本記事は、浅村正樹の著書『バカのための思考法』(クロスメディア・パブリッシング)の中から一部を抜粋・編集しています
圧倒的な時価総額を誇るGAFAM
世界で最も時価総額の高い企業といえば、誰もが知っているGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)である。ビッグ・テック(Big Tech)5社の企業名の頭文字を繋げたものだ。
これら5大企業は時価総額において世界トップランキング6社の中に入っている。ちなみにGAFAM以外にこれらと肩を並べるもの凄く時価総額の高い企業がある。それはSaudiAramco(サウジアラムコ)というサウジアラビア王国の国有石油会社だ。原油の生産量・輸出量ともに世界最大である。
2020年末時点での時価総額ランキングは以下のとおりである。
第1位 Apple
第2位 Saudi Aramco
第3位 Microsoft
第4位 Amazon
第5位 Alphabet(Google)
第6位 Facebook
ご覧の通り、Saudi Aramco以外の企業はすべてIT関連企業である。
時価総額というのは、その企業の価値を表す金額という意味だが、簡単に言うとその企業を丸ごと買うのに必要な金額ということになる。計算式で表せば【時価総額】=【株価】×【発行済み株式の総数】だ。
しかし、GAFAMを1社丸ごと買うなどということはできない。そのくらい高額だ。世界第1位のアップルの時価総額などは、円に換算すると約210兆円(2021年3月末時点)もする。
つまり、時価総額で世界のトップクラスになると絶対に買収される心配がないのだ。むしろ現金がなくても自社の株券で他企業を買収することすら可能だ。
GAFAM5社の時価総額の合計は、今や東証一部上場の全企業の時価総額合計よりも大きいのだ。とてつもない巨大さが窺える。
いずれにせよ時価総額世界トップ6社の内5社がIT関連企業ということが何を意味するのかを考えなければいけない。
世界中のあらゆる産業の根幹を担っているのがIT技術だということだ。すなわち、ITがすべての産業にとって欠くことのできないインフラなのである。
また多くのものがオンラインで繋がり、あらゆる情報が世界中で共有され、それが当たり前のように私たちの生活を支えている。
産業どころか個人の生活さえITなしでは成り立たない世界になってしまっている。IT分野にも様々なジャンルがあるのだが、それぞれのジャンルのトップがGAFAMだ。
情報検索、ソーシャルネットワーク、電子商取引、情報端末メーカー、アプリ市場、ダイレクトマーケティング、広告業、メディアといった分野でそれぞれ圧倒的に優位な地位を築いてしまった。
このように説明すると様々なジャンルを独占して、多様なことをやっている感じがする。しかし、本当にやっていることはひとつだ。
たくさんの人(ユーザー)を集めて、その人たちから様々な情報を許可なく収集すること、収集した情報の分析と整理整頓を行うこと、それらを活用してさらに多くの人を集め、また人々を誘導することである。
ビッグ・テックと呼ばれるこれらの企業は、人類79億人の半数以上の生活にすっかり浸透し、時には私たちの思考や価値観を監視し、また時には情報をコントロールして私たちの行動や思想に影響を及ぼすまでになっていると言っても過言ではないだろう。
例えば、世界中で13億人もの人々が毎日Facebookを30分以上閲覧しているというデータもある。そのように考えると、情報インフラなどと呑気に構えていられないはずだ。
GAFAMの人々に対する影響力は国家をも凌ぐほど強大になってしまっている。それがどのくらい恐ろしいことなのか考えてみる必要はないのか。
それらは株主のために利益を上げ続けることを最優先にする民間企業なのだ。私たちはこのままGAFAMへの依存度を高め続けても本当に大丈夫なのだろうか?
すでに人類の大半はGAFAMの支配下にある?
