本記事は、中石和良氏の著書『サーキュラー・エコノミー: 企業がやるべきSDGs実践の書』(ポプラ社)の中から一部を抜粋・編集しています

リニアからサーキュラーへ──新たなビジネスモデルと日本の現状

真実
(画像=Rawpixel/PIXTA)

日本でサーキュラー・エコノミーが誤解される理由

「サーキュラー・エコノミーとは何なのか?」

現在私は、このテーマでセミナーや講演などを各地で行っています。すると、たいていの参加者が誤解をしていることがわかります。

環境面で言えば、日本では2000年に公布された「循環型社会形成推進基本法」に則って、循環型社会への取り組みが積極的に行われてきました。みなさんも、「リデュース(Reduce=資源の使用と廃棄物の排出を減らす)/リユース(Reuse=再使用)/リサイクル(Recycle=再生利用)」という言葉を聞いたことがあるかと思います。この3Rを核にした循環型社会の取り組みにおいて、日本は廃棄物量の削減やリサイクル率の向上で、世界でも先進的な成果を収めてきました。

だから、「今さら〝環境〞や〝循環〞と言われても、もうすでに取り組んでいるよ」という反応が企業人の大半を占めるのです。

しかし、サーキュラー・エコノミーの考える「循環」はそれとは少し異なります。

リニア(直線)とサーキュラー(循環)の違い

産業革命以降の資本主義の発展と急速な技術進歩やイノベーションは、私たちに快適で豊かな暮らしをもたらしました。ただ、この豊かさは大量生産・大量消費を前提とした経済システムの上に成り立っています。

それは、地球から資源やエネルギーを奪い、製品を製造・販売し、使い終わったら廃棄する、文字通り一方通行の「リニア・エコノミー(直線型経済)」と呼ばれています。ただ、世界人口の爆発的な増大や新興国での中間層の激増により、資源は次第に枯渇し、それに応じて資源の高騰が進んでいます。もはや、リニア・エコノミーは地球の限界を超え、破滅寸前の状態であることは周知の通りです。

さらに、リニア・エコノミーは厄介な問題ももたらしてきました。経済活動によってCO2などの温室効果ガスの排出量は膨らみ、気候変動の引き金となる地球温暖化を引き起こしました。世界各地で大型台風や豪雨によって甚大な自然災害が起こっています。くわえて、廃棄物を処理し切れず、大量のプラスチックが海に流出することで、生態系を脅かす海洋プラスチック廃棄物といった深刻な環境問題に発展しています。

リニア・エコノミーは、もはや経済活動も企業活動もできなくなる、「持続不可能な経済システム」だと私は考えます。

こうした旧来型の経済が抱えるさまざまな課題を解決し、持続可能な社会を実現する経済システムとして注目されているのが、サーキュラー・エコノミーです。これは、「採って、作って、使い・作り続ける」。文字通り、サーキュラー(円)にして循環させていくシステムです(図1)。

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(画像=『サーキュラー・エコノミー: 企業がやるべきSDGs実践の書』より)

日本でこれまで進められてきた3Rの、いわゆる「リサイクリング・エコノミー」は、「廃棄物の発生を抑制し、廃棄物のうち有用なモノを循環資源として利用。適正な廃棄物の処理を行い天然資源の消費を抑制することで、環境への負荷をできる限り低減する」と表現されています。

おわかりのように、ここでは、「廃棄物を排出すること」が前提となっています。廃棄物を少なくし、有用な廃棄物は再利用し、有用でない廃棄物は適正に処分するということで、あくまでもリニア・エコノミーの延長線上なのです。

リサイクリング・エコノミーが廃棄物を出す前提、あくまでも「廃棄物ありき」だったのに対し、サーキュラー・エコノミーは「まずは、廃棄物と汚染を発生させない」ことを前提とする仕組みです。

最初のモノやサービスの設計段階から廃棄物と汚染を生み出さないプランを考え、一度採取した資源を「作って、使い・作り続ける」という循環で回していく。サーキュラーの円は開くことなく閉じたままなのです。

