バブル期に多く建てられた中小ビル。ザイマックス不動産総合研究所の調査「オフィスピラミッド2021」によれば、東京23区の中小規模ビル(延床面積300~5000坪)はバブル期(1986~97年)竣工のものが多い。築20年以上のものが8割超となっている。クローズアップされるのが将来の「出口」。オーナー業を続けると仮定すれば、建て替えやリノベーションなどの選択肢があがる。そのなかで、認知度はまだ低いが、「再生建築」という選択肢もあがっている。
建物のもとの躯体を生かし
総合的にバリューアップ
「再生建築」。建物の躯体を生かして、耐震補強や内装などのバリューアップするものを指す。建て替えるには多額の資金が必要となる。一方リフォーム・リノベーションでは耐震不足や老朽化した設備配管の更新など対応できず、「意匠だけ」というケースがほとんどだ。これに対して、再生建築は建て替えよりも費用は安く、用途変更や新耐震基準への対応のほか意匠や設備機能の向上なども実現する。また当然建て替えに比べて、工期も短い。規模にもよるが5、6カ月程度は短縮できる。
この手法の第一人者が建築家・青木茂氏。これまでほとんどの再生建築の案件は青木茂建築工房が一手に引き受けてきた。そして、ここでキャリアを積んだ新しい担い手が生まれてきている。
今年4月に設立「四次元設計」
代表の実績には戸畑図書館等
四次元設計(福岡市中央区)。代表取締役・一級建築士の脇泰典氏は青木茂建築工房で10年以上のキャリアを積んだのち、今年4月に会社を立ち上げ。山口県防府市に拠点を置く、四次元不動産と連携、「四次元グループ」として事業展開をしている。
脇氏の代表的な実績として挙がるのが、青木茂建築工房時代の戸畑図書館の再生だ。「この物件はもともと1933年に竣工した物件です。当時は戸畑市役所庁舎、2005年までは戸畑区役所庁舎として利用されてきました。一時は空き物件となっていましたが、14年に図書館として活用していくことになり、それに向けて建物の再生を行っていくことになりました」(脇氏)。
ここでの取り組みは多岐にわたる。一貫したのは歴史的建築物としての外観を保持しながら、図書館としての使いやすさや意匠もこだわった。たとえば耐震補強でしばしば使われるブレース。「X」字の鉄骨を設置することで耐震性を向上させるが、一方で意匠性では劣る。そこで戸畑図書館では鉄骨アーチフレーム補強を行い、意匠を損なうことなく耐震強度の向上に成功している。また不要な増築部分を解体し、竣工当初のオリジナルな形に戻すことも行った。脇氏は当時を振り返って「私が再生建築のなかで大切にしているのは、既存建物の良い部分を抽出して、新しい価値観を提示し、将来の修繕や使われ方の変化に対応できるように時間軸で考えることです。意匠や構造、設備などの不具合の改善、法適合は最低限やらなければいけないこと。戸畑図書館も再生当時既に築81年でしたが、『さらに100年使い続けられる建物に』と思い手掛けました」と語る。
融資付けや再生後の運用まで
グループのシナジー生かす
今年4月より始動した四次元グループ。脇氏は再生建築の調査・企画・設計・工事監理を手掛け、四次元不動産が融資付けやリーシング、メンテナンスや資産運用に関するコンサルティングも手掛ける。建築設計会社と不動産会社がタッグを組むことで、シナジーを創出していく。
四次元不動産の代表取締役の久保田雅久氏は金融機関にてキャリアを積んできた。再生建築を行う際の融資取り付けについて「建て替えなどに比べると、金融機関に対してより丁寧で詳細な説明が必要なことは確かです」と明かす。確認済証を取得したり施工完了後の収支シミュレーションなどを提出することで、融資付けを実現する。
脇氏は「再生建築は建て替えを検討しているが資金面に悩みを抱えているオーナーに一番メリットがある手法」だと話す。たとえば築45年の賃貸マンション(床面積は2228㎡)。建て替え案か再生案の2案で検討した場合、工事費は建て替えが約5.8億円となったのに対し、再生は、約3.5億円。コストを60%程度に圧縮できる。
もちろん、再生建築が適さない物件もある。たとえば木造物件。その物件を保持していくという目的があれば別だが、再生建築を選択した方がコスト高となる可能性がある。一方、再生建築の事例としてマンションなどが多いが、「テナントビルも十分にメリットを出せる」(脇氏)。ビルの「高齢化」が進むなかで、スクラップ&ビルドだけでなく、建物価値をアップデートしての「長寿命化」も一策と言える。
(提供:YANUSY)
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