本記事は、岸田文雄氏の著書『岸田ビジョン 分断から協調へ』(講談社)の中から一部を抜粋・編集しています。
令和の時代の農業
そして、地方の活力を考えるなかであらためて再認識すべきなのは、農林水産業の役割の大きさです。
農林水産業は、我が国の基幹産業の1つというだけでなく、地域を維持し、国土を保全するというきわめて重要な社会的役割を担っています。地域の緑と潤いを守り、お祭りなど地域の伝統を守り、また地域社会の絆も守ってくれているのが農林水産業であり、そこで汗を流している皆さんです。地方のそんな魅力が都市と繫がることによって、日本全体が一体感をもって発展することができるのです。
農業については、従来から以下の2つの考え方があり、どちらを重視するかの議論が交わされてきました。
- (1)農業は産業であり、農業生産活動により、農産物の生産だけではなく、農地や環境の維持、地域文化やコミュニティの維持に貢献している。儲からなくなっているのは国際環境の変化のためなので、農業に対し経済合理性を求めるべきではなく、支援もその観点から行うべき(さらには、食料安全保障の観点からも経済合理性を過度に求めるべきではない、等々)。
- (2)農業は産業の一部であるので、産業として育成すべき。そのためには、競争力のある経営体を育てることが大切で、コスト削減などによる体質強化や経営の安定を図っていく。農業の行われる場である農村については、農業が産業として成長すれば活性化される。
(1)と(2)どちらが正しいということではなく、要はバランスです。実際の政策も(1)の(2)の混合型となっています。
ただ、いまの安倍政権のもとでは(2)の政策(農業の成長産業化)に重きを置いた政策が行われているとされています。このバランスについては、国際環境の変化も見すえながら、適切なのかを考えつづけなければなりません。
また、多様性や選択可能性を用意することも、農業に意欲のある人や若者を惹きつける大切な観点ではないでしょうか。
そのうえで、思いきった「スマート農業」化を進めることにより、経験だけに頼るのではなく、IT技術やデータに裏付けられた、効率性の高い、意欲ある若者が参入しやすい農業を実現していきたいと思います。
地方発世界行き
「よそ者、若者、ばか者」
地域を大きく変革する人のことをそう評します。
よそ者は、外部から第三者として客観的なものの見方ができます。
若者は、しがらみなくチャレンジできます。
ばか者は、誰も考えなかった発想と信念を持ち、打ち込めます。
全国で「町おこし」「村おこし」に成功した土地にはこの人材がいる、と分析されています。
一方で地方では経営や技術におけるプロフェッショナルな人材が求められています。都会の大企業に勤める人材を、地方で求められる職種にマッチングすることで地域活性にも繫げられるのではないでしょうか。その際、兼業・副業などより柔軟な働き方や、選択の余地を作ることが下支えになると思います。
こうした人材や企業のマッチングや交流を、地域全体で進めるのも有効だと思います。一例をあげると福井県は、宇宙産業を新たな産業活性化の柱とし、2020年に超小型人工衛星の打ち上げを目指しています。県内企業が自治体と共同で人工衛星の打ち上げを目指す全国初の取り組みです。
地方活性化の方法は他にも様々あると思います。
たとえば中国をはじめ、香港やシンガポールでは日本の野菜が人気になっています。シンガポールに至ってはこれまで野菜を生で食べる習慣はなかったのですが、最近になって日本の生野菜の美味しさが認知されつつあります。我が国の地域社会を支えている農林水産業に新たな市場が口を開けて待っている。ワクワクするじゃないですか。
生産性向上というと、コスト削減を中心に考えがちです。
売値が1,000円の商品で、いままで700円かかっていた原価を400円で作れるようになれば、付加価値(粗利益)が300円から600円に増え、生産性は2倍になります。
しかし、よく考えてみれば、いままで1,000円で売っていたものを1,300円で売れるようになれば、コストは700円のままでも生産性は2倍になります(300円→600円)。海外への展開はまさにこの価格を取りにいくことに繫がります。
日本が国内だけでマーケットを考えていたら先細りは避けられません。
スタートアップ企業を誘致するため、自治体によっては外国人材の在留資格不要制度を活用したり、賃料の補助など様々な取り組みをしています。私はこうした取り組みを横展開していくべきと考えます。