感染者数減少と緊急事態宣言の解除などで、現状、先行きともに大幅上昇

景気ウォッチャー調査
(画像=PIXTA)

11月9日に内閣府が公表した2021年10月の景気ウォッチャー調査(調査期間:10月25日から月末)によると、3か月前との比較による景気の現状判断DI(季節調整値)は55.5と前月から13.4ポイント上昇した。また、2~3か月先の景気の先行き判断DI(季節調整値)は57.5と前月から0.9ポイント上昇した。

景気ウォッチャー調査(21年10月
(画像=ニッセイ基礎研究所)

地域別でみても、現状判断DI(季節調整値)は全国12地域中12地域で上昇した。他方、先行き判断DI(季節調整値)は全国12地域中6地域で上昇し、6地域で低下した。先行き判断DIが低下した地域は前月に大きく上昇しており、先行きへの期待がやや修正された結果とみられる。ただし、どの地域でも50を超えており、改善方向であることに変わりはない。

景気ウォッチャー調査(21年10月
(画像=ニッセイ基礎研究所)

今回の結果からは、感染者の減少傾向の継続に加え、緊急事態宣言をはじめとする経済活動への制限の緩和により、景況感が大幅に改善したことが示された。現在の景気の水準自体に対する判断を示す景気の現状水準判断DI(季節調整値)も43.8となり、消費税率引き上げ前の2019年9月以来の高水準となった。感染再拡大への懸念は依然強いものの、ワクチンが普及した状況で、今後も感染者数の増加がみられない状況が続けば、長期間にわたり抑制されてきた飲食、サービスなどがけん引する形で、景況感は更に改善すると見込まれる。

景気ウォッチャー調査(21年10月
(画像=ニッセイ基礎研究所)

景気の現状判断DI:飲食を筆頭に大幅改善

現状判断DIは、感染者数の減少が続き、経済活動の制限が緩和されてきていることから、前月に引き続き、大幅に改善した。

景気ウォッチャー調査(21年10月
(画像=ニッセイ基礎研究所)

景気の現状判断DIの回答者構成比をみても、改善又は現状維持と回答した割合が増加し、悪化と回答した割合が減少した。改善と回答した割合は4割を超えた。

現状判断DIの内訳をみると、全ての内訳で大幅な上昇となった。家計動向関連は56.3(前月差15.4ポイント)、企業動向関連は51.2(同8.6ポイント)、雇用関連は59.7(同10.4ポイント)であった。

家計動向関連のうち、特に大幅上昇となったのは、これまでにコロナ禍で大きな影響を受けた飲食関連やサービス関連であり、ともに60を超え、これまでにない景況感の改善度合いとなった。現状水準判断DIでも急激な上昇がみられ、コロナ前に回復した状況ともいえる。

また、雇用関連の上昇幅は、現状判断DIと現状水準判断DIの双方で大きくなっており、恒常的な人手不足に加えて、急激な景況感の回復を踏まえ、企業の採用意欲が高まっていることが示唆される。

なお、企業動向関連も上昇しているものの、回答者のコメントからは、半導体不足をはじめとした製造部品の不足や部品・原材料の価格高騰を懸念する意見が多々みられた。

景気ウォッチャー調査(21年10月
(画像=ニッセイ基礎研究所)
景気ウォッチャー調査(21年10月
(画像=ニッセイ基礎研究所)

<人手不足に関連した回答者のコメント>

  • 「行動制限や時短営業が緩和されたことで徐々に人出が増え始めた。しかしながら、様子をうかがって恐る恐る出掛けているのが現状であり、一気に回復という雰囲気には程遠い。宴会の予約も顕著にみられるようになってきているが、少人数のグループばかりであり、店側も細かい対応を求められるなど、大変そうである。また、休業や時短営業によってアルバイトを解雇した飲食店がほとんどであるため、いざ忙しくなっても人手不足で対応できないことも多い。複数の店舗を経営している飲食店では、人手不足でいまだに一部の店を休業している。さらに、商材や燃料の価格高騰や品不足、部品不足などによって、店舗にも多大な影響が生じている」(北海道・商店街(代表者))
  • 「Go To Travelキャンペーンがあった前年と比べて70%、前々年比では65%と持ち直しの兆しがみえる。来客数は増加傾向にあるが、前年同様に平均単価が上がらない。緊急事態宣言が長く続いた影響で、飲食店を中心に人手不足で回っていない店が多い」(北陸・商店街(代表者))

