代表的な資産運用方法として、株式・債券・不動産などが知られていますが、不動産は株式や債券といった金融商品とは異なり、投資用物件という実体のある建物に投資するため地震や風水害などの自然災害に罹災するリスクがあります。
大切な投資用物件を自然災害から守る手段として火災保険・地震保険が有効ですが、大規模な自然災害が相次ぎ多額の保険金支払いが生じたため、両損害保険の2021年度は制度改正が進められています。不動産投資において重要な役割を持つ両損害保険の仕組みと今後の改正点について解説していきます。
火災保険・地震保険の仕組み
火災保険は風水害や盗難、地震保険は津波や噴火からも建物や家財もカバーできるため、その名前から想像される以上に幅広い補償範囲を有しています。両損害保険を有効に活用するために、その仕組みと特徴について把握しておきましょう。
時価と新価(再調達価額)火災保険・地震保険の損害保険金算出の仕組みについて
生命保険の死亡保険金などは、保険支払事由を満たすと契約した額の保険金が支払われます。一方火災保険や地震保険などの損害保険の保険金は、実損填補という契約した保険金の額を上限として実際の被害・損害に応じた額の保険金を支払う仕組みとなっています。
この実際の被害・損害額を算出する際に、損害が生じた時点での建物・家財の価値を基準とし、使用期間が長いほど価値が減少する「時価」と、使用期間に関わらず損害を回復するのに必要な金額が保険金として支払われる「新価」という2つの評価方法があります。
基本的に新価より時価の方が保険料が安くなる傾向にありますが、使用期間に応じた価値の減少が生じるため、支払われる保険金だけでは同規模・同品質には回復できないため、追加費用の負担やダウングレードなどが必要となる恐れがあります。
火災保険の仕組み・特徴
火災保険の基本的な補償範囲として、建物と収納されている家財に対し、火災以外に台風などによる風水害のほか大雪や雹による雪・雹災、落雷といったさまざまな種類の自然災害のほか、破裂や爆発・盗難・水漏れといった日常生活に潜むリスクにも対応しています。
たとえば火災などで自分の住まいが住めなくなり、修復するまでの期間中に滞在したホテル等の宿泊費や交通費、落雷で電化製品が故障した場合や掃除中などに家電や窓ガラスなどの家具を破損してしまった場合なども保険金支払の対象となります。
注意点として、火災保険は民間の保険会社や共済組合によって運営されているため、契約先によって補償内容や保険料が異なる点にあります。特に支払われる保険金について新価・時価の算出方法の違いについて気を付けましょう。
地震保険の仕組み・特徴
地震保険は建物や家財が、噴火による噴石や地震や津波により倒壊や火災などの損害を受けた場合に補償を受けることができます。火災保険と一部補償範囲が重複しているように見えますが、火災保険では地震や噴火に起因した火災などによる被害は補償対象外となっています。
これは地震や噴火による被害は、広範囲に及ぶため民間の保険会社などの場合、保険金を支払いきることが困難となる恐れがあるため、地震保険は政府が保険金の支払いの責任を負っています。
また、通常保険金の支払いは被害額の詳細な調査を行った上で支払う保険金の額を決定しますが、地震などの広域災害の場合、被害件数が同時に数多く生じることから調査に時間がかかるうえ、被害の実態把握も困難になるため、保険金の支払いが遅れることで被災者の生活再建に支障が生じてしまう恐れがあります。
そこで地震保険では実際の被害額ではなく全損・大半損・小半損・一部損といった損害の程度に応じ時価に対し一定割合の保険金を支払う仕組みを採用しており、大規模災害時でも速やかに保険金が支払われるよう工夫が成されています。
しかし、地震保険の保険金額は併せて契約している火災保険の保険金額の30%〜50%または建物5,000万円・家財1,000万円が限度となるほか、時価がベースとなるため地震保険の保険金の支払いは時価が上限となるため時間経過とともに補償内容が変化していきます。また、建物や家財への被害が時価の5%に満たない場合は保険金が支払われず、門扉やカーポートなどの建物の付属物に対しては保険の対象外となっている点に注意しましょう。
保険料はなぜ変動?保険料の決まり方とは
火災保険・地震保険の保険料は、災害や事故が起きた際の保険金の支払いに充てる「純保険料」と保険会社の事務手数料となる「付加保険料」に分けられており、純保険料率は火災保険では「損害保険料率算出機構」が発表する「火災保険参考純率」が地震保険では「基準料率」が参考になっています。
参考純率・基準料率は、保険金の支払状況や、建物の所在地が今後どの程度の自然災害に見舞われるかを見込んで定期的に見直しがされており、地域によって保険料の変化にバラつきが生じます。
また、保険料は建物の状態によって割引率が設定されており、築年数が浅いものや建物の構造がマンション構造(M構造)・耐火構造(T構造)・非耐火構造(H構造)の順で割引率が大きくなります。
両損害保険の保険料は、契約する保険会社・建物の構造・築年数・建っている場所など、さまざまな要因によって変動するため、両損害保険の保険料の特徴を把握し有利な保険料で契約できるにしていきましょう。
火災保険の変更点について
火災保険参考純率は定期的に見直しが行われており、自然災害リスクが大きいと予想される地域は大きく引き上げられることになります。こうしたリスクを反映し、2021年度の火災保険参考純率は過去最大の10.9%の引上げ率となりました。
これを受け、2022年度以降は東京都の築年数5年未満の場合はM構造で+1.7%、T構造で‐0.6%、H構造で+3.3%程度。築年数10年以上の場合はM構造で+7.3%、T構造で+3.2%、H構造で+5.9%程度の保険料の値上げとなると予想されています。
また保険期間ですが、地震保険は最長5年間で火災保険は10年間となっています。火災保険はかつて36年間の長期契約を利用することができましたが、激変する自然災害リスクの見通しの難しさから契約期間の短縮の改正が行われています。現在は最長10年ですが今後は5年に更に短縮される可能性があります。
両損害保険の保険料は値上がり傾向が続いているため、できるだけ長期契約を結ぶことで保険料の節約につながります。
両損害保険をかしこく利用し、自然災害リスクに備えよう
火災保険・地震保険は大きな損害を被りやすい自然災害リスクに対し、少ない金額で備えることができる有効な制度です。火災保険の加入率は全国平均で約82%と高い加入率となっていますが、地震保険の加入率は全国平均で約33%と増加傾向にはあるものの依然として低水準となっており、特に首都直下地震で地震危険度が高いと見込まれている東京都においても、地震保険加入率は37%程度にとどまっています。
地震保険の加入が進まない理由として「保険料が割高であること」や「保険金だけで被害をカバーしきれない」、「地震保険の内容がわからない」などが挙げられていますが、耐震性能が高く保険料の割引率が大きいマンション構造を選択し、できるだけ長期間の保険期間で契約することで保険料を節約することができます。
両損害保険は、たとえ時価評価であっても自然災害による被害を受けた際は資産運用を再開する重要な足がかりとなります。保険を利用していない方は万が一の際のリスク対策として積極的に検討してみてはいかがでしょうか。
(提供:Incomepress )
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