サーキュラー・エコノミーはリサイクリング・エコノミーの延長線上にあると思われがちで、日本の企業でもそういった理解をしている人が多いのですが、両者は似て非なるもの。そもそも目指すビジョンが根本的に異なるので、延長線上で捉えていてはサーキュラー・エコノミーへの移行はできません。

世界で大きなうねりになろうとしているサーキュラー・エコノミーの潮流に日本が乗り遅れているのは、この誤解がいまだに解消されないままだからだと私は感じています。

さらに、もうひとつ重要な視点があります。それは、製品や原料を循環させること以外に、欧州においてはサーキュラー・エコノミーの概念はどんどん進化していることです。

サーキュラー・エコノミーは、経済・産業(生産・消費、インフラ、輸送、食料・農業、建設)から、税制、金融、投資、社会的便宜までを徹底的にオーバーホールし、その根源となる自然の生態系の保護と復元を進める。それによって、人間の健康と幸せを実現することまでを目指そうとしています。具体例としては第1章以降で各企業の取り組みに触れていきますが、誤解をそのままにしていると、世界から大きく遅れることにもなりかねません。

サーキュラー・エコノミーの3原則

サーキュラー・エコノミーとは何なのかを、シンプルな文章で以下のように整理しました。

再生可能エネルギーに依存し、有害な化学物質の使用を最小化・追跡管理した上で、製品・部品・材料・資源の価値が可能な限り長期にわたって維持され、資源の使用と廃棄物の発生が最小限に抑えられる経済システム。

ここで重要なのが「再生可能エネルギーに依存」の部分です。

使うエネルギーは何でもいいわけではありません。石油、石炭、天然ガスといった有限資源である化石エネルギーは使わない。あくまでも太陽光や風力、水力、地熱、バイオマスといった再生可能な資源によるエネルギーを使うことが大前提となります。

そして、使う資源の投入はできるだけ抑え、可能な限り価値を保ったまま循環させ、廃棄物と汚染の排出を可能な限り少なくさせる。すなわち、「投入の最小化と排出の最小化」を図って、無駄を徹底的になくすことです。

実践においては、「サーキュラー・エコノミーの3原則」に照らし合わせながら考え、行動していきます。

「サーキュラー・エコノミーの3原則」とは、以下の3つを言います。

廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う。
製品と原料を使い続ける。
自然システムを再生する。

モノやサービスを考え・作るときは、最初から廃棄物や汚染を生み出さず、製品や原料を使い続けられるデザイン(設計)をした上でモノやサービスを使い続ける。さらに、すでに深刻な状況で、負荷を与えないだけではもう済まされない段階に来ている環境については、3つめの「自然システムを再生する」ところまで踏み込んでいかなければなりません。

ちなみに、この3原則を提唱したのは、イギリスに本部があるエレン・マッカーサー財団です。同財団はヨットで単独無寄港の世界一周を行ったデイム・エレン・マッカーサー氏が2010年に設立した財団で、グーグルやユニリーバ、ナイキなどのグローバル企業やマッキンゼー・アンド・カンパニーといった総合コンサルティング会社がパートナーとして参画。NGOや欧州各国の政府なども巻き込んで、サーキュラー・エコノミーへの移行を世界規模で推進しています。同財団が発表する提言や報告書は今や大きな影響力とインパクトを持っており、私も彼らの言動を注視し、情報交換を行っています。

サーキュラー・エコノミー: 企業がやるべきSDGs実践の書
中石和良(なかいし・かずひこ)
松下電器産業(現パナソニック)、富士通・富士電機関連企業で経理財務・経営企画業務に携わる。その後、ITベンチャーやサービス事業会社などを経て、2013年にBIO HOTELS JAPAN(一般社団法人日本ビオホテル協会)及び株式会社ビオロジックフィロソフィを設立。欧州ビオホテル協会との公式提携により、ホテル&サービス空間のサステナビリティ認証「BIO HOTEL」システムを立ち上げ、持続可能なライフスタイル提案ビジネスを手掛ける。2018年に「サーキュラーエコノミー・ジャパン」を創設し、2019年一般社団法人化。代表理事として、日本での持続可能な経済・産業システム「サーキュラー・エコノミー」の認知拡大と移行に努める。

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