本記事は、岸田文雄氏の著書『岸田ビジョン 分断から協調へ』(講談社)の中から一部を抜粋・編集しています。

資本主義
(画像=PIXTA)

新しい資本主義に向けて

2008年のリーマン・ショック後に政権についた旧民主党は、2011年の東日本大震災もあり、非常に厳しい経済運営を強しいられました。

1ドル=70円台にまで円高が進み、日本の輸出産業は中国・韓国の攻勢を受けました。株価は低迷し、デフレの長期化も相まって、日本企業は「六重苦」(円高、法人税率の高止まり、厳しい労働規制、経済協定の遅れ、温室効果ガス排出規制、電力価格の高騰)に苛さいなまれていると言われました。大企業にとって、日本に本社を置くことはメリットがないどころか、むしろ足かせになっているとされたのです。

そのため、2012年に自民党が政権に復帰すると、円高不況、デフレからの脱却が大きなテーマとなりました。

安倍総理は「アベノミクス」と総称される政策を掲げ、金融緩和、財政出動、成長戦略=「三本の矢」をその中身としました。

これによって円安基調が強まり、さらに法人税率の引き下げ、労働規制の緩和、FTA、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定の締結などを次々に進めました。

これが功を奏して、GDP(国内総生産)も企業収益も賃金も雇用も目に見えて改善しました。

具体的にいえば、正社員の数は、この7年間で170万人以上増加。高齢者(65歳以上)の雇用はこの6年で、新たに225万人増えました。

安倍政権は、日本の危機を救ったのです。他方で、民主党は「六重苦」の産業界に対してあまりに無策でした。

なぜ、無策になってしまったのか。

ひとつには、「経済財政諮問会議」という大切な場・仕組みを活用しなかったからです。

総理と日銀総裁がともに出席し、財政政策と金融政策というマクロ経済運営の両輪を一つのテーブルで議論できる貴重な場を、「自民党政権が作ったものだから」というだけの理由で廃止してしまったのです。この判断が致命的でした。

安倍政権は、その経済財政諮問会議を復活させただけでなく、政府と日銀が「アベノミクス」という経済政策目標を共有することで、さらに政策のパワーを強力なものに引き上げました。

とはいえ、未来永劫、「アベノミクス」でいいのか。

大企業が「儲かる」ようになったのはいいことです。しかし、それだけでは十分とは言えません。「儲かる」ことが、政策の目的ではないのです。その儲けた収益が、取引先、下請け等の関連会社、従業員、地域社会、そして株主など様々な関係者の「幸せ」につながらなければ意味がありません。

私が目指すものは、日本型資本主義の復活です。かつて渋沢栄一翁は「合本主義」を唱え、株主利益の追求にとどまらず、公共を含んだ幅広い関係者への利益還元と幸福を追求する資本主義のあり方を提唱しました。「資本」と「労働」、すなわち「カネ」と「ヒト」、資本主義の二大要素ですが、よりヒトを重視した、人間中心の資本主義を目指していかなければなりません。

アベノミクスが始まった当初、「トリクルダウン」ということが盛んに言われました。まず大企業から先に業績を回復させ、それによって下請けの中小企業や、臨時雇いの非正規の人たちの収入も上がる、という考え方です。しかし、残念ながら、「トリクルダウン」の現象はまだ観察されていないと言わなければなりません。

一部の資産家及び大企業に勤めるビジネスパーソンと、それ以外の人たちとの格差が開き、「勝ち組」「負け組」という言葉も一般的になってしまいました。また、大企業と中小企業、東京と地方の格差も拡大してしまいました。「格差」は新型コロナとの戦いのなかでもより深刻な課題として浮かび上がってきました。

この「格差」という名の分断の解消も、私が取り組みたいと思っている大きな政治テーマの一つです。

岸田ビジョン 分断から協調へ
岸田文雄
1957年生まれ。早稲田大学卒業後、日本長期信用銀行入社。議員秘書を経て、93年衆議院議員初当選。以来、連続9期選挙区当選。
自民党青年局長、経理局長を経て、2001年小泉内閣で文部科学副大臣。衆議院厚生労働委員会委員長を経て、07年第1次安倍改造内閣で内閣府特命担当大臣として初入閣。
12年に宏池会会長に就任。12年、第2次安倍内閣で外務大臣に就任し、専任の大臣としては戦後最長の4年7ヵ月にわたって務める。17年、防衛大臣を兼任。
17年8月から20年9月まで、自民党政務調査会長を務める。
21年10月、内閣総理大臣就任。

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『岸田ビジョン 分断から協調へ』
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