本記事は、江口克彦氏の著書『こんな時代だからこそ学びたい 松下幸之助のリーダー学』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています
心に若さを持ちつづける
松下幸之助は、生涯、青春の中にいた人でした。アメリカの詩人、サミュエル・ウルマンの詩に共感し、次のような「青春」の詩もつくっています。
青春とは心の若さである 信念と希望にあふれ、勇気にみちて 日に新たな活動を続けるかぎり 青春は永遠にその人のものである
70歳になっても80歳になっても若々しい人もいれば、30歳、40歳で若さをなくしてしまっている人もいます。
その違いはどこから生まれてくるのかと言えば、この詩でうたわれているように、心に若さがあるかどうか、つまり、常に自分の夢を持ち、勇気と希望にあふれてその夢を追いつづけているかどうか、言い換えれば、日に新たであるかどうかによるのではないでしょうか。
そのことは企業とても同じです。企業の寿命は20年とか30年とか言われています。けれども、経営理念を堅持しつつ、常に時代を読みながら、日に新たに変身を重ねていけば、製品に寿命はあっても、企業に寿命はないとも言うことができます。
そして、企業が若さを保てるかどうかは、経営者をはじめ、社員の一人ひとりが将来のビジョンを明確に持って、希望にあふれてそれをたえず追いかけているかどうかにかかっていると思います。
リーダーは啓蒙家たれ!
リーダーには、日々熱心に仕事をする中で、みずからの商売なり仕事なり経営なりについて〝こうやってみたい〟〝こうありたい〟〝10年先にはこのような会社にしていきたい〟といった希望や理想があるはずです。リーダーにはそれらを次々と将来ビジョンとして力強く発表していくことが求められます。
ビジョンが明確になれば、それを追いかけようという希望が生まれます。さらに、そのビジョンと現実とのギャップが問題となり、その問題を解決しビジョンを現実のものにしようという意欲と、社員の間のまとまりが生まれます。それが若々しい活力を生みだすのです。そこからまた人が育っていきます。
もちろん、リーダーには1年先、2年先、あるいは5年先に世の中はこうなるだろうということを察知する、先見性が欠かせません。
しかし、最近のように変化の激しい社会では、思ったことが必ずしもそうなるとは限りません。そこで、先見性を持つことに加えて、〝10年先、20年先にはみずからこうしよう〟という情熱を持って、その実現をはかっていくことがきわめて重要になります。
リーダーは、現状を分析し、未来を予測するアナリストであってはいけません。ビジョンを掲げ、新しい時代をつくっていこうと社員に呼びかける啓蒙家でなくてはなりません。
マラソンの選手が、あの長いコースを懸命に走りきることができるのは、ゴールに1分でも1秒でも早く飛び込みたい、という目標があればこそでしょう。
そのような気持ちが選手の持てる力を存分に発揮させる源みなもとになっているのではないでしょうか。
このことは、何もマラソンに限ったことではありません。企業の経営においても、社員が大いに実力を発揮するためには、目標を持つことが大きな力になります。その意味で、会社としての目標、それにもとづく個々の社員の目標を、社内に十分行き渡目標を示せないリーダーは去るべしらせるのがリーダーの大切なつとめのひとつと言えるのではないでしょうか。
松下幸之助は「適切な目標を示さず、社員に希望を与えない指導者は失格である」とまで言いきっています。
実際、目標が与えられれば、社員の人たちの間には、その目標を達成しようということで、それぞれに創意工夫する姿や、皆で協力する姿が生まれてきます。そこからおのずと人も生き、成果もあがってくるでしょう。
しかし、目標がなければ、社員の人たちは持てる力をどこに向けて発揮し、結集したらいいか分かりません。したがって、その活動にはもうひとつ力が入らない。当然、十分な働きも生まれず、仕事の成果もあがらない、ということになってしまいます。
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