<半導体不足などの部品の不足、価格高騰に関する回答者の主なコメント>

  • 「世界的な半導体不足で生産ができない状態である。生産のめどもはっきりしないので、現時点で売る車がない。厳しい状況が続いている」(東海・乗用車販売店(経営者))
  • 「部品が入らず、どんな部品でも3~4か月待ちの状況である。また、毎月のように部品価格がどんどん値上がりしていて、かなり状況として厳しくなっている。同業者に話を聞いても、「年内は何とか部品は持つが、来年の分がどうなることやら」という感じである。自動車関係も半導体等がなくて製造が止まっているが、製造業全体が止まるような気がしている」(北関東・電気機械器具製造業(経営者))

景気の先行き判断DI:上昇幅は限定的

2~3か月先の景気の先行き判断DIは3か月続けて上昇した。緊急事態宣言解除が決定された前月に大きく上昇したことなどにより、今月の上昇幅は限定的となった。

景気ウォッチャー調査(21年10月
(画像=ニッセイ基礎研究所)

景気の先行き判断DIの回答者構成比でみても、改善と回答した割合が50%に近づいている。

先行き判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連は57.9(前月差0.8ポイント)、企業動向関連は53.6(同▲0.4ポイント)、雇用関連は63.1(同3.5ポイント)であった。家計動向関連の内訳では、サービス、飲食が前月より低下したが、依然として60を超えており、先行きへの見方は前月からあまり変化がないといえるだろう。加えて、先行きでも雇用関連の好調さが目立つ。

景気ウォッチャー調査(21年10月
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、回答者のコメントからは、依然として第6波を警戒する声が多く見られるものの、Go To トラベルキャンペーンを含む経済対策やクリスマス商戦への期待の声が聞かれた。他方で、原油価格上昇や物価上昇への懸念を指摘する声もあった。

<Go To トラベルや経済対策に関する回答者の主なコメント>

  • 「新型コロナウイルスの新規感染者数の減少やGo To Travelキャンペーン等の観光施策により旅行者数が増加し、景気は良くなる」(中国・観光名所(館長))
  • 「新型コロナウイルスの第6波は確実に訪れるという予測だが、ワクチン接種率が高くなるにつれて人の動きが活発になり、影響も薄れてくる。選挙後の経済対策に期待している」(九州・スーパー(企画担当))

<原油価格上昇や物価上昇への懸念を指摘する回答者の主なコメント>

  • 「原油価格が高騰していて、売上は前年とさほど変わらず、費用が増えて、人件費も上がっている。これでは、経営が成り立たない」(甲信越・その他サービス[クリーニング](経営者))
  • 「一般商品の値上げや原油価格の高騰で、家計の収支が悪化しそうである」(近畿・一般機械器具製造業(設計担当))
  • 「原油価格急騰と円安の影響で、ガソリン、電気料金、食品等、国内物価が上昇し、インフレが話題に上がっている。日銀の異常な金融緩和も出口が見えてくるのだろうか」(北関東・美容室(経営者))

<クリスマス商戦に関する主なコメント>

  • 「緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が解除され、徐々にではあるが客足が戻ってくることに期待したい。これから冬物、お歳暮、おせち、クリスマスや年末年始と百貨店にとっては最繁忙期であり、新内閣の経済対策にも期待しながら、積極的な対策を実施していき、売上に結び付けたい」(東海・百貨店(総務担当))
  • 「年末に向けて、前年のように新型コロナウイルスの新規感染者数が急増しなければ、来客数の増加は続くと予想される。企業の決算をみる限り、業績の回復が進んでおり、冬のボーナス支給額も増加が予想されるため、クリスマスや歳末商戦に期待したい」(近畿・スーパー(経営者))

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山下大輔(やました だいすけ)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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