三菱商事によるセルマック買収

9月22日、商社業界に緊張感が走った。三菱商事 がサケの養殖で世界第3位のセルマックをTOB(株式公開買い付け)で買収すると発表したためだ。このTOBが成立すれば、三菱商事の非資源分野への投資額は、ローソンへの出資につぐ過去2番目の大きさとなる。

世界人口の増加による食糧不足のリスクが高まる中、各商社はタンパク源に富んだ水産物の確保に商機を見出している。これまで穀物中心だった世界の食料争奪戦に、いよいよ水産物が加わる。

持続可能な水産事業モデル獲得へ

今回の三菱商事によるセルマックの買収予定金額は14億ドルで、完全子会社化を目指す。買収資金は新たな借り入れはせずに手持ちで対応する予定だとしている。セルマックはノルウェーとカナダでも事業を展開しているため、三菱商事の買収は魅力的な投資であるというのがアナリスト達の見解だ。

三菱商事の幹部は、今回のセルマック買収で、天然資源に頼らない持続可能な水産事業モデルを構築すると語っている。同社は、サケ養殖事業を世界第2位の規模に拡大することを明らかにしており、セルマックの売上高の5~6割を占めているチリでのサケ養殖の強化が目的だ。既にサルモネス・フンボルトを傘下に収めている三菱商事としては、セルマック買収を成功させて、マリンハーベストに次ぐ世界第2位のサケ養殖事業者の地位を得たいところだ。買収後は、このサルモネス・フンボルトとの協業により養殖ノウハウの共有、設備や飼料の共同購入、さらには加工拠点を融通しあうことなどが戦略となりえる。その上で著しく需要が拡大している中国や東南アジアに、既に三菱商事が持っているタイや中国の加工・販売拠点を活かして攻勢を掛けるであろう。

各商社がサケ事業に参入 サケ世界的需要高まっている。

背景には、東南アジアでの急激にコンビニエンスストア普及により、同時に弁当やおにぎりといった手軽な食品の需要が高まっていることがあげられる。それらの弁当やおにぎりの具材となるサケの需要も高まっているのだ。欧米でも健康志向の高まりに合わせて寿司などがサケの消費を拡大させる傾向にある。このような世界の水産物需要の高まりを見越し、総合商社各社がサケ事業に参入している。

三井物産 では一度子会社に移管した水産事業部門を本体で復活させた。2013年にはチリでサケの養殖合弁事業を開始し、ベトナムではエビ加工の合弁事業を始めている。

また丸紅 では2014年の春に、米イースタンフィッシュを買収している。米イースタンフィッシュは水産物の販売を手がける企業だ。

豊田通商 でも2015年6月から、近畿大学と共同でマグロの卵を人工的に孵化させて稚魚を育てる事業を開始し、海外に販売する計画だ。

これらは商社が水産物に力を入れ始めた例の一部に過ぎない。そのために商社各社は世界中に水産事業の拠点を持っているが、仲介取引を中心としており、今後は養殖自体に手を広げ始めることになっていくだろう。今後、世界の食糧争奪戦は、いよいよ水産物でも激化することになっていくだろう。