本記事は、中石和良氏の著書『サーキュラー・エコノミー: 企業がやるべきSDGs実践の書』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています
「もったいない」が「MOTTAINAI」へ
そうした日本人の暮らし方を端的に表す言葉が「もったいない」です。環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア人女性、ワンガリ・マータイ氏が2005年に来日した際、日本のモノを大事にし、何事も再利用する暮らしに感銘して「もったいない」という日本語をスピーチで使いました。今や「MOTTAINAI」は世界共通語として、資源を有効活用する際のキャッチフレーズに使われています。
日本の一般家庭ではビール瓶をリユースして使う商習慣が早くから広がっていました。瓶が欠けたり汚れていたりしても、気にせず、使っていました。
1990年代頃からはシャンプーや洗剤などで、使い切った容器を再利用する詰め替え用をメーカーが販売するようになりました。日本石鹸洗剤工業会によると、現在、市場に出回っているこれらの商品の8割が、詰め替え用に切り替わっているとのことです。
詰め替えの手間を惜しまないのは日本の国民性のようで、環境への意識が高い欧米では意外にも詰め替え用があまり普及していません。もっとも、詰め替え用のパウチ容器は複数の異なる素材を使用しているのでリサイクルがしにくい。そのため欧米であまり使用されていないという事情があるようです。
モノを繰り返して使ってきた文化や、日本独自の詰め替え商品など、私たち日本人にはサーキュラー型の暮らしを実践できる伝統と気質があるように私は思います。
●社会貢献ではなく、企業の成長戦略として
ここから先に重要なのは、企業や組織として、サーキュラー・エコノミーへの一歩を踏み出せるかです。
本書でも取り上げたように、ミツカンやイワタといった老舗企業がサーキュラー型の新ブランドを立ち上げたり、ベンチャー企業のグーフが新たなビジネスモデルを試みたりと、日本でもようやく動きが活発化しそうな気配を感じています。
大手では、総合化学メーカーの三菱ケミカルが、2020年4月1日付で「サーキュラーエコノミー推進部」を新設しています。大手企業が部署名にこの名称を使うのはおそらく初めて。これはかなり意識しているということです。
具体的に何をしていくかはこれからのようですが、国内よりは、欧州市場での活動に重きが置かれると予想されます。従来、環境や社会面での企業活動は本業とは切り離し、CSR(企業の社会的責任)として論じられることが多かっただけに、本業の中でサーキュラー・エコノミーを取り込む経営や舵取りに期待したいと考えています。
自治体では、東京都が2019年12月に発表した「ゼロエミッション東京戦略」で、2050年にCO2排出を実質ゼロにするための明確なロードマップを描きました。そして、その戦略や施策の中心に置かれているのが、サーキュラー・エコノミーの考え方です。
東京都が作成したイメージ図を見ると、しっかりとサーキュラー・エコノミーの記載があり、日本の自治体でこの名称を本格的に用いた初の事例と言えます。資料を読みこむと、とりわけ資源・産業セクターの取り組みにサーキュラー・エコノミーをベースにした考え方が反映されています。プラスチック対策においては、持続可能な利用に向けた事業として、Loopのリターナブル容器によるビジネスモデルを採択しています。
●中小企業こそ、サーキュラー・エコノミーを原動力に
サーキュラー・エコノミーへの移行は、従来の考え方ややり方を改め、新たな発想や手法に思い切って舵を切ることになるので、企業であれば社員全員の理解や共有といった意思統一を図ることが欠かせません。
ナイキのように、まずは社内外に向けて明確なビジョンを宣言することもひとつの手段です。その上で、企業のトップや経営陣によるトップダウンの断行もときには必要になってきます。
その意味では、大所帯ではなく、組織体系も複雑ではない中小企業のほうが移行しやすいかもしれません。サプライチェーンも大企業ほど複雑にはならないので、事業モデルを変換しやすい。株式を公開していない非上場であれば株主に縛られることもない。何より、サーキュラー・エコノミーをすぐさま成長の原動力にできるメリットがあります。
ここで、サーキュラー・エコノミーを原動力に社員の意識を変え、業界の風を変え、自社の業績を伸ばしてきた中小企業を紹介しましょう。
長野県上田市に本社を構えるアトリエデフは、社員30人規模の戸建て住宅をメインに手掛ける住宅メーカーです。
人口減で新設住宅の着工戸数は年々減っています。国土交通省の調べによると、2006年度に129万戸だった着工戸数は、2018年には95万戸と30%も減っています。そんな中にあっても、アトリエデフは長野から群馬、山梨、埼玉、東京、神奈川と広いエリアで、2010年から毎年20〜40棟の戸建て住宅を建て続けています。
2020年のコロナショックが始まった春も、同業他社が厳しい経営を強いられる中、アトリエデフには一般の消費者からの問い合わせが止まらなかった。「コロナを機に、自らの暮らし方を見つめ直す中で、ウチの家づくりに関心を持ってくれた」と社長の大井明弘氏は語ります。
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