要旨

ESG関連ファンドの動向
(画像=onephoto /stock.adobe.com)

環境・社会・ガバナンス(ESG)を意識した運用を行っている投資信託(ESG関連ファンド)が、個人投資家が中心の投信市場でも注目を集めている。

2020年以降、ESG関連ファンドの新規設定が増えるとともに、運用資産総額も大きく伸びている。特に、ESG関連ファンドでは「環境・外国株式・アクティブ運用」ファンドが人気となっている。

このように注目が高いESG関連ファンドだが、「ESG」が一過性ではなく長く重視されるテーマであるためには、「名ばかりESG関連ファンド」にならないこと、購入する側も「ESG」という冠に踊らされないことが大切だ。

ESG関連ファンドが人気

環境・社会・ガバナンス(ESG)を意識した運用を行っている投資信託(以後、ESG関連ファンドと記載)が人気だ。図表1はESG関連ファンドの新規設定本数と運用資産総額の推移である。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

ESG関連ファンドの新規設定本数は2007年当時はSRIやCSRが注目されたことで、20本設定されて以降は、目立つ動きはなかった。その後、2010年代後半から新規設定本数は再び増加し、2021年は10月末時点で約60本が新規に設定された。

資産クラス別で見ると、株式投資を基本とするファンドの設定が多い。ただし、日本株式のみに投資するファンドの新規設定は減少しており、外国株式を投資対象とするファンドが主である。

運用資産総額は2007年に1兆円を超えたが、SRIやCSRへの注目が落ち着くとともに一旦大幅に減少し、その後は2,000億円台の横ばいで推移した。それが2018年以降に再び増加し、2020年は前年比3.5倍の1.7兆円、2021年10月末時点で同2倍の3.6兆円になっている。ここ2年間は大きく伸びており、個人投資家の間でも投資テーマとしてESGに対する注目の高さが改めて確認できる。

『環境・外国株式・アクティブ運用』の新規設定が増加

図表2は、2021年10月末時点のESG関連ファンドの内、株式に投資するファンド150本についてその特徴をまとめたものである。具体的には評価項目、投資対象分類別に設定本数と運用資産総額を集計した。評価項目はESG全体、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に、投資対象は国内株式、外国株式に分類している。また、新規設定本数および運用総資産額が大きく伸びた2020年以降のESG関連ファンドの動向を分類別に確認するため、それぞれ2019年12月末時点の数字と比較した。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

ESGを評価項目とした国内株式、外国株式と、環境をテーマにした外国株式に投資するファンドが増えていることが分かる。運用資産総額では、特にESGと環境の外国株式に投資するファンドが大きく増加している。ESGの外国株式ファンドの運用資産総額の増加は、2020年7月に設定されたアセットマネジメントOneの『グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)』の影響が大きい(2021年10月末時点で運用資産総額は約1.2兆円)。

環境・社会・ガバナンスの課題別では、環境に関連したファンドが増えている。その理由として、2050年カーボンニュートラルの実現や、菅元首相が2030年温室効果ガス目標について表明したことなどを背景に、脱炭素や再生可能エネルギーに注目が集まっていることが考えられる。

運用方法では、全体の約8割が市場全体の値動き(指数の値動き)を上回る投資成果を目指すアクティブ運用だった。ESG関連指数の増加もあり市場全体の値動き(指数の値動き)と同様の投資成果を目指すパッシブ運用(インデックス運用)のファンドも増えてはいるが、ESG関連ファンドではアクティブな運用が主流であるようだ。ESGは従来の財務情報にはない定性的なデータが多いこと、また、ESG評価機関によってESGに対する評価の方法が違うため一律のルールで取り扱うことが難しいという状況がある。そのため、現在は運用者のジャッジメンタルな要素が大きく影響するアクティブ運用が多いことが考えられる。

「ESG」が一過性の投資テーマで終わらないためには

ESG課題への注目の高さから、ESG関連ファンドの設定本数や運用資産総額は現在大きく伸びている。とはいえ、世の中には様々な投資のテーマがあり、旬の投資テーマとして注目を浴びたものは、やがて終わりがきて次の新しいテーマへと注目が移ってしまうことがほとんどだろう。「ESG」が、一過性ではなく長く重視されるテーマであるためにはどのような取り組みが必要か運用会社と購入者側から考えた。

まず、運用会社、販売会社が「名ばかりESG関連ファンド」にならないようにすることが重要である。日本では、どのような基準をもって「ESG」という名称とするかは、現在は基本的には各運用会社の裁量に委ねられている状況にある。運用会社や販売会社が、販売促進目的で耳触りの良い「ESG」関連の単語を名称に入れるなど実態の伴わないファンドの設定や、販促キャンペーンで資金を集めその後は放置するような売り切り型の商品を増やせば、「ESG」は一時的な流行で終わるだろう。金融庁も投資信託について、ESGの名称を使用してるにも関わらず、ESGの名称がない従来のファンドと構成銘柄がほぼ変わらないファンドについて、運用会社に説明を求めるなどモニタリングを強化するなど、ルールも整備されつつある。

投資信託を購入する投資家側には、受け身ではなく、自ら情報を収集する姿勢が求められる。個人の資産形成の王道は低コストのインデックスファンドへの積立投資であろう。その中で、アクティブ運用の多いESG関連ファンドへの投資は、コストの面では割高に感じる点もあるだろう。ただし、財務情報だけではなく、環境や人権問題など企業の成長と存続に関わる社会課題である非財務情報も含めて分析し投資先を選択するESGの概念をきちんと取り入れて運用されているファンドであれば、中長期的な企業価値向上によって指数以上の運用成績を上げることも期待できる。

逆に「名ばかりESG関連ファンド」は、コストが比較的高いにも関わらず、実態は従来のファンドとほぼ変わらない。ESG関連ファンドへの投資を検討する際は、「名ばかりESG関連ファンド」にひっかからないよう、それぞれの社会への関心や目標、解決したい課題をもとにどのESG関連ファンドが目的に沿っているか考えたうえで、情報開示資料を読むなど、自ら調べることが大切だ。例えば、各社が公表している月次レポートには、運用成果だけではなく、投資している企業をピックアップしてその企業の取組みや、何を評価して投資しているのか等を具体的に紹介しているレポートもある。ESGに注目が集まっている今だからこそ、ESG関連ファンドに興味を持ち購入を検討する際は、まずは「ESG」という冠に踊らされないという意識を持つことが重要だ。

着実な取り組みのもと、ESGが一過性のテーマではなく長く重視され、ESG関連ファンドについても中長期的な視点を持って保有してくれるファンが増えることを期待したい。


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森下千鶴 (もりした ちづる)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 研究員

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