本記事は、浅村正樹の著書『バカのための思考法』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています

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(画像=PIXTA)

「思考停止」が生み出す怪物

人間の脳は、強い脅威を与えられ制御のきかないストレスに晒されると、理性の中枢といわれる前頭前野の働きが弱まり、思考停止に陥ってしまうことが脳科学の研究でわかっている。

また別の研究では、人間の脳には、難しく考えることを嫌う特性があり、短くて刺激的なわかりやすいフレーズを好むこともわかっている。

前述のように、マスコミが大衆誘導をする場合などに頻繁に用いられる手法で、「○○をぶっ壊す」「既得権益」「岩盤規制」「国の借金問題」という短いフレーズだけで意図的に印象を操作してしまうのだ。

この短くてわかりやすいフレーズを繰り返し聞かされることで馴染んでしまえば、脳は簡単にはそれを否定できなくなるのだ。

つまり、私たちを取り巻く状況が「思考停止」の条件を満たしているのである。

現在、私たち人類は新型ウイルスという見えない脅威に晒されている。

「新規感染者数」のニュースを毎日聞かされ、否が応にも「不安」は強まる一方である。「まん防(蔓延防止)」や「自粛」「不要不急」「時短営業」「リモート」「黙食」といった短いフレーズを互いに使わされ、何とも抗いにくい閉塞感に包まれた日々を送っている。

私たちのストレスは相当深刻な状況にあり、思考停止に陥りやすい条件は完璧に整っているといっていい。

かつて欧州全土を戦争に巻き込み、ユダヤ人を大量虐殺したナチス・ドイツ。理知的なドイツ民族を蛮行に駆り立てた原因は「思考停止」にあったと私は考えている。

第一次世界大戦後、敗戦国のドイツは巨額の戦後賠償を抱えていた。そのため経済は崩壊し、ハイパーインフレが国民の生活を襲い、治安は極度に悪化し、飢餓による死者も増加の一途を辿っていた。

ドイツ国民の多くが先の見えない恐怖と失望に晒されていた。ナチスの指導者ヒトラーは、「思考停止」の国民を「選民思想」とメディアを使って洗脳し熱狂させていったのである。

当時のドイツでは、全国民はラジオから流れるヒトラーのすべての演説を視聴することが義務づけられていた。

国民は繰り返しヒトラーの演説を聞かされ、また新聞や書籍などは検閲され、ナチス政権に不都合な情報や表現は徹底的に排除された。

ヒトラーは著書『我が闘争』(角川文庫 1973)において「プロパガンダ」について以下のように述べている。

「プロパガンダとは、絶え間なく大衆を自らの意のままにすることである。そのためには、都合の悪い情報は遮断しテーマと標語を限定して大衆に伝えること。また、コントロールする大衆に知性を求めないこと、つまり考えさせてはいけない。そして、同じことを何千回と繰り返して伝えることが重要だ」

この手法は政治心理学では「議題設定効果」と呼ばれているもので、国民の関心を特定のものに向けさせ固定化させるのである。

後にナチス台頭の心理的メカニズムを解明した社会心理学者のエーリッヒ・フロムは著書『自由からの逃走』(東京創元社 1952)において次のように解説している。

「大規模な危機が社会を襲った時、人は他者に対して攻撃的になり、権威あるものにすがりたくなる特性を持っている」

ドイツ国民の「思考停止」がナチスを生み出し、「全体主義」という名の「怪物」を跋扈(ばっこ)させる結果を招いたのだ。

そして、現在の日本人もこれと同じ状況にあることを私たちは注意するべきである。「陰謀論」というレッテルで都合の悪い情報は遮断され、わかりやすいフレーズを毎日繰り返し聞かされている。

つまり、それだけ「議題設定効果」がよく表れているということだ。「全体主義」という名の「怪物」が完全にでき上がってしまったら最後、崩壊まで突き進まなければ大衆が目を覚ますことはできないのである。歴史がそれを証明している。

