本記事は、岸田文雄氏の著書『岸田ビジョン 分断から協調へ』(講談社)の中から一部を抜粋・編集しています。
「47歳」の日本
2020年現在、日本の全国民の平均年齢は47.8歳まで上がっています(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」による)。
ちなみにインドの全人口中間年齢は28.7歳、アメリカは38.5歳、中国は38.4歳です。
日本社会全体が「中年期」に差しかかり、いまの生活をこの先10年後、20年後も維持できるのかという「持続可能性」が関心の中心事となっています。
47歳という年齢は、社会の中核となり、職場でも私生活でも上の世代と下の世代を繫ぐ立場です。それぞれの世代の人が、他の世代が抱える問題に共感し、痛みを分かち合うこと、心を寄せ合うことで、社会は持続可能となります。
自立した個人が緩やか、かつフラットに連携することで、強い全体が生まれるのです。つまり、ここにも「分断から協調へ」、があるのです。
そのような社会を実現するために、限られた国家資源をどのように配分していけばいいのでしょうか。
たとえば、今後ますます膨らむことが予想されている社会保障費です。今後20年で確実に人口が減少していく国は世界6ヵ国に過ぎず、その中でも高齢化率は日本がダントツで高率です。2040年には介護費用は2.4倍(2018年比=以下同)になり、医療費は1.7倍、年金支給額は1.3倍と社会保障にかかるお金が激増するという試算が出ています(「2040年を見据えた社会保障の将来見通し」=内閣府などによる)。
こうしたなかで、世界に冠たる日本の皆年金、皆保険制度を維持していくためには、高齢者であっても、多額の所得があるいわゆる富裕層には、応分の負担をしてもらう必要があると思います。年齢のみをもって区別するのではなく、負担能力に応じて判断する発想が必要ではないでしょうか。
現在は、75歳以上の後期高齢者の医療費負担は一律で1割ですが、2022年度から一定の所得のある人は2割負担とする見通しです。今後、2割負担の対象になる年収や資産をどのように設定するか、政府・自民党で検討を進めていきます。
また、株の売買、配当、債券、預金の利子などによる収益=キャピタルゲインにかかる税率は現在、20.315パーセントですが、この税率の適用範囲見直しについても検討が必要かもしれません。
日本人の所得階層と課税率をみると、1億円を境にして、所得に対する実効税率が下がるという現象が見られます。所得の多い人のほうが金融資産から得る収入が多いため、結果として所得全体に対する税率が低くなっているのです。
アメリカでは、いったん取得した株式を1年以内に手放して利益を得た場合、その利益に対して州税と連邦税をあわせて最高48.4パーセントの税率で課税されます(ニューヨーク州などの税率)。
短期的、投機的な売買で得た利益に対しては厳しく課税するという考え方ですが、たとえばこれを日本でも導入し、短期売買のキャピタルゲインの税率を20パーセントから引き上げることにより、そこで得られた税収を、中間層の負担減に充てることで、社会の公平感を取り戻すことなども検討に値します。
さらに、47歳の日本が60歳、70歳の日本とならないよう、少子化への対応も急務です。安倍政権のもとで進められてきた、支える側に子育て世代を加える「全世代型社会保障制度」の構築をいっそう進め、育児休業制度の拡充、不妊治療への支援強化、児童手当ての拡充など、総合的に取り組まなければなりません。