第100代首相として日本経済のかじ取りを託された岸田文雄首相。「成長と分配の好循環」を旗印に政策を総動員して日本経済の立て直しと長期政権を狙う。岸田氏は今後、9月の自民党総裁選から掲げてきた「新しい資本主義の実現」「危機管理の徹底」など5項目を具体化していくことになる。岸田政策で日本経済がどう変わり、株価はどう動くのか(経済ジャーナリスト・植草まさし)。
経済政策の司令塔を早々と解体
岸田文雄首相が衆議院を解散した翌日の10月15日、政府は「新しい資本主義実現本部」を新設。一方、菅義偉前首相が設置した成長戦略会議を同日付で廃止し、「新しい資本主義実現会議」を立ち上げた。成長戦略会議は安倍晋三・元首相の未来投資会議から続く経済政策の司令塔だったが、早々と解体して首相交代を強く印象付けた。
岸田氏の政策について分類法はいくつかあるが、自民党ホームページは次のようにまとめている。内容を具体化していくと、新聞・テレビなどとは異なる政策評価が浮かび上がってくる。
- 新型コロナウイルス対策
- 新しい資本主義の実現
- 国民を守り抜く、外交・安全保障
- 危機管理の徹底
- 東日本大震災からの復興、国土強靱化
このうち新型コロナウイルス対策は世界的にどの国でも重要な政策課題である。国民の関心は感染者数の増減に大きく左右されるが、流行第6波が来襲する可能性が高い一方、コロナ対策の遅れは次の参議院選挙の敗北に直結しかねず、総選挙後に本格化する経済対策でも大きな位置を占めるのは確実だ。
岸田氏は自民党総裁選で、コロナ対策の「4本柱」を掲げていた。「医療難民ゼロ」「ステイホーム可能な経済対策」「ワクチンパスポート」「感染症対応の抜本的な強化」である。
岸田氏は数十兆円規模の大規模な経済対策を実施する方針を表明している。医療面では、無料PCR検査所の拡充や野戦病院型の大型治療施設の機動的な設置を打ち出している。
経済支援では、対象業種を飲食や旅行などに限定しない持続化給付金や家賃支援のための給付金再支給にも踏み込んでいる。菅内閣時代に国民の不満や批判が強かった分野を拾い上げており、岸田氏自らが特技とする「人の話をよく聞く」がうまく機能している格好だ。
これらの大規模な経済対策により、テルモ(4543)、星医療酸機(7634)などの医療機器メーカーや国産ワクチン開発で先行する塩野義製薬(4507)、第一三共(4568)、ワクチン製造受託が予想される日東電工(6988)などが「国策銘柄」と位置付けられそうだ。
定義さえはっきりしない「新しい資本主義」
問題は2番目の「新しい資本主義の実現」だ。総裁選の過程で「小泉内閣以降の新自由主義的な経済運営からの転換」を掲げ、これまでの競争万能主義や株主重視に偏った経済の見直しを強調している。岸田氏の言葉を借りれば、「株主だけでなく、従業員も取引先も恩恵を受けられる『三方よし』の経済」である。