真実のニュースはない、真実は自分の頭の中で組み立てるもの

私たちが日々触れているニュースとは一体何なのか。

ニュースとは自然に発生したり湧き出るものではない。太陽の光や雨や風が「ニュース」を運んでくるのでもない。

途切れることのない物理現象を意図的に切り取らなければ情報として取り出せないのだ。

さらにそれをどのように観るべきかという視点を与えて初めてニュースとなる。つまりニュースとは「意図」なのである

新聞・テレビなどの主要マスコミの本業は、真実を報道することではなくプロパガンダを行うことだ。

また、インターネット上でも情報の検閲や言論統制はしっかりと行われている。

むしろ、ダイレクトマーケティングという意味では、紙媒体よりも電子的媒体の方がプロパガンダの効果が高いはずである。

プロパガンダを目的として情報を統制する側も、自ら検索して情報を入手しようとする側も、何のためにそれを行うのかというと、「意思決定」「決意・決断」をするため、あるいは、させるために行っている。

「意思決定」によって自分の人生は創られるのであり、その集合体によって社会全体が創造されているのだ。「意思決定」とは創造の源であるといえる。

私たちは「意思決定」をするために本当のことを知りたいと考え、また意図的に「意思決定」させようと企むものは「これこそが真実だ」と見せかけるのだ。では「真実」とは何か?

この現実世界に「真実」だと断定できるものは何ひとつない、というのが私の持論であり、かつ「真理」だと思っている。

私にとっての「真実」が、あなたにとっても真実だとは限らない。人間の意識は自分を中心に世界観を構築しているのだ。

これは世界の中心に自分が立っているという認識ではない。世界を観察している観察者は自分ひとりしかいないわけで、その立ち位置でなければ見えないものがあり、立ち位置が変われば違った世界像ができ上がるのだ。

つまり自分にとっての真実しか私たちは理解できないということだ。

私たちは日々大量の情報にまみれて生きている。

どうやって比較したのかわからないが、平安時代の若者が10年かけて触れる量の情報を、現代人はわずか1日で消費しているらしい。この比較だけでは良いのか悪いのか判断できないが、とにかく、私たちの「思考」は外部からの影響をもの凄く受けている。

自分の頭で考えていると思い込んでいるだけで、実は巧みに思考を誘導されているのかもしれない。

たまにニュースで「洗脳から醒めた」という類いの話を聞いたりするが、「洗脳から醒める」ことと「新たな洗脳を上書きする」ことは何が違うのだろうか。

それこそ真実はどちらなのかを判断する基準は自分にしかない。そう、すべて自分で決めるしかない。

だが、どっちに転んでみても、私たちはプロパガンダの中を泳ぎ回って生きていくしかない。

そしてどこまでが純粋な自分だけの「意思決定」なのかということも究極にはわからないのだ。

人間の脳は省エネ志向なので、決断の難しい重要な問題ほど誰かに考えてもらいたいと無意識に思ってしまいがちだ。

誰かに考えさせて、結論を受け入れるかどうかの判断をする方がコスパも良いに決まっている。だから、プロパガンダによって特定の価値観を与えられ、思考を誘導されながら生きている方が「脳」的には気持ちいいのだ。

また「所属の欲求」を持っているので、プロパガンダによって大勢の人と同じ「意思決定」をする方が安心できる。

私たち人間はそういった特性を持ちながら、「意図」によって切り取ったニュースを大量摂取しているという構造を理解することが重要だ。そのうえで、自分の頭の中に「真実」を組み立てていく気持ちが「人生の納得度」を左右すると私は考えている。

バカのための思考法
浅村正樹(あさむら・まさき)
YouTuber、情報空間コーディネーター、パーソナルコーチ、評論家
1978年岡山県生まれ。会社員時代は人材育成やチームビルディングで成果を挙げ、その経験と心理学や脳科学、量子物理学をベースとした独自のマインドコーチング「SATORISM」を生み出す。2020年に独立し、ATORISMに基づく情報空間書き換え術や多次元視力開眼秘法を使った企業コンサルティングやパーソナルコーチングを行っている。自身のYouTubeチャンネル『SATORISM TV』では世界情勢の裏側や真相を独特の考察で掘りする解説が大好評。「観るだけで頭が良くなる動画チャンネル」として視聴者から熱い支持を得ている。現在『SATORISM TV』はニコニコ動画を中心に展開している。インディーズでロックギタリストとしても活動している。

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