2020年時点での日本の全人口におけるスマートフォン保有率は約80%となった。とくにこの4~5年で65歳以上の高齢者層と10代の若年層の保有率が大幅に伸びたことが要因と言われている。
世界の先進主要国でのスマートフォン保有率も76%となり、世界的にもスマートフォンの普及率は上がり続けている。
今ではもう死語になってしまったが「IT革命」という言葉が盛んに使われていた2000年代は、インターネットへ接続できるのはPCだけだった。それが現在ではインターネットに接続する端末の大半はスマートフォンである。
PCのOSシェア率ではMicrosoftが76%と圧倒的であるが、インターネット空間で使用されるOSのシェア率ではGoogleがMicrosoftを抜きトップシェアを取った。
これはスマートフォンの普及率が大幅に伸びたことと、スマートフォンを持ったことで、人々はそれまで以上にインターネット接続を楽しむようになったことを意味している。
またスマートフォンの市場拡大に伴ってSNSを利用する人口も大幅に増加している。2020年時点で、SNSのトップに君臨するFacebookと子会社のInstagramは世界中に38億人のアクティブユーザーを抱えている。
またGoogleが運営する動画共有プラットフォームのYouTubeは20億人以上のアクティブユーザー数を誇り、1日当たりの動画視聴時間は10億時間を超えている。
世界全体の人口が約79億人とすると、単純計算で世界中の半数がFacebook(Instagram含む)のユーザーということになり、また20億人以上の人がYouTubeを使って毎日30分以上動画を視聴しているわけだ。
これを逆向きに見れば、スマートフォンを通して彼らSNSは毎日のように私たちのことを見ているとも言える。
私が今月どんな情報に最も多くアクセスして「いいね」を何個押したのか、誰と友だちになったのか、その人との共通の友だちは誰なのか、今の私にとって必要な情報や動画はどれなのか、そんな問い合わせにも瞬時で回答できるくらい私たちのことを知っているだろう。
そのうち家族や友人以上に私のことを知ってくれているようになるのではないか。便利でもあるが、何だかちょっと変だ。
これはSNSに限ったことではないだろう。先述のように、世界中のPCの半数以上にMicrosoftのWindowsが搭載されている。つまり世界中の半数以上のPCを通してユーザーに関する情報を握っている。
検索サイトでトップのGoogleも同じように私たちに関するビッグデータを持っている。
ECサイト世界一のAmazonもスマートフォンの普及の恩恵を受けている企業だ。顧客の約80%がスマートフォンでショッピングをしている。
中国市場からは撤退してしまったものの、世界全体でのシェアはトップである。昨年から続く新型コロナパンデミックの影響で、人々が店舗でショッピングを楽しむ機会は減少し、代わりにインターネット通販で様々なものを調達するようになった。
購入履歴や閲覧履歴から私たちが何をどれだけ欲しているのか、どんな本を読み、どんな色とサイズの服を着ているのか等、家族以上に私たちのことをAmazonは知っている。
このように見ると、GAFAMによって世界中の半数以上の人が、生年月日、国籍、趣味、思想、仕事内容、人間関係、下手をすると年収に関する情報まで知られていることがわかる。
だから私たちの趣味や思想、ライフスタイルに合った情報がいつでも提供される。
Amazonで「おススメ商品」が提示されたり、同じ趣味の人たちが視聴した動画がおススメ欄に表示されたり、思わずクリックしたくなるような広告が表示されるのは、GAFAMが私たちのことをずっと見ているからだ。
これはもの凄く便利である反面、何も考えなくても好みの商品やマッチした情報がどんどん与えられるという弊害もある。GAFAMが把握している「私」という枠組みからはみ出すことが難しくなっていくのだ。
極端に言えば、GAFAMによって「私」が定義され、GAFAMの提案にしたがって行動することで、履歴データによって「私」の定義はより強化され、私たちを「過去の自分」に閉じ込めてしまっていると言えないだろうか。
GAFAMへの依存度が高まっていくほどに、私たちは自分の価値観から遠いものや嫌いなものに触れたり出会ったりする機会を失っていくのかもしれない。
彼らのビッグデータはそんなものを与えてはくれないからだ。ビッグデータは過去の集積であって未来のデータではない。
その意味では、世界中の情報に触れることができる環境になりながらも、人生を変化させるような未知なるものと出会うためには、自分のことを誰よりも分析しておく必要がある。
何を捨てて、何を手に入れるべきか。
1978年岡山県生まれ。会社員時代は人材育成やチームビルディングで成果を挙げ、その経験と心理学や脳科学、量子物理学をベースとした独自のマインドコーチング「SATORISM」を生み出す。2020年に独立し、ATORISMに基づく情報空間書き換え術や多次元視力開眼秘法を使った企業コンサルティングやパーソナルコーチングを行っている。自身のYouTubeチャンネル『SATORISM TV』では世界情勢の裏側や真相を独特の考察で掘りする解説が大好評。「観るだけで頭が良くなる動画チャンネル」として視聴者から熱い支持を得ている。現在『SATORISM TV』はニコニコ動画を中心に展開している。インディーズでロックギタリストとしても活動している。
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