老後」を無為な時間と捉えるのではなく、ハイブリッドワークライフの一つの側面として積極的に位置付けることが大切です。
企業の人事やCSRの担当者に向けて
本書では日本型の雇用関係の制度改革が、ワークライフバランスからワークライフインテグレーションへと移行しつつあると指摘しました。
ワークライフバランスは「9時から5時まで」という仕事とプライベートを明確に区別する前提に立ち、プライベートの時間をしっかりと確保するような雇用制度を組織や企業に求めるコンセプトです。それが知識社会の進展によってワークライフインテグレーションが求められるようになったのです。
企業の人事担当者やCSRの担当者の対応は、おおむね2つに分かれているように思われます。
一つは、一連の働き方改革などへの対応を、コンプライアンス問題として捉えようとする動きです。「しっかりと対応しないとペナルティを受け、悪評が広まることになるかもしれない」という考えが根底にあります。消極的な対応と言えるでしょう。
もう一つは、それをチャンスと考え、自社の発展のために経営戦略に組み込もうとする対応です。明確なビジョンに基づき、現状を打破しようとする積極的な対応と言えます。
現実には消極的な対応をする組織、会社が多数派になるでしょう。表面上は先進性を謳いながら、実際には小手先の改善にとどまり、既存の雇用制度を基本的には変えないというところが多いでしょう。
しかし、遅かれ早かれワークライフインテグレーションが前提とする、仕事とプライベートを一体化させる働き方、「ジョブ型」への対応は、特に先進的な企業、好業績企業には不可欠になると思われます。
また、新しい雇用制度では個人の主体性が重要になります。ワークライフインテグレーションの中身を理解するとともに、それを働き手の立場になって捉え直すハイブリッドワークライフの考え方を知っておく必要が出てくるでしょう。
近年、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な目標)への注目が高まっていますが、その17の目標のうちの8番目は「働きがいも経済成長も」となっています。それを実行する場合、ワークライフインテグレーションやハイブリッドワークライフの考え方は不可欠になるでしょう。
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